第17話 殺意の理由


「フリーダ、お前……。い、いま何を」


「キスくらい良いでしょ!? 私たちはもう、恋人なんだから!!」


 そ、そうか。

 やっぱり俺、フリーダとキスしたんだな。


「私じゃ嫌だった? 私は、その……。ケイトが初めてで、嬉しかった」


 少し涙目の彼女が、不安そうな表情で問いかけてくる。


 ふぁぁぁぁぁあああ!!

 フリーダさん、可愛すぎません!?


 貴女そんなに綺麗なのに、さっきのがファーストキスなんですか!?


「君はどう? 誰かとキス、したことある?」


 そんなのはあるはずない。幼い頃レイラに遊びでキスされたことならあるが、頬にされただけだし、子どもの遊びだったからノーカンだ。


「えと。な、ないかな」

「やったぁ!」


 フリーダが勢いよく俺の胸に飛び込んできた。

 思わず彼女を抱きしめる。


「えへへ。ケイト、私ね。今すっごく幸せ!」


「うん。俺も」


 人生初の彼女だ。

 嬉しくないはずがない。


 でも俺の彼女になったフリーダを危険な目にあわせたくないとも強く思うようになってしまった。本当のことを言うと、色々協力してほしかったんだけどな……。


「その目。私の身を案じている目だ。私に勇者たちの支援を手伝わせるのを躊躇い始めたのか?」


「……そうだよ。その通りだ」


 だって俺の彼女なんだから。

 怪我とかしてほしくない。


「危なくなったら君の収納魔法で逃げればいい」


「もしかして、ずっと俺と一緒にいるつもり?」


「もちろん! 君のそばにいるのが一番安全だと思う。だから今後は私のことを守ってね。私の彼氏さん」


 俺に抱き着くフリーダの腕に力が入った。

 彼女の胸が俺に押し付けられて形を変える。


 あ、あの、フリーダさん。

 当たってますけど!?


「あててるんですー」


「フリーダってさ。読心術使える?」


「使えない。だけどケイトの場合、目を見れば何を考えてるのかだいたい分かるかな」


 絶対に浮気とかできない。

 そんな気がした。


「私に黙って女の子とイチャイチャされるのは困るけど……。賢者の娘とか、私が知ってる子なら良いよ。他の子を好きになっても良いけど、ちゃんと私のことも好きでいてね」



 ──***──


 少しの間、今後どうしていくかフリーダと話し合っていた。その途中で今日、彼女に襲われた時のことをふと思い出した。


「そう言えば俺がここに来た時、フリーダに殺されそうになったよな?」


 あの時、彼女の殺意は本物だった。


「うっ。あ、あれは……。ほんとにすまなかった」


「ここに侵入しちゃった俺が悪いんだから、謝ってほしいわけじゃない。でもフリーダは俺のことを以前から好きでいてくれたんだろ? なのに今日は、本気で俺を殺そうとした」


 それには何か理由があるのだと思ったんだ。


「この家がそれだけ大事ってこと?」


 他種族の目を欺く魔法によって守られているエルフの国サンクトゥス。その領土内で、更に隠匿魔法を使って家を隠しているフリーダにとって、この家がそれだけ重要なのではないかと推測できた。


「この家というより、大事なのは私が集めたお金だよ」


 フリーダが部屋の中央に置かれていた机を横にずらした。彼女が床に手をつき、何か呪文のようなものを唱え始めると魔法陣が浮かび上がってきた。


 床が眩く光る。

 その光が落ち着いた時。


「か、階段だ」


 家の地下へ延びる階段が現れた。


「彼氏になってくれたケイトにだから見せる。ついてきて」


 言われるがままにフリーダの後を追う。

 階段を降りた先には小部屋があった。



「これは……。凄いな」


 大量の金貨が瓶詰されて、小部屋の両サイドに設置された棚の上に所狭しと並べられている。


 金貨が詰まった瓶ひとつで、五人家族が十年仕事もせずに暮らせるほどの価値があるだろう。それがこの部屋には何十個もあった。


「私が世界中で商売をして稼いだ金だ。これを奪われるのではないかと思ってしまって、私は君を殺そうとした」


 罪悪感からか、フリーダが泣きそうになっている。

 俺が憎くて殺そうとしたわけじゃないらしい。


 きっとここまで貯めるには、とてつもない時間と労力を要したことだろう。そんな大切なモノを隠している場所に突如現れて何の説明もしなかった俺。


 そりゃ敵とみなされたら襲われても仕方ない。

 俺は彼女の殺意の理由を分かった気になった。



 でもそれは、フリーダが俺を殺してでもこの場所を隠したかった理由の、ほんの一部でしかなかったらしい。


「このお金は、私ののにどうしても必要なの」

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