第49話 ケイト式魔導遠心分離装置の欠点


 ここは俺たちが暮らす城の中でも一番の大広間。クルフィンやシスタたちが割いてくれた千寿草を、テルーとミィが煮詰めている。その煮詰めた液体を受け取った俺が分離をさせていくって流れで作業をしている。


 ひとつ目の分離を始めた頃、シルフとフリーダがこの部屋にやって来た。


「ねぇ、ケイト。あの高速で飛んでる奴が千寿草の煮詰めたものなんだよね?」


「うん。そうだよ」


「あれが君の魔法の応用だということは分かったが……。いったいどういう仕組みなんだ?」


 フリーダが俺の魔導遠心分離装置に興味を持ってくれたから説明してあげよう。


「まず俺の収納魔法って、手を取り出し口に突っ込まなくてもアイテムを取り出せる」


「待て。その時点で意味が分からない」


「収納魔法って、空間に穴をあけて異空間と繋ぐだけの魔法だよね。どうやって手を入れずにアイテムを取り出すの?」


「見せた方が早いな」


 収納魔法の取り出し口を少し離れた場所に設置し、そこから俺の手元に向かって異空間に収納していた小石を放出した。


「こ、小石が飛び出てきた!?」


「こんな感じで俺の収納魔法って、中に入れたモノを自在に放出できるんだ」


 右手でキャッチした小石をシルフたちに見せる。


「ちょっと待って。それは私が知ってる収納魔法じゃない」


「シルフが言うように、ケイトの魔法はおかしい」


 そんなこと俺に言われたってどうしようもない。勇者ルークスたちと一緒に旅していたら、いつの間にかできるようになっちゃったんだから。


「とはいえこれも、そこまで万能ってわけじゃないんだ。放出する速度はかなり高速でも行けるけど、角度は取り出し口からまっすく前方だけ」


 小石が異空間に収納されていたのは、これが攻撃手段になると考えたからだ。ただ一度設置した取り出し口の角度は即座には変えられない。高速で移動する魔物が相手だと、異空間から小石や武器などを放出して攻撃するというのはなかなか困難だった。普通に対象の身体に取り出し口を設定して首と胴体を分断した方が確実。


「角度が変えられないのはデメリットかもしれないが……。ちなみにかなり高速って言うと、もしやってこと?」


 フリーダの視線が天井付近で高速回転している瓶に向けられていた。早すぎて人族の俺の目には残像しか見えない。エルフは動体視力が良いので、もしかしたら千寿草を煮詰めた液が入った瓶が回ってるってのが見えているのかもしれない。


「あれよりもう少しだけ早くもできるよ」


 硬くて重量のある物質を放出すれば危険度Sランクの属性竜でも倒せる。それくらいの速度は出せるんだ。ただしそれを当てようとするのが困難だから、魔物が眠っている時とかにしか使えない。


「よし、わかった。ケイトの魔法はよくわからないことが分かった」


「そうだね。よく分かんないから次の質問していい?」


「なーに?」


「そもそもあれはどうなってんの?」


「収納魔法の収納側と放出側をなるべく近づけて設置してる。収納した瞬間に放出する感じかな」


「でも角度を調整できないんでしょ? どうやって円形に?」


「一度設置した後に角度を変えるのが難しいだけで、設置する時は細かく角度の調整ができる。上に設置してるあれは、よく見ると収納側と放出側に角度がついてる」


 千寿草が入った瓶は円を描いて回っているように見えるが、実際には直線運動を短く繰り返しているだけ。収納魔法の収納側と放出側をそれぞれ五十個ほど設置したから、五十枚のセットになっている。つまり千寿草は五十角形を描いて天井付近を飛んでいるんだ。



「……なぁ、ケイト。君の収納魔法は、まっすぐにしか放出できないんだよな?」


「うん、そうだよ」


「だったらあれは、円を描いているように見えて実際にはってことだよな?」


「そうだね」


「それじゃ意味ないだろ」


「は?」


 ちょっとフリーダの言ってることの意味が分からなかった。


「遠心分離なんだから、回さないと」

「あっ! 確かに!!」


 シルフは何かに気付いたようだが、俺はまだ分からない。だって天井付近を飛ぶ千寿草は、確かに高速で回転してるはずで──って、あ゛。


 あ、あれ? 

 もしかして俺、ミスった?



「その顔、気づいたみたいだな。君が高速で回しているように見えるあれには、遠心力がかかっていない。つまり、全く意味がないんだ」

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