第22話 再会とお別れ
「シスタ、ステラ。お前たち、どうして」
双子エルフの姉の方がシスタ。
妹の方はステラって名前だった。
「ケイトさんが助けてくれたんだよ」
「私たちと一緒に捕まってた子たちもみんな、ケイトさんが逃がしてくれたの」
昨晩、俺は奴隷にさせられていた子たちを親の元に送り返すという作業を行っていた。奴隷商人が持っていた顧客名簿を使って、既に取引されて貴族などに連れていかれたエルフや獣人も可能な限り取り返した。最終的に昨日は、奴隷商人のアジトにいた六人を合わせて十八人の隷属の首輪を外してあげることができた。
俺が助けに行った中には、手遅れだった子もいる。
それからリストに名はあるが、貴族が奴隷を隠している場所が分からなくてまだ助けに行けない子もいた。今後俺は、その子たちの解放を優先的にやっていこうと思う。
奴隷は違法なんだ。急にいなくなったとしても、貴族たちは騒ぎにできない。もしかしたら報復として暗殺部隊みたいなのを送り込まれるかもしれないけど、少なくとも俺の顔を見たのは奴隷商人とその息子だけ。何件か貴族の屋敷に侵入したが、捕らえられていたエルフや獣人たちを逃がす時に目撃されるようなミスはしていない。
だからたぶん大丈夫。
何かあったら収納魔法で逃げよう。
「ケイトが、ふたりを? じゃあ君は、私のために奴隷商人を──」
「俺は殺してないよ」
「う、嘘じゃ、ないんだ」
目を見て俺の言葉が嘘じゃないって感じ取ったフリーダが、安心したからなのか地面にペタンと座り込んだ。
彼女の隠匿魔法なら、その気になればいつだって奴隷商人を暗殺できたはず。でも彼女は大切な妹たちのためであっても、相手がクソみたいな奴でも、人を手にかけることができなかった。
そんなフリーダだから、もし俺がシスタとステラを助けるために殺しをしたと知ったら、ひどく後悔してしまうんじゃないかって思っていた。俺の手を汚させるぐらいなら自分で──って考えそうだ。だから俺は彼女が嘘だと気づけないようにした。
俺の手は既に血で染まりまくってる。
世界を旅してきたのはフリーダと同じだが、俺は彼女以上に世界の闇を見ていた。勇者ルークスは弱者を虐げない。例え盗賊でも、投降したら殺さないんだ。俺はそんな甘い勇者の後始末をずっとやって来た。
これからもやめるつもりはない。
昨晩忍び込んだ貴族の屋敷で、俺はこの世界には許しちゃいけない絶対的な悪意を持った人間がいることを再確認した。そういう奴らを、ひとり残らず片付けなきゃいけない。
まずは奴隷商人のアジトで手に入れたリストから。
「お姉ちゃん、大丈夫?」
「どこか痛いの?」
シスタとステラがフリーダを心配する。
そばに来たふたりを、フリーダが抱きしめた。
「私は大丈夫だ。どこも痛くない。ふたりはどうだ? 痛い所はないか? ひどいことはされなかったか?」
「うん。私たちは平気だよ」
「お姉ちゃんが交渉してくれたんだよね」
「良かった。ふたりが元気に戻って来てくれて、本当に良かった。私のせいで十年も待たせてしまった。ご、ごめんな」
フリーダが大粒の涙を流しながら双子に謝る。
シスタたちもつられて泣き出してしまった。
「ち、ちがうの。お姉ちゃんは悪くないよ」
「私たちが、捕まっちゃったから」
三人がそれぞれ謝りながら泣いている。
再会の喜びはあるだろう。でも元はと言えば、彼女たちを引き離した奴が悪い。フリーダたちは誰も悪くないはずだ。謝らなきゃいけないのは三人じゃない。
人間の闇が悪い。ルークスたちが平和のために魔物と戦っている時、弱者を虐げる奴が悪い。強大な力を持つ魔王に対抗するのには、人族もエルフも獣人も仲間である必要がある。勇者はそれを望んでいるし、自分たちが救う世界はそうなっているだろうと信じ込んでいる。
だから俺がやらなきゃいけない。
正義感の強い甘ちゃん勇者にはできないことを。
そのために──
「フリーダ。俺たち、別れよう」
妹たちを解放できたんだ。金貨が五万枚もあれば、これからは働かなくても良い。俺の能力は彼女にとって不要なモノになる。フリーダには俺と付き合うメリットがなくなった。
「わ、別れる? どうして? なんでそうなるの!?」
「仲間はほしいけど、貴女は俺と一緒にいるべきじゃない」
憎むべき対象を怨めない。十分な力があっても、大切な者のためにその力を使えない。でも人としてはその方が正しいのかもしれない。他人を殺すという一線を越えられないのは、人として正常なこと。
俺がやってきたこと。これからやろうとしてること。やらなきゃいけないことは、人として正常なままじゃできない。もっとも俺は、既に正常じゃないのかもな。
フリーダたちを俺の──異常者の行動に巻き込みたくない。
だからこれで、お別れだよ。
「さよなら」
名前を呼んじゃダメな気がした。
短くそれだけ言って、俺は異空間に飛び込んだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます