第44話 大精霊の訪問
「ただいまー!」
「お帰り、ケイト」
お城に帰ると、フリーダが出迎えてくれた。
「なかなか帰って来ないから心配してたんだぞ。子どもたちは昼食に来ない君のことをずっと待っていた」
俺は朝ここを出ていったが、今はもう昼をとうに過ぎていた。大精霊の救出まではそんなに時間がかかっていないが、その後が問題だった。世界樹からここに戻ろうとする俺を引き留める精霊たちから、なかなか離れられなかったんだ。
「ごめん。色々とやらなきゃいけないことがあったんだ」
「色々? まさかケイト、大精霊様に会えたのか?」
「うん。大精霊様には会えたよ」
ちなみに会えただけじゃなく──
「お邪魔しまーす!」
「ん? なんだこの少女は」
「こちら、大精霊のシルフ様です」
「…………は?」
フリーダがフリーズした。
大精霊がうちに来ちゃったんだ。
「もぉ! 様はいらないって、何回も言ってるじゃん!」
「あはは。ごめんごめん」
頬を膨らませるシルフが可愛くて、その頭を撫でておく。彼女は頬を赤らめて嬉しそうにしていた。
ふふふっ。
この大精霊様、ちょろいな。
「ちょ、ちょっと待てケイト。こ、この御方が」
「シルフだよ」
「初めまして! 大精霊のシルフです。貴女はケイトの奥さんのフリーダだよね?」
「は、はい。フリーダと申します」
礼儀として膝をつかなければいけないのか分からず、フリーダはかなり狼狽していた。動きが面白いことになってる。エルフ族の前にシルフが姿を現すことってほとんどなかったから、こういう時の対応が決まっていないらしい。
「そんなに畏まらないで良いよ。私はケイトと契約を結んだの。だからフリーダとも仲良くしたいな」
「契約を!?」
凄い勢いでフリーダが俺を見てきた。
あっ。もしかして契約って、浮気になります?
「違う、ケイト。私はその程度で怒ったりしない」
相変わらずフリーダさんは俺の表情から思考を読みすぎじゃないですかね?
「大変失礼ですが、貴女が大精霊様であるという
「大精霊の証かぁ。今は力を失ってるから、ここに世界樹を生やしたりはできないし……。んー、どうしようかな」
な、なんか今、とんでもなくヤバそうな単語が聞こえた気がする。でも今はできないらしいので、とりあえず安心だな。
「あっ! これはどうかな」
シルフが両手を前に出すと、手のひらの上に数枚の葉っぱが現れた。
「これは、まさか──」
「世界樹の葉?」
「うん。そうだよ」
それは俺が世界樹の頂上で見た葉と同じ形をしていた。
「す、すごい。世界樹の葉が、こんなにも」
フリーダが商人の顔つきになっている。感動と羨望、そしてシルフの手に乗る世界樹の葉を何としても手に入れたいという強い意志を感じる。
「ケイトが大精霊様と契約を結んだということは、彼が望めばその手の上にあるものを頂けるということですか?」
「これ? ケイトには何枚か世界樹の葉をあげたけど、まだほしいの?」
「えと、俺は」
チラッとフリーダを見ると、凄い勢いで首を縦に振っていた。無言だが、明らかに『貰いなさい』と言われている。
「ほしい。シルフ、それちょうだい」
「はーい」
俺が手を出すとその上にシルフが世界樹の葉を置いてくれた。それと同時にフリーダが抱き着いてくる。
「よくやったケイト! さすが私の旦那だ!! 愛してる」
商人モードのフリーダは簡単に愛してるって言ってくれるから好き。もちろん通常時の恥ずかしがりながら言ってくれる彼女も好きだ。
「あーでも、ケイトは私がいなくても世界樹の葉を入手できちゃうから、
「えっ?」
世界樹に到着した時、俺は近場にあった葉を採取しようとしてみた。しかしどれだけ力を入れようと、それを枝から引きちぎることはできなかった。世界樹の葉って、そういうものらしい。ちなみにその行為は下位精霊に許可してもらってからやっている。人族の力じゃ絶対に採取できないんだ。
世界樹から葉をとるには大精霊シルフの許可がいる。シルフが許してくれさえすれば、人族の力でも採取が可能になるらしい。俺はシルフを救出した後、彼女に許可を貰ってから何枚か採取させてもらった。その後、試しに許可を貰わずに収納魔法で採取しようとしてみたけど、なんか普通に採取できちゃった。そのせいで精霊たちが大騒ぎして、帰ってくるのが遅れたんだ。
「ケイト、お前」
「大丈夫。今後はちゃんとシルフの許可を貰ってから葉を採るから」
「いや、そういうことじゃ……まぁ、いいや。とにかく、貴女が大精霊シルフ様であることは把握いたしました」
フリーダはシルフが大精霊であることを認めたようだ。俺は彼女が世界樹で羽を失った中位精霊を治癒したのを見たときから、シルフが本物の大精霊であることを確信していた。
「良かった。それじゃ、これからよろしくね」
「よろしく、といいますと?」
「今日から私もここに住むんだよ!」
「「……え?」」
事前に聞かされていなことを急に言われ、俺はフリーダと一緒に口を開けて固まってしまった。
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