第45話 世界樹の実


「ここに住むって……本気か? シルフ」


「うん!」


「し、しかしそれでは世界樹が」


「大丈夫だよ! ここは世界樹からそんなに距離も離れてないから、私がここにいることで世界樹の活力が落ちたりすることはない」


 どうやらシルフは、本気で俺たちと暮らすと言っている。


「第一ケイトは私の契約者なんだから、私を養う義務があるよね」


「そ、そうなの!?」


 そんな話は聞かされていない。俺が聞いていたのは、召喚した時に代償として彼女の頭を撫でてあげるということだけ。というか俺は、どうやって彼女を召喚すれば良いのかすらまだ知らない。


「ちなみに私をここに住まわせてくれるなら、月に五枚世界樹の葉をあげる」


「月に五枚!?」


 フリーダが驚いている。それは一か月で世界樹の葉が貰えるということについて。しかしシルフはその発言を、ととらえられたと感じたようだ。


「五枚だと少ないかな……。ケイトがいればいくらでも手に入っちゃうもんね。じゃあ、十枚ならどう? それに加えて、一年に一回は世界樹の実もあげる」


「ようこそ、シルフ様。今日からここが貴女のお家です」


 商人フリーダは簡単に篭絡された。妻が認めちゃったので、俺が特に反対することはしない。家族が増えるのは良いことだ。しかも新たな家族は、俺たちに富をもたらしてくれる存在。今は戦力にならなさそうだけど、俺が死んじゃった後とかはきっとみんなを守ってくれるだろう。


「ありがと! それじゃ、これが今月分ね。初回だから世界樹の実もあげる」


 世界樹の葉の何百倍もの価値があると言われる世界樹の実。そんなものをシルフから手渡された。世界樹は数十年に一個しか実を付けないらしい。その実を食べればどんな怪我や病気も完治し、寿命が延びる。効果的には万能薬エリクサーと似ている。


「世界樹の実まで。ほんとに良いの?」


 契約者となった俺に養えって言ってたよね。

 どちらかと言うと、俺の方がヒモっぽくない?


「世界樹の実には病気にかかりにくくなる効果もある。私の契約者であるケイトやフリーダにはずっと健康でいてもらいたいから、これは売ったりせずにみんなで食べてほしい」


「百年で百個か……。うん、悪くない。それなら最初の一個くらいは」


 シルフのお願いを聞いたフリーダが何やら小声で呟いていた。


「わかりました。私はエルフなので病気にはかかりにくいし、寿命も長い。最初の一個はケイトの健康のために消費しましょう。来年以降も、よろしくお願いしますね」


「任せて! あと、家族になるんだから、その……。もっと軽い感じで話してほしいな」


「良いんですか?」


「うん、お願い」


 フリーダが俺を見てくる。

 問題ないと思うから、軽く頷いた。


「それでは──」

「わっ!?」


 いきなりフリーダがシルフを抱き上げた。


「改めて、ようこそ我が家へ。これからよろしくね、シルフ」


「う、うん! よろしく!!」


「ちなみにうちには色んな種族がいる。年齢だとややこしいから、見た目で誰が兄で、だれが妹とかってしてるんだけど」


「シルフの今の見た目だと、一番下になりそうだな」


 狼獣人のテルーが一番上の兄で、猫獣人のミィが姉。ふたりが俺とフリーダのことを父母と呼ぶことはないが、他の子どもたちが『テルにぃ』や『ミィお姉ちゃん』って呼んでるから、俺たちの子どもってことで良いだろう。


 兎獣人のココが次男で、同じく兎獣人で十二歳のモカが二女。エルフのアイルは実年齢が俺より上なんだけど、見た目が人族の十歳くらいだから三女ってことになってる。


 エルフで七歳のクルフィンが三男。エルフ族は五~六歳くらいまでは人族の子どもと同じように成長して、それ以降の成長が非常にゆっくりになるらしい。


 羊獣人のメイが四女。

 彼女は先月、八歳の誕生日を迎えた。


 そんな兄弟たちの仲間入りすることになったシルフの見た目は五歳くらいの女の子。だから一番下の妹ってことになる。でも実際に生きていた年数で考えると、フリーダより年上なんだ。


「お兄ちゃんやお姉ちゃんができるの!? わーい!!」


 シルフはそれで問題ないらしい。


 何千何万年と生きて、中位精霊や下位精霊たちから頼りにされるような存在の彼女だけど、悪魔に力を奪われた今は精神的にも幼くなっている感じなのだろうか。もしくは家族ごっこを全力で楽しもうとしているのか……。


 どちらにせよ、シルフがそれで良いなら大丈夫だ。



「今からみんなにシルフを紹介するよ」

「うん! りょーかいっ!」


 こうして新たな家族が増えた。

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