第3話 真の追放理由
「……おい、レイラ。いつまで泣いてるつもりだ?」
俺たちは荷物持ちのケイトをパーティーから追い出した。あいつが街の人込みに姿を消したのを確認してから、レイラが泣きだしてしまった。
「だ、だって、ケイトがいなくなっちゃったんだよ? もう私たち、二度と会えないかもしれないんだよ?」
「そんなのわかんねーよ!」
思わず声がでかくなってしまった。
レイラが身体をビクッとさせて俺を見る。
「俺たちが無事に魔王を倒して故郷に帰れば、昔みたいにケイトと過ごせるかもしれないじゃねーか!」
「でも、それが無理そうだから彼を逃がしたんですよね。追放するって言って」
「俺はお前らほど長い時間をケイトと過ごしてきたわけじゃない。だけどアイツが本当に良い奴だってのは知ってる。少しだけでも、話し合う時間を作れば良かったんじゃないか?」
セリシアとアドルフがそう言ってきた。
俺だって話し合いでケイトが素直にパーティーを抜けるならそうするさ。でもあいつは、俺の親友はそんなことができる人間じゃない。
収納魔法以外に何もできないのに、無防備だった俺に向けて放たれた火炎魔法から俺を守ろうとして身を焼かれるような奴だぞ? セリシアやレイラを守るため、戦士じゃないのに前衛に出て敵の攻撃を受けるような奴なんだ。
「どれだけ話し合ってもアイツは絶対に俺たちのもとを去らないよ。ああするしかなかったんだ」
俺たちは今日、魔王軍四天王のヴァラクザードを討伐した。何とか全員が生きて勝てたが、ギリギリの戦いだった。
レイラの攻撃魔法は全てはじかれ、アドルフの剣はヴァラクザードの手刀で叩き切られた。
パーティーの全員が満身創痍になりながらも、俺の聖剣の一撃で四天王のひとりを倒すことができた。ところで聖剣エクスカリバーは偽物だったわけだが、俺はどうやって偽物の聖剣でヴァラクザードを斬ったんだ?
……まぁ、それは今考えることじゃない。問題なのはヴァラクザードが死に際に放った一言。
『ふははは。この我に、ここまでのダメージを与えるとは……見事だ、勇者よ。しかしこのヴァラクザードは四天王最弱の存在。残る魔王軍四天王たちみな、我の数倍は強いぞ』
死にかけなのに、かなり長いことしゃべりやがった。てか全然一言じゃないな。
この時点で俺たちの心は折れかけていた。かつてないほど強敵だったヴァラクザードより、残りの四天王たちの方が強いというのだから。
しかし、俺たちが絶望したのはここからだ。
『更に魔王軍四天王の上には八大魔将様がいる。我ら四天王が束になっても、たったおひとりに勝てぬほどの豪傑たちだ』
四天王が魔王配下の最強ではないらしい。
俺たちが苦戦したヴァラクザードが四人いても勝てない魔族がいるという。
もうね。俺は諦めたよ。魔王を倒すのは、どう足掻いても俺たちじゃ無理だって思った。
『八大魔将様の上には十六天魔神様がいて、その十六天魔神様が例え百人いても勝てぬのが魔王さ──』
『死に際の一言がなげーよ!!』
俺たちが奴の言葉に心を折られることを危惧したのか、ケイトがヴァラクザードを殴って止めを刺した。元々ヴァラクザードは死にかけていたから、非力なケイトの拳でも倒せたんだろう。
だけど時すでに遅し。
俺たちの心は完全に折れていた。
何をしても魔王には勝てない。それどころか残りの四天王にすら勝てないかもしれない。
でも俺は勇者だ。
世界の平和のため、戦いから逃げることはできない。それは神託を受けたレイラとセリシアも同じ。
アドルフは家族を魔物に殺されていて、例え勝てない戦いだと分かっていても最後まで俺たちに付き合うと言ってくれた。
俺たちは魔王軍と戦うのを辞められない。
せめて戦う能力のないケイトだけでも逃がそう。
ヴァラクザードと、奴が引き連れていた魔物の群れからケイトが素材を剝ぎ取っている間に、俺たちは話し合ってケイトを逃がすことを決定した。
追放することにしようと言い出したのは俺だ。
ちょうど追放の理由もできた所だったからな。
ヴァラクザードが高性能の収納袋を持っていたんだ。
それがあればケイトは居なくても良いと言える。
本当のことを言えば、最適なタイミングで回復薬や予備の装備を渡してくれるケイトと、ただアイテムの出し入れができる収納袋なんか比べられるはずもない。圧倒的にケイトの方が俺たちを助けてくれる。
それでも俺がケイトをパーティーから追い出す理由はそれくらいしか見つからなかった。
なんだかんだあって、聖剣を勝手に売ったって理由で追放した。
……あれ。そう言えは俺の聖剣、どこで売ったの?
やべぇ、ケイトに聞くの忘れてたわ。
まぁいっか。どうせ聖剣があっても魔王はおろか、八大魔将って奴らにも勝てなさそうだし。
「とにかく俺たちは四人で魔王軍の討伐を続ける! まずは装備を強化するぞ」
立ち止まることはできない。
俺たちは神託を受けた勇者パーティーなのだから。
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