第41話 見張り(?)の悪魔を収納完了!


 中位精霊の羽に残された痕跡を辿って魔界に転移した。


 俺が出た場所は光のない暗い場所。もしかしたら周りに悪魔がいるかもしれないので警戒しておく。とりあえずいきなり攻撃されるようなことはなかったので一安心だ。


 悪魔が使った転移門の残渣を追って転移する時は、かなりの確率でその悪魔の近くに出てしまう。いつもであればすぐ悪魔との戦闘になってしまうのだが、今回は違った。



「だ、だれかそこにいるの?」


 俺が周囲の様子を把握しようとしていると、女の子の声が聞こえた。


「中位精霊さんですか?」


「そうだけど……。貴方は?」


 良かった。どうやら最初の賭けは俺が勝ったようだ。賭けたのは中位精霊のそばに転移できるか、悪魔のそばに転移してしまうかについて。俺は無事に、精霊の方に来ることができた。


 ちなみに中位精霊の声は下位精霊との会話のような頭に響く声ではなく、普通に耳で聞こえるものだ。中位以上の精霊は身体を持つらしいから、人族のように発声ができるのかも。


「俺はケイトって言います。助けに来ましたよ」


 

 悪魔が転移に使う座標計算の結果が悪魔ではなく、中位精霊の本体の方にくっついていたおかげだろう。


「私を、助けに?」


 俺の目の前がぼんやりと明るくなった。


 台のようなものの上に小さな女の子が立っていた。その人族の頭くらいの身長しかない女の子が輝いている。たぶん彼女が中位精霊なんだと思うけど、よく本などで見るような精霊の羽が彼女の背にはなかった。


「貴方がケイト?」

「はい。ケイトです」


 俺の方に手を伸ばそうとして、ハッとした表情を見せた小さな女の子の身体から光が消えた。再び俺の視界は暗闇に戻される。


「ご、ごめんなさい。周囲を照らすのはアイツに禁止されているの」


 精霊の声が震えている。

 その声からは強い恐怖心を感じた。


「アイツっていうのは、大精霊様を誘拐した悪魔ですか?」


「……うん」


 絞り出すように答えてくれた。


「アイツはシルフ様を連れ去った。追いかけるために転移門に飛び込んだ私も、アイツに捕まっちゃった」


 悪魔は魔界に転移した後、特殊な空間に大精霊シルフを拘束した。その身の回りの世話を中位精霊にやらせていたのだという。


「羽がなくなって飛べない私はシルフ様のお世話も満足にできなかった。悪魔に力を吸われ続けて弱っていくシルフ様を、私はずっと見ていることしかできなかった」


「でも俺は貴女のおかげでここに来れました。羽を失って三十年経っても存在を維持し続けたあなたのおかげです。貴女が捕まった時、人間界に羽を残してくれたから俺が助けに来れたんです」


「ほんとに? ほんとにシルフ様を、助けてくれるの?」


「えぇ。悪魔には勝てないかもしれませんが、大精霊様を奪い返して逃げるぐらいはしてみせます」


 力を持った悪魔といっても、短期間で何度も魔界と人間界を転移できるわけじゃない。魔界の内部でなら何度も転移が可能な悪魔がいても、世界を飛び越えるような転移門の展開は容易ではないんだ。


 だから大精霊を連れて逃げてしまえば、数年は時を稼げるだろう。その間に今後の対応を考えればいい。


「ありがとう。魔界まで来れちゃうケイトなら、それもできるかもね」


「あの、声が。だ、大丈夫ですか!?」


 暗闇から聞こえる中位精霊の声はとても弱弱しく、急速に生気を失っていった。


「私、もう疲れちゃった。あとはケイト、お願いします」


 俺が『助けに来た』と言ったせいかもしれない。彼女は何年も耐えてきた苦痛から解放されようとしているみたいだった。


「ごめんなさい。もう少しだけ耐えて」

「えっ」


 俺は手を伸ばして中位精霊の身体を掴んだ。そして収納魔法の取り出し口を展開し、その中に精霊を押し込む。


「大精霊様は俺が絶対に助け出します。貴女は一足先に、世界樹にお帰り下さい」


「そんな! で、でも私は──」


 中位精霊の言葉の途中で、俺は彼女を人間界へと転送した。


 およそ三十年間も彼女が頑張ってくれたおかげで大精霊様を助けられる。彼女が一番の功労者なんだ。申し訳ないけど、今は消えてほしくない。


 世界樹に送り届けたから、彼女が消えようとすれば下位精霊たちが必死に止めるはず。それに自分が安全な世界樹にいるのに、大精霊の安否が分からない状態じゃ消えようにも消えられないだろう。


 我ながらゲスい考えだが、中位精霊に存在を維持してもらうにはこうするしかないって思った。一番いいのは、彼女に案内してもらって一緒に大精霊を救出しに行くことだったんだけど……。まぁ、それは仕方ない。


 大精霊がこの付近にいるのは間違いないだろうから、手あたり次第探していこう。まずは今いるこの場所の把握から。


 収納魔法で異空間から光石ひかりいしというアイテムを取り出した。



 俺がいたのは中央に中位精霊が立っていた長方形の台があるだけの小部屋。出入り口がひとつあり、扉はない。出入り口の向こうは先が真っ暗の長い通路のようだった。


 とりあえず廊下を進もうとして動き始めると、部屋に転移門が現れた。


「光を灯すなと言っただろ──」


 転移門を通っていきなり悪魔が現れたので、その頭部を収納魔法で異空間に飛ばした。


「急に出てくんなよな。ビビるだろーが!」


 現れたのは頭に二本の角を持つ赤い目の悪魔。ここは魔界で、やって来たのが悪魔。そして俺は人族だから悪魔の敵だ。逆に言えばこの場に突如現れた悪魔は俺の敵なんだ。だから躊躇なくやった。


 取り出し口を完全に閉じ、悪魔の頭部と胴体を切り離す。


 切り離された胴体は、黒い塵になって消えていった。悪魔なら頭部だけでも数万年は生きると言われているが、魔界でも人間界でもない異空間で、ずっと存在を維持していられるかな? ま、俺が出そうとしなきゃ永遠に出てくることはないだろう。


 さっそく見張りの悪魔(?)に見つかったが対処が速かったし、まだ本命には気づかれていないはず──だと信じたい。


 大精霊を誘拐する悪魔なのだから、どれほどの力を有しているか分からない。


 なるべくこっそり、静かかつ迅速に大精霊様を救出しなくては!!



 こうして俺の魔界潜入ミッションがスタートした。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る