第31話 新拠点の候補


「私は計算とかできないよ」


 アイルというエルフの少女が悲し気な顔をする。彼女の年齢はテルーより上らしいが、長寿のエルフは成長がかなりゆっくりだ。そして何年も前からまともな教育を受けずに奴隷にされていたアイルは、文字の読み書きもほとんどできない。


「メイも、計算は無理かも」


 羊獣人の女の子メイは読み書きならできるが、計算は厳しいらしい。


「文字や計算は私が教えてあげる! ママに任せておきなさい」


「でもフリーダは交渉とかあるだろ?」


「ずっと出かけているわけじゃない。それにケイトの魔法が使えるなら、むしろ客との交渉時以外はほとんど家にいられるじゃないか」


 俺が協力することで以前の十倍の顧客を相手にしたとしても、十分な余裕を持てるらしい。それだけ商人にとって移動時間と言うのは課題になるものだということ。


「もちろん勉強だけじゃなくて、商売のお手伝いもしてもらうぞ。中古で買い取った装備を整備したり、アイテムの整理をしたり。交渉する相手の商人にお茶を出すお仕事だってあるんだ」


「ママのお手伝い、頑張る!」

「お勉強も頑張るね」

「メイも早くボキ? ってやつ覚える」


 子どもたちみんな、フリーダの商売に協力してくれるようだ。


「みんなありがとう」

「みんなで頑張ろうな」


「「「はーい!!」」」


「さて。家族総出で商売をすることが決まったわけだが、そうなった時に重要になるモノが分かるかな? お父さん」


「え、えっと……。高額で売れる良い商品とか?」


 いきなり指名で質問されて焦った。


「もちろん商人である以上、売り物は重要だ。それを重要だとする商人もいるだろう。しかし私は、貴重な商品をしっかり保管して置ける場所。売上金を誰にも奪い取られないように守れる建物こそが最重要だと考えている」


「なるほど。拠点か」


「その通り。お金はこの家に隠しておけるが、これだけの人数で扱う商品ともなると、それなりに広い場所が必要になる」


「でもアイテムの保管なら俺の収納魔法があるじゃないか」


「保管はそれで良いとして、アイテムをより高く売るための加工や整備は君の収納魔法の外でやる必要があるだろ」


「あっ、そっか」


 確かにそうだな。俺の魔法なら魔物を丸ごと収納して、牙や爪などの売れる部位だけを取り出すことも可能だが、武器や防具の整備などはできない。


「というわけで、みんなで活動するための拠点を買いに行こう!」


 まるで日用品を買いに行くかのような軽いノリで言い放ったフリーダ。しかし彼女が保有している金貨を使うのであれば、小さな城くらいは買えてしまうかもしれない。


「商品やみんなを守れて、広い拠点か。どんなのが良いかな?」


「僕、お城に住んでみたい!」

「お城!? それ素敵だね!!」


 クルフィンの思いつきにモカが賛同した。


「お城かぁ。住んでみたいな」

「かっこいいよね」

「お城に住みたーい!」


 ほかの子どもたちも城が良いと言い出した。


「広くて商品も守れる。城って良いのでは?」

「ご主人様とお城に……。それは、ありですにゃ」


 テルーは合理的だと考えたようだ。

 メイド服を着ているミィはお城に似合いそう。


「城か。小さくても良ければ、買えなくはないな」


「フリーダが貯めた金貨があれば買えるかもしれないけど、そもそも城って売ってるもんなの?」


「辺境貴族が住んでいた城なら売りに出されることがある。領地経営がうまくいかず、城を維持できなくなって手放す者がいるんだ」


 買えちゃうんだ……。

 だったら、城もありかな。


 子どもたちが喜びそうだし防衛にも向いてる。

 何より俺も城に住んでみたい。



「よし。それじゃ、お城を買いに行こう!」

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