第2話 暗躍の決意
およそ三年在籍したパーティーを追い出されてしまった。
「はぁ……。なんでこんなことになったんだろう」
魔王を倒すためにパーティーを組んだのは三年ほど前のことだが、ルークスやレイラとは小さなころから一緒に遊んでいた仲だ。
俺たちが十五歳になった時に行われた『神職授与之儀』でルークスが神託を受けて勇者になり、レイラは賢者になった。一方で俺は神託を得られず、賢者の下位職である魔術師になった。
魔術師は本来、何種類かの属性魔法が使えるはず。俺にはそれなりの量の魔力があったんだ。しかしどれだけ詠唱しても属性魔法は発動しなかった。バフやデバフをかける支援魔法も同様にダメだった。
俺が唯一使えた魔法。
それが『収納魔法』だ。
異空間にアイテムを入れて自在に取り出せる魔法で、収納したものの重さは感じなくなる。
これが使える魔術師はかなり珍しいという。
賢者であるレイラも使えない。
ちなみに異空間に収納できるもののサイズは魔術師の力量に依存するらしいが、俺の場合はサイズ的な限界を感じたことはない。たぶん城とかも収納できる。いやまぁ、出来てもやらんけどな。
だから俺は攻撃魔法も支援魔法も使えないが、荷物持ちとして勇者ルークスが率いるパーティーの一員を務めてきた。精一杯頑張って来たつもりだった。
そりゃ、一切戦闘に参加してないのに経験値だけ俺にも分配されてレベルアップするのは悪い気がしてたさ! だから俺なりにできる限りみんなのフォローをしてきたんだ。
最初はルークスとレイラ、それから俺の三人でパーティーを組んで旅にでた。冒険を始めて三つ目の町で仲間になったのが戦士のアドルフだった。彼は神託を受けたわけではないが、勇者であるルークスに負けないくらいの攻撃力と防御力を有していた。魔法耐性がゼロなのが唯一の欠点かな。でもそれは装備や、レイラの支援魔法で何とかなる。
聖女セリシアは俺たちが聖都を訪れた時にパーティーに加わった。彼女には『勇者が来たら仲間になれ』という神託があったようだ。
五人でいろんな苦難を乗り越えてきた。
基本的に仲間の荷物は全て俺が運んだ。
衣服や鎧、武器などの装備。回復薬や食料なんかも全部。
ただアイテムを運ぶだけでは勇者パーティーの一員だと胸を張って言えない気がして、できるだけ戦闘にも貢献しようとした。
魔物との戦闘中に敵の足元に異空間の入口を作って魔物を転ばせたり、仲間の死角から飛んできた敵の攻撃を異空間に収納してみんなを守ったり……。陰ながらサポートを頑張って来た。
勇者であるルークスが魔物や魔人相手でも正々堂々と戦おうとするから、俺の戦い方は卑怯だ。それは俺自身が一番よく分かっている。だから収納魔法で支援していることを仲間に伝えたことはなかった。それが良くなかったのかもしれない。
ルークスたちと話し合うべきだった。
セリシアが蘇生魔法を使えると言っても、全員が死んだら終わりなんだ。それでいて俺たちは少人数で膨大な配下の魔物を持つ魔王と戦わなくちゃいけない。卑怯かもしれないが、少しでも安全に魔物を倒せるならそうすべきだと俺は考えていた。
ひとりで考え、相談もせず勝手に支援をしてきた。
ルークスに打ち明けたら喧嘩になる気がしていたから。
俺は臆病だった。
友人と喧嘩するのが怖かったんだ。
その結果がコレ。
……いや、待てよ?
そもそも俺は、使えないって思われたから追放されたのか?
思い返してみれば、そんなことは一切言われてない。
ルークスはヴァラクザードを倒して奴が持っていた高性能な収納袋を手に入れたが、その時は『この収納袋は便利だ。でも俺たちにはケイトがいるから要らねーな』って言っていた。
荷物持ちとして俺の有用性は分かってもらえていたんだと思う。
じゃあ、どうして?
やはり聖剣を売ったのがマズかったのか?
だけどあんな剣を使うよりルークスの手刀の方が強そうだって思ったから、パーティーの財務担当でもあった俺は聖剣を質に入れた。おかげでみんなに満足な食事を摂らせるには困らなかった。
確かに、勝手に売り払ったのは俺が悪いけど……。聖剣を使うよりお前の手刀の方が強いなんて言っても、信じてもらえないと思ったんだ。それにいざという時は俺が何とかするつもりだった。
みんなが魔物を倒した経験値が俺にも入って来たおかげで、俺もレベルアップして強くなった。収納魔法で可能なことがどんどん増えて、魔物を倒すことができるようになった。
魔物の身体の真ん中に異空間への入口を設定して、それを開けるだけで良い。異空間によって一瞬で身体が両断される。ほかにも収納魔法は色んな事が可能だった。
そーゆー説明をしなかったことも、俺がこうしてひとり寂しく飯を食っている要因になったのだと思う。
つい先日までは俺が運んだ食材をレイラやアドルフが調理して、みんなでワイワイ会話しながら食べていた。
今思うと、涙が出るほど楽しかった。
仲間との食事が俺の楽しみだった。
みんなと一緒に旅ができて、俺は最高に幸せだった。
何百って数の魔物に囲まれて、恐怖で身体が動かなくなったことがある。そんな時ルークスが『こいつら全部倒して、今日もみんなで飯を食うぞ』と言ってくれたから、俺は諦めずに足掻くことができた。今こうして俺が生きているのは仲間のおかげだ。
結局のところ、俺が追放された本当の理由はよくわからない。
思い当たる節が多すぎる。
我ながら困ったもんだが……。
それでも俺は、ルークスの友でありたいと思っている。
またレイラの手料理が食べたい。
アドルフと夜な夜な猥談がしたい。
セリシアの笑顔に癒されたい。
俺は元パーティーのみんなが大好きだった。
「……あれ。追放されたってことは、俺の行動を制限する奴もいないってことだよな?」
パーティーにいる時も割と好き勝手やって来た。
しかし追放された今なら、何をしようと完全に自由だ。
何人たりとも俺を止められない。
だって俺、追放されたんだから。
「俺が勝手にみんなの支援をするのも問題ないってことか」
口に出して再確認する。
気づいてしまった。
俺がやることはあまり変わらない。
裏方として、かつての仲間たちをサポートする。
俺は絶対に仲間を死なせない。
俺がみんなを守る。
俺がみんなに、魔王を倒させてやる。
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