第8話 ケイトの記憶
夢を見た。
久しぶりに
『出来損ないが……』
『お前なんかと兄弟だとは思われなくない』
『頼むから消えてくれ』
『いっそ俺たちで殺ってしまおう』
何人もの兄弟に殺されそうになる夢。
俺に兄弟なんかいない。
俺は父母と三人で暮らしていた。
『やめろお前ら。ラウムをいじめるな』
夢の中で俺は、何故かラウムと呼ばれていた。
俺はケイトだ。ラウムじゃない。
そう言い返そうとするが声が出ない。
いつもこうなんだ。
『ストラス兄さん、俺は大丈夫だから』
ラウムと呼ばれる俺を、唯一助けてくれる青年。
俺は彼のことをストラスって呼んだ。
自分では話しているつもりはないのに、口から言葉が勝手に出てくる。これは……。本当に俺の夢なのか? なんとなくだが、夢ではなく記憶のようにも思える。しかし俺は人族だ。夢の中に出てくるストラスのように
夢の中で俺は魔族だった。
それも魔王の息子。
ストラスやラウムっていうのは、魔王の息子の名前だ。教会が所有する聖典に、伝説の存在としてその名が記されている。
意味が分からない。
なんで俺が魔王の息子になってるんだ!?
いくら考えても夢の中で答えは得られない。身体が勝手に動くから、状況を調べることも不可能だった。
そして俺の夢は、いつも同じ終わり方をする。
『四天王にも劣る最弱の息子よ。貴様を永久に追放する』
恐怖や絶望といった負の感情を世界中から集めて、無理やり人型にしたような存在がそう言いつつ俺に手を伸ばしてくる。目の前が真っ暗になったところで目が覚めるんだ。
今回もそうだった。
寝汗がひどい。
喉がカラカラだ。
死を感じて、まだ身体が震えている。
最近はこの夢を滅多に見なくなったのに……。
目を覚ますとそこは、宿屋のベッドの上だった。
俺は昨日、勇者パーティーを追放された。それでも元仲間として彼らの旅を裏からサポートする決意を固めたばかり。なのになんでこんな夢を? 魔王の息子なんて、勇者であるルークスたちの敵以外の何者でもないじゃないか。
ただ、昔と違って今回は収穫があった。あの夢を見ることを恐怖していただけの、過去の俺じゃない。夢を見るのが嫌だと、一時期は寝ることすら身体が拒絶していた。
そんな夢から得た情報がある。
魔王の姿だ。
夢の中でラウムであった俺のことを『息子』と呼ぶ存在は、魔王以外考えられない。これまでの夢では、俺はいつも魔王の姿から目を逸らしていた。しかし何故か今回は魔王が俺に触れるその瞬間まで、俺は奴を見ていたんだ。
「あれが、ルークスたちの最終目標」
魔王がいる限り、人間界はいつも魔物の恐怖に怯えなければならない。魔王は倒すべき人類共通の敵だ。ただし魔王がいる魔界は濃い瘴気が蔓延している。その空間で活動できるのは神託を受けた者、もしくは瘴気を反射できる超レアな防具を身に纏った者たちだけ。
魔王が世界の敵だとしても、軍隊を編成して魔界に侵攻できないのはそう言った理由がある。そもそも人間界の住人は、魔王の姿を見た者がいない。最期に魔王が人間界に来たのが数千年前って話だから、長寿のエルフでもその姿を知る者がいないのだとか。
そんな魔王の姿を俺は今回の夢で認識することができた。
夢で見ただけなので、魔王を倒しに行こうってのは無理だ。収納魔法は直接見ないと転移用の取り出し口を設定できない。
夢のはず。
俺は魔族なんかじゃない。
だけど……。
あの魔王の姿は、何故か本物だと確信していた。
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