第37話:半信半疑
入学式の翌日。
果歩、陽子、茉央の3人は放課後に教室でおしゃべりをしていた。
茉央「新しい部活を作るにはね、部員が5人以上は必要なんだって。応援部の見学に行ったときに先輩が言ってた」
果歩「もう部活の見学とか行ってるんだ!やる気ちゃんの行動力すごいね」
茉央「善は急げって言うし。って、やる気ちゃんちゃうわ!」
陽子「5人ってことはあと3人勧誘しないといけないんだ。新しい部活だから声を掛けるとしたら一年生だけど、正直みんな興味を持ってくれるかどうか」
果歩「片っ端から声を掛けていくしかないか…あ!村山さん!村山さん!」
果歩は近くにいた美羽に声を掛けた。
美羽「え?私?」
果歩「うん!村山さんってさ、部活はもう決めた?」
美羽「別に決めてないけど(ダンス部は気になってるけど…)」
果歩「じゃあさ、『ヒーロー部』に入らない?」
美羽「は?なんで私が…」
果歩「部活として認めてもらうにはあと3人部員が必要なんだって。もし良かったらさ、名前だけでも…」
美羽「カッコ悪…」
果歩「え?」
美羽「取り敢えずの数集めでヒーローごっこ?意味分かんないんだけど。子供じゃないんだから。そんな幼稚なことに私を巻き込まないで…」
茉央「ちょっと、村山さん、言い過ぎだよ!」
美羽「だったら、なんで名前だけでもなんて言ったの?誰でも良かった、そういうことでしょ?そんないい加減な気持ちで作った部活に何の意味があるっていうの?」
茉央「それは…」
美羽「私は太陽にはなれない…悪いけど、もう話し掛けないで」
そう言うと、美羽は教室から出ていってしまった。
美羽(私って…なんて嫌な人間なんだ)
美羽は自分自身、決して愛想がいいタイプではないことは理解していた。
そして、そのことを他人に分かって欲しいとも思っていなかった。
いつの日か一人でいる方が楽だと感じていた美羽は、わざと他人から距離を取られるような態度で接してしまうようになっていたのだ。
美羽(ダンス部見たらすぐに帰ろう…)
美羽はダンス部の見学に行くために、体育館へと足を運んだ。
すると、去年の『坂女祭』で美羽にダンス部のチラシを手渡した大沼晶保が一人で練習をしていた。
美羽(あの人だ…どうしよう、声掛けようかな)
美羽が体育館の入り口でこそこそとしていると、存在に気がついた晶保が走り寄ってきた。
晶保「新入生?もしかして、見学ですか?」
美羽「あ、いや、その…」
晶保「あれ?もしかして去年『坂女祭』に来てくれた子だったりします?」
美羽「私のこと覚えてるんですか?」
晶保「覚えてるよ~!すっごく美人な子だなって思ってたもん。ダンス部に入部希望ってことでいいのかな?」
美羽「いや、まだその…悩んでいて」
美羽の親はきっとダンス部への入部を許さないだろう。
それでも美羽はダンスに対して諦めることが出来ずにいた。
美羽は自らの選択で変わろうとしていたのだ。
晶保「そうなんだ。良かったら練習見ていってよ。私、今年からキャプテンになったんだよね。頼りないかもしれないけど、みんなが後押ししてくれて」
すると、美羽の背後から誰かが遠慮しがちに声を掛けた。
桜「あ、あの…すみません」
声を掛けたのは美羽と同じクラスの川﨑桜だった。
桜「ダンス部に入部届を出したいんですけど」
晶保「あなたも新入生?わ~嬉しい」
桜「あなたも?あ、村山さん?」
美羽「どうも…」
桜「村山さんもダンス部に入るの?そういえば、去年の『坂女祭』は偶然隣の席で見てたよね?」
美羽「え?」
美羽には身に覚えがなく驚いた様子だった。
桜「ほら、ベンチのところで。友達も一緒に」
美羽(ああ、そんなことあったっけ。たしかに、こんな綺麗な顔立ちした子だった気がする)
晶保「川﨑さん?入部届が2枚あるけど、お友達の分?」
桜「そうなんです。私は友達の付き添いみたいなものなので、マネージャー志望でお願いします」
晶保「そういうことなんだ。で、そのお友達は今日は来ないの?」
桜「少し遅れてくるそうです」
晶保「そっか。じゃあ、入部届は責任もって預からせていただきます」
桜「よろしくお願いします」
美羽(この子も太陽だ…先輩も…)
美羽は急に怖くなってしまった。
美羽「駄目だ…無理かも」
晶保「ん?どうかした?」
桜「村山さん?」
美羽「ごめんなさい…今日は帰ります」
そう言うと、美羽は不思議そうに見つめる二人から逃げるように体育館を後にした。
美羽(やっぱり、私には一人が合ってるんだ)
今にも泣き出しそうなところをグッと堪えて、美羽はバス停へと向かった。
すると、バス停には果歩が立っていた。
果歩「あ、村山さん…偶然…だね」
美羽(偶然?そんなことある?さっきまで仲良く三人で話してたのに、どうして一人でバス停に?)
果歩「次のバス?もしかしたら家までの方向が一緒なのかもね」
美羽(なんか怪しい…あんなこと言った私に話し掛けてくるなんて)
美羽は果歩のことを警戒した。
美羽「何を企んでるの?」
果歩「え?」
美羽「話し掛けないでって言ったはずよ。それなのに…勧誘はどうしたの?諦めた?それとも自分でも馬鹿馬鹿しいってことに気がついた?」
美羽は自己嫌悪の気持ちでいっぱいになっていた。
果歩「諦めてないよ。勧誘しに来たの。村山さんを…ヒーロー部に!」
美羽「は?なんで…入るわけないでしょ。誰でも良いんだったら他の人に適当に声を掛ければいいじゃない」
果歩「それじゃあ駄目なんだよ…」
美羽「…」
果歩「ごめんなさい!!!」
果歩は突然大声で謝った。
美羽「ちょっと!大きな声出さないで」
果歩「恥ずかしかった。村山さんに言われたこと、その通り過ぎて。中途半端だったなって。だから、私決めたの…村山さんがヒーロー部を認めてくれなかったら、きっぱり諦めるって」
美羽「はあ!?そんなこと私に押し付けないでよ!巻き込まないでって言ったじゃん!私はダンス部に入るの!他のことには興味ないのよ!」
果歩「じゃあ、なんで見学せずに帰ってきたの?」
美羽「なんで…それを…」
果歩「ごめん…本当は偶然なんかじゃなくて、こっそり村山さんの様子を伺ってたの。嘘ついて、ごめんなさい」
美羽「なんで?なんでよ!放っておいてよ!私はあなたたちみたいに明るい太陽みたいにはなれない!ずっと誰かの影に隠れて生きてきたの。ダンスだって、本当はやりたかったけど…私には似合わない世界なんだって思い知らされたのよ!笑えばいいじゃん!馬鹿にすれば!日陰者を笑って、偽善だらけのヒーローごっこでもしなさいよ!」
美羽は泣きながら膝から崩れ落ちてしまった。
美羽「私って…最低だ…もう…こんな自分が嫌だ…本当は、一人が怖いのに…誰か…助けてよ…」
とっくに限界だった美羽はついに本当の気持ちが溢れ出てしまった。
果歩「一人になんてしないよ」
果歩の顔も涙でぐしゃぐしゃになっていた。
果歩「知っちゃったから…村山さんの本当の気持ち。聞いちゃったから、村山さんの助けを呼ぶ声…」
美羽はどうして初対面に近いただのクラスメイトに本音をぶつけてしまったのかと自問自答しながらも、果歩の言葉に耳を傾けていた。
果歩「助けを呼ぶ声のするところに駆け付ける…それがヒーローだから!かほりん、降臨!!!」
泣きながらヒーローポーズを決める果歩に美羽は思わず吹き出してしまう。
美羽「先回りしてたくせに…」
美羽のツッコミで一瞬の沈黙が生まれ、二人は同時に吹き出した。
ハンカチで涙を拭った美羽は落ち着きを取り戻すと、膝の汚れを払いながらスクッと立ち上がった。
美羽「ごめんなさい…カッコ悪いところばかり見せて」
果歩「カッコ悪いのはお互い様だから」
美羽「認めるなんて偉そうなこと言える立場じゃないけど、ヒーロー部、頑張ってね」
果歩「何言ってるの?村山さんも入るよね?ヒーロー部に」
美羽「なんでそうなるのよ。認めたんだからそれでいいでしょ」
果歩「いや、決めた!絶対に村山さんをヒーロー部に入部させる!決めた!今、決めた!」
美羽「ちょっと!なに勝手なこと言ってるのよ。ヒーローなんて日の目に当たるようなこと、私には似合わないんだって」
果歩「チッチッチッ、村山さんはヒーローについて何も知らないんだね。この世にはダークヒーローっていうジャンルがあるのだよ!」
美羽「ダークヒーロー?」
果歩「詳しくは調べてみてよ!私、二人のところに戻らなくちゃ。気をつけて帰ってね!明日また勧誘しに行くから~!」
美羽「ねえ、ちょっと!待っ…もう!」
美羽の言葉を待たずに果歩はその場から走り去ってしまった。
家路へと向かうバスの中で美羽は『ダークヒーロー』について調べてみることにした。
美羽(バットマンってダークヒーローなんだ…ヴェノム?これもヒーローなの?どちらかっていうと悪役みたいだけど…けど…)
美羽は窓から沈み掛けた夕日を見つめながら静かに微笑んだ。
美羽(『黒』のダークヒーローか…カッコ良いじゃん!)
続く。
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