第11話:永遠の白線

早朝、1年生の山口陽世は一番乗りで登校し、野球部が使用しているグラウンドに綺麗な白線のダイヤモンドを引き始めた。

陽世は中学でも野球部に所属していたが、自分以外全員が男子だったため、その体格差を埋めることが出来ずに三年間補欠という悔しい思いを味わってきた。

野球を続けるべきか悩んでいた陽世に手を差し伸べたのが同じ中学の同級生である森本茉莉だった。

茉莉から女子高で野球をやることを勧められた陽世は坂女に入学することを決めた。

そして、野球部に入部すると、その実力が高く評価され、即レギュラー入りしたのだった。

陽世は白線を引きながら、空の下で何度も問いかける。

この白線の先に永遠はあるのだろうか?


茉莉「おはよう!」


遠くの方から茉莉が手を振りながらやって来た。

茉莉は野球部のマネージャーだった。


陽世「おはよう」


茉莉「ぱるちゃん、早起き出来て偉いでしゅね~」


陽世「子供扱いしないでって言ってるでしょ」


茉莉「先輩たちは?まだ誰も来てないの?」


陽世「うん。私が一番乗り」


茉莉「そっか。あのさ、陽世はうちの学校になぜ応援団が無いのか知ってる?」


陽世「応援団?知ってるわけないでしょ」


茉莉「去年まではあったんだって。それがとある理由で解散したらしいのよ」


陽世「とある理由?」


茉莉「私も詳しいことは分からないんだけどね。どうやら野球部も関係してるらしいの」


陽世「野球部が?」


茉莉「先輩たちなら何か知ってるかなって思ったんだけど、まだ誰も来てないんだね」


茉莉は少し残念そうにしながらボールを磨き始めた。

それからしばらくして他の野球部員たちもグラウンドに集まり出したが、茉莉が噂の真相を聞き出す前に練習が始まってしまった。

噂が気になって練習に集中出来なくなっていた陽世はキャプテンの田村真佑に思いきって話しかけてみることにした。


陽世「キャプテン、ちょっと聞いてもいいですか?」


真佑「ん?陽世ちゃん、どうしたの?」


陽世「うちの学校にはどうして応援団がないんですか?」


一緒、真佑の表情が強ばった。


真佑「どうして、そんなことを聞くの?」


陽世「いや、ちょっと変な噂を聞いたもので。野球部が応援団の解散に関与しているって本当ですか?」


真佑「誰がそんなことを言っていたの?」


真佑の目付きが鋭くなる。


陽世「えーと、その~」


陽世は慌てて誤魔化そうとするが、上手く言葉が出てこない。


真佑「噂話に花を咲かせている暇があったらしっかり練習しなさい。油断しているとすぐにレギュラーの座を奪われるわよ」


陽世は噂の真相を知りたかったが、念願だったレギュラーの話を持ち出されてしまったため、これ以上は深入りすることを止めた。


放課後。

野球部の練習に向かうため教室で準備をしていると、楽しそうに噂話をする生徒たちの会話が陽世の耳に飛び込んできた。

それはまさに陽世も知りたがっていた応援団についてのことだった。

陽世はその生徒たちに気づかれないように、準備をする素振りを見せながらそっと耳を傾けた。

すると、その生徒たちの口から驚くべき言葉が飛び出した。


『野球部の田村真佑がチアリーディング部の柴田柚菜に大怪我を負わせたことが引き金となった』


陽世(真佑さんが怪我を負わせた?けど、それと応援団の解散にどういう関係が?)


茉莉「陽世!準備出来た?練習行くよ~!」


陽世はさらに聞き耳を立てようとしていたが、茉莉に呼び出されてしまい、肝心の応援団が解散した理由までは辿り着かなかった。

けれど、この話は決して他の誰にも話してはいけないものだと、陽世は立ち聞きしてしまったことを後悔した。

こうして、大きな秘密を抱えてしまった期待のエースは静かにグラウンドに白線を引くのだった。



続く。

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