第24話 猫耳の少女


「えへへ。ミィはご主人様のお帰りを良い子で待ってたにゃ。だから今日も、ご褒美がほしいにゃ!!」


 俺の顔を見上げながら、ミィという名の猫獣人の少女がご褒美を要求してくる。貴族の奴隷にされていた子へのご褒美って? ま、まさか性的な──


「いつもみたいに、撫でてくれないのかにゃ?」


 俺が呆然としていたら、彼女は今にも泣きそうになってしまった。


「ご、ごめん。そうだよな。ミィは今日も良い子で待っててくれて偉いな」


 そう言いながらミィの頭を撫でてあげる。

 彼女は目を細めて気持ちよさそうにしていた。


 ……ふーん。

 これで良いんだ。


「ねぇ、テルー。彼女が貴族にされた洗脳って、どんなの?」


「語尾を『にゃ』にするように強制されています」


「えっ。それだけ?」


「それだけです。もっとも今は洗脳も解けていて、ただ趣味で語尾を『にゃ』にしているようです」


「趣味?」


「趣味らしいです」


「なんか主人と認識した人に性的奉仕を強要されるとか」


「そーゆーのはなさそうですね」


 ないんだ。

 別に期待してたわけじゃないけど。


「ちなみに彼女も俺と同じく、家族や帰るべき家がありません。ですのでこのままケイトさんのお仲間に入れていただきたいと言っています」


「よろしくお願いしますにゃ!」


「ちょっと待って。って何? そもそも俺とテルーは、奴隷として捕まってる子たちを解放し終わるまでの協力関係じゃないの?」


「そうなのですか?」


 テルーが絶望した顔をしていた。


「もう君は自由なんだよ。確かに今は俺を手伝ってもらって凄く助かってる。でもテルーは十五年も人族に酷使されてきたんだから、今後は好きに生きるべきだと思う」


 奴隷商人のアジトから回収してきた金貨の一部をテルーにも渡している。彼は強そうだし、今後も冒険者とかになればひとりでも余裕で生きていけると考えていた。


「好きに生きて良いのであれば、俺はケイトさんのお手伝いがしたいです」


「えっ」


「このクソみたいな世界を少しでも良くしようとしているケイトさんの力になりたいんです。俺みたいに奴隷として何年も使役される獣人を減らしたい。貴方のお手伝いをするのが、その一番の近道だと思ってます」


 ズイっと俺に寄って来たテルーが右手を胸にあてながら、自らの有用性をアピールしてくる。


「危ないこととかでも遠慮なく言ってください。料理や洗濯、掃除とかの家事はもちろん。俺を使役していた奴隷商人のライバルを暗殺したり、その遺体処理なんかもやらされてきたんでそーゆーのも得意です」


 家事はともかく、遺体処理とか得意になっちゃダメだろ。


「なんでもやりますよ、俺」


「そうなんだ……。じゃあ、今後も協力をお願いしても良いかな?」


「お任せください!!」


「私もご主人様のために働きたいにゃ!」


「ミィはね、ダメかな」


 テルーはだいぶ俺に近いとこまで堕ちてるから、彼が良いって言うのなら協力してもらうつもりになれた。でもまだ十歳そこそこの少女に世界の暗い部分を見せるのはできないよ。


「私はご主人様の癒しになれますよ」


「ねぇ、語尾は?」


「あれは趣味なので。今は真面目な口調で話すべきかと」


「なるほど」


「話は戻りますが、ご主人様が貴族を処理して拠点に帰って来た時、お迎えするのがこんなゴツイ狼獣人だけだったらどうでしょう? すさんだご主人様の御心には癒しが必要なのです」 


 自分のことを卑下されたのにも関わらず、テルーはうんうんと大きく頷いていた。


「それから私はもう成獣です。身体が一番大きくなってコレなんです」


「じゅ、十歳くらいかと思ってた」


「ふふふ。幼くみられるのは私の種族としては名誉なこと。ただし成獣ですので、もうご主人様との子を成すことも可能です」


 いや、いきなり何を言い出すんですか。

 さすがにそれは……ねぇ。


 ありかなしかで言えば全然あり。


「んー。まだ少し悩んでいらっしゃいますね。でしたら、どうでしょう」


 ミィがすり寄って来た。俺の服を掴みながら、上目づかいで俺の顔を見てくる。


「ミィはひとりにゃ。テルーと違って、お金をもらってもひとりじゃ生きていけないにゃ。だから……ご主人様と一緒にいたいにゃ。だ、ダメかにゃ?」


「ダメじゃない! 俺が守るから、俺の癒しになって!!」


 俺は即座に堕ちた。


「はいにゃ。ご主人様、よろしくお願いしますにゃ」


 ミィが可愛すぎるせいだ。でもそれとは別に、彼女のには闇が含まれていることに気付いたせいでもある。明るく健気な少女を装ってはいるが、彼女が抱えるモノはテルー以上に重たいのかもしれない。


 ただ俺としてはそーゆー仲間の方が気を許せる。彼女はまるで、そんな俺の心情を把握しているようだった。

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