第15話:乗り遅れたバス
未来虹『今日は休み?』
美佑『ごめん。バス乗り遅れた』
未来虹『校門の前で待ってるね』
美佑『はーい』
美佑がバスに乗り遅れたのは初めてだった。
いつもならバスが来る10分前にはバス停に到着しているのだが、この日は珍しく朝寝坊をしてしまった。
完璧主義の美佑は寝坊した自分が許せずに苛立っていた。
美佑はため息をつきながら、次に来たバスに乗り込んで学校へと向かった。
そして、学校に到着すると急いで校門へ向かった。
しかし、そこに未来虹は居なかった。
美佑は携帯を取り出して、未来虹からの連絡がないか確認した。
未来虹『ごめん!応援部の招集が掛かったから先に行くね』
美佑「嘘つき」
美佑は返事を返さずに教室へと向かった。
始業のチャイムが鳴る5分前、未来虹が慌てて教室に入ってくる。
未来虹「ごめんね、美佑。急に呼び出し掛かっちゃって」
申し訳なさそうに手を合わせて謝る未来虹だったが、美佑は何も言葉を返さなかった。
未来虹「今日の放課後さ、応援部でチア…」
キーン、コーン、カーン、コーン
未来虹は何かを言いかけたが、始業のチャイムに遮られた。
美佑「ごめん。授業始まるから」
美佑の素っ気ない態度に未来虹は戸惑ったが、それ以上は話しかけられる雰囲気ではなかった。
美佑はこの日、休み時間になると机に顔を突っ伏したままずっと眠っていた。
それはまるで、未来虹が話しかけるのをブロックするかのようだった。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆
放課後。
チアリーディング部のキャプテンである柚菜は練習前のストレッチを入念に行っていた。
そんな柚菜の元に同じくチアリーディング部で生徒会長でもあるレイが嬉しそうに駆け寄ってきた。
レイ「ねえ、聞いた?今日、これからサプライズで応援部が道場破りに来るって!」
柚菜「なんでそんなに嬉しそうなのよ」
レイ「だって、道場破りなんてまるでTVドラマみたいでアメイジングなんだもん」
柚菜「チア部に道場破りなんて聞いたことないよ。そもそも、ここ道場じゃないし」
レイ「けど、柚菜ちゃんと応援部のリーダーってドッグとモンキーなんでしょ?」
柚菜「ドッグとモンキー?ああ、犬猿の仲ってことね。別にそんなんじゃないから」
柚菜とレイが応援部について話していると、副キャプテンの早川聖来が何事かと近づいてきた。
聖来「なんかおもろいことでもあるん?」
柚菜「なんかね、今からうちに応援…」
レイ「ああ!それ以上はダメだよ!」
レイが慌てて柚菜の口を手で塞いだ。
レイ「これはトップシークレットなんだから。聖来にも言っちゃダメなのー!」
聖来「そんなん言われたら余計に気になるやん。教えなさいよ!」
レイ「ダ~メ!サプライズなんだから」
柚菜「そういうことみたいだから。聖来、ごめんね」
聖来「もう!2人とも愛が足りひん!」
聖来の口癖が決まったところで、チアリーディング部の練習が始まった。
聖来「あれ?そういえば、美佑ちゃんは?」
柚菜「今日は掃除当番だから遅れるみたい」
聖来「なるほどね。感心、感心」
その時、チアリーディング部の元に学ラン姿の3人組が姿を現した。
応援部の里奈と麗奈、そして、未来虹だ。
3人は深々と一礼すると、キャプテンの柚菜を呼び出した。
聖来「なんや変な格好した子たちやな」
レイ「道場破りだよ!」
聖来「道場破り?どういうこと?これがさっき言ってたトップシークレットってやつなん?」
レイ「そうだよ!これからドッグとモンキーのどらかが倒れるまでバトルするんだよ」
聖来「タイマンってこと!?なんで止めないのよ!あんた、生徒会長でしょ」
レイ「えー、だって面白そうなんだもん」
聖来「面白そうって…まあ、確かに。タイマンなんて滅多に見れるもんじゃないか」
レイと聖来が変な方向に期待を膨らませる中、里奈はとても緊張していた。
そんな里奈を柚菜は真っ直ぐな目で見ていた。
里奈「あ、あの、柚菜ちゃん。今日は応援部から話があって来たの」
柚菜「謝罪なら要らないよ。あれは私の不注意なんだから」
里奈「う、うん。それは田村さんからも念押しされてる。今日はね、お願いがあって。私たち応援部と一緒に野球部を応援して欲しいの」
その言葉を待っていたと言わんばかりに、柚菜の表情が明るくなった。
柚菜「そんなの、当たり前じゃん」
そう言うと、柚菜は里奈に向かって握手を求めて手を差し伸ばした。
里奈がほっとした様子でその手を握り返そうとした、その時だった。
美佑「なんですか、それ…」
声のする方へ振り向くと、練習に合流した美佑が里奈たちを睨み付けていた。
美佑「野球部のせいで柚菜さんが怪我させられたんですよね。どうして、そんな人たちを応援しなくちゃいけないんですか?」
柚菜「あのね、それは違うの」
美佑「それに、その人ですよね。柚菜さんを野球部の所に連れていったのって。その人が柚菜さんを誘ったりしなければ、怪我だってすることなかったのに!」
柚菜「だから、違うんだって!」
美佑「応援部と一緒だなんて、私は反対です」
未来虹「ちょっと、美佑…なんか朝から変だよ」
未来虹が美佑の腕を勢いよく掴んだが、咄嗟に美佑は払いのけた。
美佑「嘘つき」
未来虹「え?」
美佑「待ってるって言ったくせに」
未来虹「あれは…仕方ないじゃん。応援部で集まらなきゃいけなかったんだから。それに、今そのことは関係ないでしょ」
美佑「関係ない?そうだよね。私は応援部じゃないもんね。応援部、応援部って…馬鹿みたい」
未来虹「馬鹿ってなによ!」
美佑の言葉に未来虹も口調が荒くなってしまう。
麗奈「2人とも落ち着いて!みゅうちゃん、どうしちゃったの?」
美佑「全部あんたのせいでしょ!」
美佑の怒鳴り声が響き渡り、その場が静まり返る。
麗奈は驚きのあまり固まってしまった。
我に帰った美佑は取り返しのつかない事をしてしまったことに気付き、その場から逃げ出そうとした。
しかし、その瞬間、美佑の意識は遠のき、体育館の床に勢いよく倒れ込んでしまった。
いち早く美佑の元に駆け寄ったのは里奈だった。
そのまま、里奈と柚菜が美佑を支えながら保健室へと連れていった。
聖来「今のが…タイマン?」
レイ「いや、多分、違うと思う…」
聖来「せやんな。全然、おもろくなかったもん…」
美佑が倒れた原因は風邪を引いたことにより高熱が出たためだった。
朝寝坊した原因も、体が重く、すぐに起き上がることが出来なかったからであった。
美佑は保健室で少し横になるようにと指示を受けた。
里奈と柚菜が保健室から出ていくと、美佑はすぐに眠りについた。
美佑は深い眠りの中で一人バスに揺られる夢を見た。
あのとき、バスに乗り遅れなければ、こんなことにはならなかったのだろうか。
そんな想いが美佑の頭の中をぐるぐると駆け回っていた。
あのとき、応援部に入ろうとしていた2人を引き止めて、一緒にチアをやりたいと伝えていれば、こんなに寂しくはなかったのだろうか。
夢の中のバスは行き先も告げず、ただ暗闇の中を走り続けていた。
続く。
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