第30話 働く決意と複式簿記
「ケイトが私の旦那になってくれたから、私の財産の半分は君が好きに使っても良いよ」
「フリーダの財産って言うと……。
シスタとステラを奴隷商人から取り戻すために彼女が貯めていた五万枚の金貨のことだろうか。
「そう、あの金貨だ。まぁ、君なら私のためにも使ってくれるだろうから、半分と言わずほぼ全部あげようか? 一瓶くらい残してくれれば、当面の間生活するには困らないからな」
「ありがたい申し出だけど、あれはフリーダが何年も頑張って貯めたものだろ」
「だが消えるはずのものだった。それが私の手元に残ったのはケイトのおかげだから、君にはあれを使う権利がある」
そう言われると少し心が動かされる。これから子どもたちの面倒を見ることになるので、まとまったお金がいるのは確実だ。
俺が勇者パーティーにいたときは、ルークスたちが狩った魔物の素材を冒険者ギルドなどに持ち込んで買い取ってもらっていた。勇者価格で買い取りしてもらえるから、金策は割と楽だったな。聖剣を質に入れた貯金もあったし。
でも俺は冒険者登録をしていなかったから、勇者パーティーを追放された今はただの一般人だ。一般人でも冒険者ギルドに魔物の素材を持ち込むことはできるが、信用がないため買取価格は安くなってしまう。フリーダとシスタ、ステラ、テルー、ミィ、それから六人の子どもたちを養うのはかなり厳しそう。
「……ほんとにいいの?」
「あぁ。そして改めて考えたんだが、やっぱり全部ケイトにあげるよ」
「えっ、なんで!?」
「君が私の商売を手伝ってくれたら、今あるのと同じ量を一年で稼げそうだから」
そうなの?
でも、たったひとりで金貨五万枚貯めちゃうほどの商才を持つフリーダなら、一度に大量の物資を運べる俺が手伝えばそれも可能なのかな。
そこまで急いで大金を稼ぐ必要はないが、収入のあてがあるというのは心に余裕が生まれる。だから俺はフリーダの商売の手伝いをすることにした。
「金貨をもらうかは別にして、俺はフリーダの商売を手伝うよ」
「ほんとうか!? あ、ありがとう!!」
フリーダが眩しいくらいの笑顔になる。
数年前から続く彼女の誘いを俺はついに受けた。
もちろん勇者パーティーを陰ながら支援するのも継続する。でも家族ができちゃったから、みんなを幸せにするために俺ができることは何でもやっていこうと決めたんだ。
「ケイトさん、商人になるんですか?」
「だったらミィは売り子になるにゃ」
テルーとミィは前向きな様子。
彼らはきっと俺が何しても付いてきてくれる。
「わ、私たちもお姉ちゃんと」
「ケイトさんをお手伝いしたいです」
シスタとステラが商売の手伝いをしようとして、ふたりが奴隷商人に拉致されちゃったからフリーダが五万枚も金貨を集めなきゃならなくなった。だけど頑張ってる姉妹を手伝いたくなったシスタたちの気持ちもわかる。
もう同じ不幸を起こさせない。
俺がみんなを守る。
だからみんなで一緒にお仕事をしよう。
「僕もパパたちのお手伝いする!」
家族の中では最年少のエルフ族の少年。
七歳のクルフィンもお手伝い宣言をする。
「私たちは計算ができます」
「複式簿記もつけられますよ」
兎獣人の姉弟はとある商人の所で奴隷になっていた。
姉のモカが十二歳で、弟のココが十歳。
ところで、複式簿記って何ですか?
「簿記術ができるのか! それは助かる」
なんか良く分からないけど、フリーダが喜んでいるから凄いことなのだろう。
ちなみに後で彼女に確認したところ、複式簿記ってのは現在所有している財産の状態と損益の状態を把握するためのものらしい。途中から知らない単語がいっぱい出てきて、俺はかなり混乱した。無理だなって思った。
ですから俺は、品物を運搬する係としてフリーダさんのお役に立ちますね!!
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