第42話 大精霊救出
俺は悪魔の住まいらしき所を歩き回っていた。
かなり警戒して探索したのだが、最初に収納した悪魔以外には遭遇することはなかった。とはいえ油断はできない。気配を消すことに長けた悪魔が潜んでいる可能性だってあるんだ。
「この部屋で最後か」
歩き回った結果、一番奥にあるこの部屋以外には誰もいなかった。
最後の部屋にだけ扉がある。その扉は封印とかそういうのに詳しくない俺でも感じ取れるほどの強力な封印が施されていた。
とても強い封印。おそらく普通に封印を解除しようとしたら、この扉を開けられる人族はいないんじゃないだろうか。
というわけで俺は普通にやらない。
扉に手を触れ、異空間に収納した。
扉の向こうも真っ暗な空間だった。
光石で前方を照らす。
奥の方に何かがいるのを確認した。
「ま、眩しい。……だれ?」
俺が世界樹に逃がした中位精霊より幼い声が聞こえた。大精霊シルフは大人の女性の姿をした精霊だと聞いていたから、この時の俺は彼女が最精霊ではないと考えていた。
でも悪魔がいる建物の暗い部屋に閉じ込められていた女の子を見つけたら、とりあえず助けちゃうよね。
「俺、ケイトって言います。人族です。助けに来ましたよ」
眩しくならないよう、光を床の方からゆっくりと上げていく。
部屋の奥の壁の前に太い柱があり、そこにひとりの少女が拘束されていた。彼女のそばまで歩いていく。
「人族? 人族がどうやってここまで」
「まぁ、それは君を助けた後で教えるよ。それより君は悪魔に捕まってここにいるの? えと、人族だよね?」
拘束されていたのは五歳くらいの女の子。
見た目は人族に見える。
「……悪魔に力を奪われたので今はこんな姿になっていますが、私は大精霊シルフです」
「えっ!?」
人族の女の子かと思って、普通に軽い口調で話しかけちゃった。
「ご、ごめんなさい! すぐに助けます」
「それは無理よ。こんな場所に来られる貴方でも、この悪魔の拘束は──えっ?」
大精霊の両手を吊るすようにしていた拘束具を収納した。
「おっと。大丈夫ですか?」
拘束具に支えられていた彼女の身体が自由になり、前に倒れてきたので慌てて抱きかかえた。ほとんど重さを感じない。この子が精霊だというのは本当なんだろう。
「あ、あなた今、何をしたの? 私が何をしても破壊できなかった拘束具を一瞬で」
「それも後で説明します。大精霊シルフ様なんですよね? 俺は世界樹にいた下位精霊さんの頼みで、ここまで貴女を助けに来ました」
拘束具に何らかの術式を混ぜておいて、それが解除されたことを術者が検知できるようにする魔具師がいる。人族でもそれができる奴がいるんだから、魔力や魔具の扱いに長けた悪魔なら同じようなことができてもおかしくない。
大精霊の拘束が解かれたことを知って、今この瞬間にも悪魔がやってくる可能性があるんだ。
一刻も早くこの場を立ち去るべきだと判断した。
「それじゃ、世界樹に帰りますね」
俺は大精霊を抱えたまま収納魔法の取り出し口を展開し、すぐにその中へと飛び込んだ。
──***──
「はい。とーちゃーく!」
ケイトたちは無事に世界樹まで帰ってきた。
ふたりがいる付近に精霊たちはいない。悪魔が収納魔法の出入り口を使って追いかけてきたら下位精霊や中位精霊に危険が及ぶかもしれないと考えた彼は、魔界に行くときに使用した取り出し口とは別の場所に設置した取り出し口を利用して帰ってきたのだ。
「貴方、転移が使えるの!?」
「転移とはちょっと違うんですが、似たようなもんですね」
いろいろ説明すべきだろうが、言わなきゃいけないことがありすぎてどれから話すべきか悩むケイト。聞きたいことを質問してもらった方が早いかもしれないと考え始めていた。
「私を助けに来てくれたけど……あ、悪魔はどうしたの? 偶然出かけていて、いなかったとか? た、倒したなんてことはないよね?」
先に大精霊の方から質問されたので彼はそれに答えることにした。
「貴方を連れ去った悪魔には遭遇しませんでした。中位精霊さんを見張っていた悪魔はいましたが、そいつは俺が倒しましたよ」
大精霊を連れ去るほど強そうな悪魔にケイトは遭遇していない。彼はシルフが言うように、悪魔が出かけているタイミングで救助に行けたんだと考えた。ただ、運が良かったのだと。
「待って。見張りの悪魔って何? そんなのがいたの?」
「なんか光を嫌う悪魔でした」
「えっ。それって──」
「シルフ様ぁぁぁあ!!」
凄い勢いで下位精霊が飛んできた。
少し離れた場所に中位精霊もいる。
飛べない彼女はその足で必死に走ってくる。
「シルフ様、おかえりなさい」
中位精霊が涙をボロボロと流しながらシルフに抱き着く。そんな様子をケイトは少し離れた場所から微笑ましそうに眺めていた。
一方シルフはケイトの発言の意味を理解しようと、自らの知っている情報を口に出す。
「あそこには十六天魔人の一体、プラエフェクトスって悪魔しかいなかったはず」
その呟きはケイトの耳には届かなかった。
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