第10話:ノックをするな!

遥香「もう二度と、この扉をノックしないで…」


遥香は睨み付けるような目をしながら、生徒会室の扉を強く閉めた。

予想もしていなかった展開に麗奈はただただ扉の前で立ち尽くすしかなかった。


麗奈(ど、どうしよう~)



30分前。



里奈「麗奈ちゃん、ちょっといいかな?」


里奈が教室の外から麗奈を申し訳なさそうに呼び出した。


麗奈「どうしたんですか?」


里奈「ちょっと、折り入ってお願いがあるんだけど。生徒会に部活の承認をもらってきて欲しいの」


麗奈「え?私がですか?」


里奈「ほ、ほら、私って入学式でやらかしちゃったじゃん?だから、生徒会に目を付けられてるんじゃないかと思って」


それを聞いて麗奈も納得した様子だった。

しかし、里奈は他にも何か隠しているようだったが、麗奈はそのことに気がついていなかった。


麗奈「この書類を提出するだけでいいんですか?」


里奈「そうだね。その場で押印してもらえれば正式に部として認められたってことだから、そこまでは見届けて欲しいの」


麗奈「分かりました」


麗奈は書類を受け取ると、生徒会室に向かった。


里奈(ごめんね、麗奈ちゃん…)



コンコンッ



麗奈は生徒会室の扉をノックした。


??「どうぞ」


麗奈「失礼します」


生徒会室に居たのは副会長の遥香だけだった。


遥香「どうしました?」


遥香は爽やかな笑顔で麗奈を迎え入れた。


麗奈「新しく部活を立ち上げるために承認をいただきに来ました」


遥香「あなたも?珍しいこともあるのね」


麗奈「え?」


遥香「さっきも承認をもらいに来た子がいたのよ。『おもろい部』っていう何だかよく分からない部活だっただけど。一応、最低限必要な条件には達していたから承認はしたのよ」


麗奈(増本さんの部活も5人集まったんだ)


遥香「それで?あなたはどんな部活を立ち上げたいの?」


麗奈「あ、はい!『応援部』です」


その瞬間、遥香の表情が曇った。

そして、先ほどまでの爽やかな表情が嘘かのように鋭い目付きになり、麗奈を睨み付けた。


遥香「里奈に言われたの?」


麗奈「え?里奈さんのこと知ってるんですか?」


遥香「有名人だからね。良い意味でも悪い意味でも」


麗奈「それってどういう…」


遥香「なんでもないわ。悪いけど部の承認は出来ません。お引き取りください」


会話を遮るように遥香は扉を開けて麗奈を追い出そうとした。


麗奈「え?ちょっと待ってください。こちらもちゃんと条件は満たされているはずです。どうして承認してもらえないんですか?」


遥香「分かるでしょ?里奈が関わると何かしらのトラブルが起きるの。そもそも、屋上の使用許可だって取っていないはずよ」


麗奈「トラブルって…もしかして、応援団が無くなったことと何か関係があるんですか?」


核心に触れたのか、遥香は麗奈の腕を掴むとそのまま生徒会室から麗奈を追い出した。


遥香「もう二度と、この扉をノックしないで…」


部の承認がもらえず、涙目になっていた麗奈は扉の前で一人立ち尽くした。


??「Hello?どうかしましたか?」


声のする方へ振り向くとみかんを片手に満面の笑みを浮かべる生徒が麗奈の目の前に立っていた。

それは、2年生で帰国子女、そして、この坂之上女子高等学校の生徒会長でもある清宮レイだった。


麗奈「え?いや、その~」


麗奈の歯切れの悪い返事を聞いて、レイは麗奈の腕を掴んだ。


レイ「Oh~、悩み事があるんだね?そういうときは生徒会に相談だ!Let's go~!」


レイはそう言うと、生徒会室の扉を強めにノックした。



コンコンッ



中からの反応はなかったが、レイはお構いなしで扉を開けた。


遥香「ちょっと!ノックしないでって言ったばかりじゃ…あ、生徒会長でしたか。失礼しました」


遥香は深々と頭を下げる。


レイ「もう、敬語はstopしてって言ったじゃん。私たちは同じ生徒会のfriendなんだからさ」


遥香「そうはいきません。他の生徒に示しが付きませんので」


レイ「真面目だよね、かっきーって。ところで、どうしてそんなにangryなの?」


遥香「それは…その生徒が部活の承認をもらいにきたのですが、応援部だと言うので。松田里奈が関わっているため、許可できないと言って断ったんです。屋上も無許可で使用していますし」


レイ「I see...なるほど、なるほど。これが承認に必要な書類?」


レイは麗奈から書類を受け取ると、その場で判子を押した。


遥香「生徒会長!なに勝手なことしてるんですか!」


レイ「そんなbigなvoiceを出さないで。えーと、屋上の使用許可証も今から書いちゃおう!私たちは生徒たち全員のsupportをするのが仕事でしょ。違う?」


遥香「そ、それはそうですが…しかし!」


レイ「よし、書けた!これからも応援部が屋上で練習するのはNo problemだから安心してね」


麗奈「あ、はい…ありがとうございます」


レイの勢い任せな行動に麗奈は呆気に取られていたが、とにかく応援部は正式な部活として認められたのだった。

麗奈はレイと遥香にお辞儀をすると、そそくさとその場から立ち去った。


遥香「私は認めませんから。それに、大丈夫なんですか?応援部なんて承認して」


レイ「Why?どういう意味?」


遥香「生徒会長って確かチアリーディング部でしたよね。このことを柚菜が知ったらどうなるか…」


レイ「え?柚菜ちゃんがどうかしたの?」


遥香「生徒会長は去年の冬にアメリカからうちに転入してきたのでご存知ないのかもしれませんね」


遥香は深くため息をつくと、承認印の押された書類を握り潰した。


遥香「柚菜は応援団を恨んでいるんです」



続く。

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