第12話 聖剣の売却理由
「どーぞ。お茶です」
「ありがと。これ、いつもの?」
フリーダの家の中に入り、ケイトはお茶を出されていた。
「そう。いつも君たちに売っていたものだ。あぁ、安心してくれ。毒とか入ってないから」
「それは疑ってないよ」
先ほど短剣で自分を刺し殺そうとした者が出したお茶を、ケイトは躊躇わず口にする。フリーダが毒も扱う商人だと知っていたが、同時に彼女が毒で人を殺すようなエルフではないと信じていた。
「うん。懐かしい味だ」
「懐かしい?
「
長寿のエルフ族にとって、感覚的に二年はそんなに長い期間ではない。だからケイトと品物の売買を巡って交渉したことを、昨日のことのように鮮明に覚えていた。
「ふーん。そんなもんなのか」
フリーダが自分のお茶を半分くらい飲んで一息つく。少し心を落ち着かせた彼女が、知りたかったことをケイトに質問し始めた。
「ケイト。君の仲間はどこにいる?」
「さぁ、どこだろうな? 俺は分からない」
「一緒に旅をしていたんじゃないのか?」
「そうだったんだけど……。実は俺、パーティーを追い出されてしまったんだ」
ケイトの顔が暗くなるのを見て、フリーダは彼にも何か事情があるのだと察した。
「なんで追い出されたのか聞いてもいいか? もし君がここに来たことと何か関係があるのなら、私はそれを知っておきたい」
「いいよ。俺がパーティーを追い出されたのは、勇者の聖剣を勝手に売ったから」
ほかにも追放された理由は思い当たるが、一番の理由はコレだとケイトは考えていた。追い出される際にルークスが聖剣のレプリカを叩き折ってキレていたから間違いないと。
「せ、聖剣を売った?」
「正確には質に入れた。過去の勇者が使用していたアイテムや装備を収集している貴族がいてな。そいつに旅の資金援助をしてもらう代わりに聖剣を渡しちゃった」
「君は頭が回る男だと思っていたが……。とんだ馬鹿野郎だったのだな」
以前あの手この手で商品の値引きをしようと交渉してきたクレバーな男の行動だとは思えず、フリーダはケイトの評価を少し下げようとした。
「いやいや。だってルークスは素手で魔物を引き裂けるんだぞ? 拳でミスリル塊を砕くんだぞ? それも幼い頃の話で、今はもっと成長してるからオリハルコンの塊もいけるかも」
「は、はい?」
「それにあいつの剣術はとても見られたもんじゃない。聖剣を持っていても、巨大な鉄の塊を力任せに振っているのと変わらない。俺はルークスが聖剣の腹で魔物を叩き潰すのを何度も見た」
「聖剣の腹で、魔物を」
「それに聖剣って勇者であれば羽のように軽く扱えるらしいんだけど、何故かルークスはそうならなかったみたい。クッソ重いままの聖剣を常に持ち歩いていた。ちなみに持たせてもらったことがあるけど、俺は聖剣をひとりで持ち上げられなかった」
聖剣が認めた者が使うのであれば、それは羽のように軽くなる。しかしそうでなければ屈強な兵士が五人以上いないと運べないほど重いのだ。ルークスはその重さのまま聖剣を利用していた。
旅の途中、どうしても重い聖剣を持ったままでは通れない場所を通過する際、ケイトがそれを収納魔法で預かることになった。その時に彼は聖剣をレプリカと入れ替えたのだ。
ちなみに預かる時、ケイトが持ち上げられない聖剣をルークスが異空間に放り込んで対応した。ルークスに聖剣 (のレプリカ)を返還する時にはケイトが異空間から取り出してルークスに手渡していたが、何故か誰もそれに疑問を抱かなかった。
「神託を受けても聖剣に認められなかった勇者は過去にもいたらしいが……。聖剣に認められていないのに聖剣を使う勇者と言うのは、聞いたことがないな」
「だろ? 筋肉バカなんだよ。あいつ」
魔物や魔族に特攻がある聖剣とはいえ、非常に重いそれを扱うには勇者ルークスにも負担であった。格下の魔物なら問題ないが、竜など上位の魔物が相手の時は聖剣の重さのせいで行動が遅れることがあった。
それを危険と判断したケイトは、こっそり聖剣を売ることにしたのだ。
実はルークスは、神託によって歴代勇者の中でも最高の身体能力を与えられていた。ケイトと旅を始めた時にはもう、素手で竜を倒せるほどであった。そんな彼が竜に苦戦を強いられたのは、ただ頑丈なだけの非常に重い聖剣を使っていたせいだ。
聖剣を売ってしまうというケイトの行動は、勇者ルークスを強くしていた。
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