第34話 城の移転


「いやぁ。ほんとにできたな」


 サンクトゥスの王都から少し離れた場所。世界樹を一望できる小高い丘の上に建つ城を見上げながらケイトが呟いた。


「ほんとにって……。ま、まさか君は、出来るという確信もなしにこの城を買えと言ったのか!?」


 信じられない発言を耳にしたフリーダが、ケイトの胸倉をつかむ。


「あっ、ごめん! できるとは思ってた。うん、出来るはずだった。以前、馬小屋を収納して別の場所に移転させるのはできたからな」


 ケイトは馬小屋を移転させるのと同じ感覚で、クノールから遠く離れたこの地まで城を転移させてしまったのだ。


「馬小屋と城を一緒にするな!!」


 ケイトやフリーダたちは今後、この城に住むことになる。転移させる際に土台となる地面が水平でなかったら城の内部にも傾斜ができる。日々を過ごす住居では、ほんのわずかな床の傾斜でも人はそれを感じ取れてしまう。日々違和感を感じる住居では人はまともに生活ができない。


 さらに岩石を削り出して建造された城はとてつもない重量物となる。地盤が強固な場所でないと、城が少しづつ沈下していく可能性だってあるのだ。


「大丈夫だって。ちゃんと傾かないように出す場所を設定したし、城が沈まないよう城のずっと下にあった固い地盤ごと転移させた」


「じ、地盤ごと!?」


「うん。最初はそんなに深く設定するつもりはなかったんだけど、なんかこの城の下の方に地下室がいくつもあってさ。それも一緒に収納しようとしたら、結果として俺の魔法が城だと認識した部分は凄く大きくなっちゃった」


 城の地下深くまで全てを収納してしまったケイト。ちなみにこの場所に元々あった地面は、ケイトが城を転移させる際に入れ替えで異空間に収納している。地下深くまで抉られたそれは膨大な質量の岩石となるのだが……。収納魔法の要領に限界を感じたことのないケイトは、その岩石を収納したままにしておくことにした。


 城の地下にあった岩石がここに移動してきて、ここにあった岩石はケイトの収納魔法の中。ということは、城があった場所には地面のなくなった巨大な穴が残されているということ。


 自らのモノになるはずだった城の様子を確認しに行った盗賊団の頭領や部下たちがその穴に落ちて命を落としたのだが、そんなことケイトは全く気にしない。


 戦闘力や部下を率いる能力に長けた頭領と、偵察に長けた側近が死んでしまったことで、盗賊団は徐々に力を失っていき、数年後には国の騎士団に壊滅させられることとなる。


 更に数年後、ケイトが開けた大穴は『深淵を覗ける場所』としてクノールの観光名所となり、盗賊団に荒らされた伯爵領を復興させる助けとなった。


 もちろんそれらを今のケイトやフリーダが知る由もない。



「城を移動させると聞いた時から驚いてはいたが……。君のやることはスケールが違う」


「まぁね。それより早く内部の様子を確認しよう! 問題がなければみんなで引っ越しだ!」


「あ、あぁ。そうだな」


 城門から内部に入ろうとしたフリーダの前にケイトが手を差し出す。



「城内をご案内いたします。


 ケイトはふざけてやり始めただけなのだが、それはお城に暮らすお姫様になってみたいと幼少の頃に夢見ていたフリーダの乙女心を鷲掴みにした。

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