第5話:ファンタスティック3色パン

今は非公認ではあるものの、正式に部として認められた上で活動することが里奈の思いだった。

そのためには最低でも部員が5人必要になるようで、里奈は綺良にも応援部に入らないかと誘ったが、数合わせのための入部は綺良的に『おもろくない』からと断られてしまった。

綺良自信は里奈の話を聞いて、応援部の活動よりも新しく部活を立ち上げるという方に興味が湧いたようだった。

そして、教室には戻らず、しばらく校内を探検すると言いながらどこかへ行ってしまった。

一人、教室に戻った麗奈は机の上に置きっぱなしになっていた入部届に大きな字で『応援部』と書いた。


未来虹「あ、居たよ!おーい、麗奈~!」


未来虹が教室の外から麗奈に声を掛けた。

後から小走りで美佑も現れる。


麗奈「みくにん、みゅうちゃん!どうしたの?」


キョトンとした様子の麗奈を見て、未来虹は大きくため息をついた。


未来虹「どうしたの?じゃないわよ。麗奈がぼっちなんじゃないかと思って様子見に行ったら、鞄とかそのまんまで居なくなってたから心配してたのよ」


麗奈「そうなんだ。ごめんね、心配かけちゃって」


美佑「私は大丈夫だって言ったんだけどね。未来虹は麗奈に対しては過保護ちゃんだから。で、友達は出来たの?あんたのクラス、変な子が居るでしょ。いきなり一発ギャグなんかして、何事かと思ったわよ」


麗奈「あはは。増本さんのことだね。さっきまで一緒に居たんだよ」


美佑「え?あの子が友達なの?ぼっちよりそっちの方が心配なんだけど」


麗奈「大丈夫だよ。増本さん、すごく良い子なの。私のために屋上まで引っ張ってってくれたし」


未来虹「屋上なんて行ってたの?なんでまた…」


麗奈「私ね、応援部に入ろうと思って」


未来虹「応援部?」


美佑「応援部って、もしかして今日屋上で叫んでた、あれ?」


麗奈「そうだよ!まだ部としては認められてないみたいなんだけどね」


麗奈の話を聞いた未来虹の顔が段々と青ざめる。


未来虹「辞めなさい、麗奈。非公認なんて怪しすぎるよ。部活以外にも何か勧誘とかされてない?お高い壺とか売られてない?」


美佑「また始まった。過保護ちゃん」


未来虹「だって、だって!麗奈はチア部に入るもんだと思ってたから。だから、私もチア部にするつもりだったのに」


美佑「まったく。部活くらい自分のやりたいものを選びなさいよ。なんで麗奈と一緒じゃなきゃいけないのよ」


未来虹「だって、麗奈が心配なんだもん」


未来虹の『だって』が多くなる。

麗奈が心配というのも嘘ではなかったが、未来虹は理由が欲しかったのだ。

未来虹はこれまでも自ら何かを決断したことはほとんどなく、誰かの決断に同乗することが多かった。

そうすれば失敗したときに自分が決めたことではないと言い訳になるからだ。

部活についてもそれは同じで、麗奈がチアリーディング部に入部すると勝手に思い込んでいたため、入部届には『チアリーディング部』と書いていた。

しかし、麗奈の思いもよらない発言で頭を抱えてしまった。


未来虹「えー、どうしよう…美佑、私はどうすればいい?」


美佑「私に聞かないでよ。私はチア部一択なんだから。チア部に入って、憧れの柴田様とお近づきになるんだから!」


美佑の言う『柴田様』とはチア部のキャプテンである柴田柚菜のことだ。

去年、坂女の文化祭を見学しに行ったとき、柚菜たちが披露していたパフォーマンスに心を掴まれた美佑は坂女に入ったら必ずチア部に入部しようと決めていた。


未来虹「チア部…チア部…ううぅ」


なかなか決断に至らない未来虹に苛立った様子で美佑が一括する。


美佑「だったら私が決めてあげる!貸しな!」


美佑は未来虹の手から入部届を取り上げると、『チアリーディング部』の文字を消して『応援部』と書き直した。


未来虹「ちょっと、美佑!何やってるのー!」


美佑の勝手な行動に未来虹は大慌てだった。


美佑「あんたの決断が遅いからよ。私はこれからチア部の見学に行くんだから時間がないの!あんたは応援部!決まり!じゃあね」


そう言うと、美佑は体育館に向かって小走りで走り去っていった。


未来虹「ちょっとー!どうすればいいのよ」


麗奈「せっかく美佑ちゃんが決めてくれたんだし、入っちゃえば?未来虹ちゃんも、応援部に」


麗奈が少し意地悪そうに未来虹を勧誘する。

未来虹が自分で決断することを避ける傾向にあることをよく知っているため、わざと美佑が決めたということを強調した。


未来虹「うーん。じゃあ入ろうかな、応援部…麗奈が心配だし」


こうして、未来虹は決断の理由を手に入れた。


麗奈「あとで美佑ちゃんにお礼しなくちゃね」


未来虹「えー、なんでよ~」


のんびり屋でマイペースな麗奈、心配性で他人任せな未来虹、冷静でちょっぴり大人な美佑。

まるで3色パンのように三者三様な麗奈たちはとても良くバランスが取れていた。


時を同じくして、校内を探検していた綺良はとある人物に呼び止められていた。

それは、入学式のとき、唯一、綺良の一発ギャグで大笑いしていた林瑠奈だった。


瑠奈「増本綺良、私とおもろいことやらへんか?」



続く。

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