第6話 元仲間たち


 日が暮れたころ。


 賢者レイラと聖女セリシアは、宿屋に併設された露天風呂に浸かっていた。


「気持ち良いですね。火山がある国に滞在した時に嬉しいのって、こうして温泉に入れることだと思うんです」


「……そうね」


 温泉が大好きなレイラは、いつもなら入浴中ずっとハイテンションだ。もっとも彼女は温泉に入っていないときでも常に明るかった。そんなレイラだが、今日は一日中浮かない顔をしている。


「げ、元気出してください! って言っても……無理、ですよね。ずっと一緒に過ごしてきたケイトさんと、お別れしちゃったんですから」


 セリシアなりに慰めようとしたつもりだった。しかし彼女の言葉はレイラに過去を振り返らせる要因となり、ケイトやルークスと一緒に遊んでいた時のことを思い出したレイラの目から涙があふれ出す。


「あいつ変態なんだよ。私が着替えてる部屋にノックもせずに入ってきたことが何回もあった。いくら注意しても、わざとじゃないかって言うくらい繰り返す。まぁ、その度に風魔法でボコボコにしてやったけど」


 止めどなく涙を流しているが、懐かしい昔を思い出してレイラの口元は笑っていた。


「風魔法で、って言うのが優しいですね」


「そう? でも、そうなのかも。あいつ魔法耐性は高いから、いつもピンピンしてた。高火力の火属性魔法で炙ってあげても良かったかな」


 レイラの表情が柔らかくなる。


「ふふふっ。魔王を倒して村に帰って、また彼がレイラさんの着替えを覗いてきたら是非そうしてください」


「うん! 全力で燃やすね!!」


「あっ。そういえば私、ケイトさんに着替えを覗かれたことはありません」


「えっ!? 一回もないの?」


 ルークスとパーティーを組んで旅を始めた後も、ケイトは何度かレイラが着替え中の部屋に突入してしまっていた。ちなみにこれは本当にわざとではなく、昔からの習慣のせいだった。


「私の魔力検知能力が高いのはレイラさんもご存じですよね? 少なくとも私が着替えている時や入浴している時、ケイトさんの魔力が近づいてきたことはありません」


「そうなんだ……。セリシア、こんなにえっちな身体してるのに」


 セリシアの背後に回り込んだレイラが、たわわに実ったふたつのふくらみを揉みしだく。


「きゃっ!? ちょ、ちょっとレイラさん。だ、ダメっ!」


「いいじゃん、いいじゃん! 女の子同士なんだからさぁ」


 レイラの心は軽くなっていた。いつかケイトに再会するのだという希望が持てたこと。そしてこんなにも魅力的な身体をしているセリシアの着替えや入浴を、あの変態ケイトが一度も覗いていなかったと知ったから。



 そんな様子を──


「うはっ。活発系美少女の幼馴染と、豊満ボディな聖女様がもつれ合ってる……。た、たまんねぇな」


 遠く離れた地で、ケイトが千里眼を使い覗き見ていた。


 この千里眼は展開されている範囲が薄すぎるため、聖女の優れた魔力検知能力を持ってしても知覚することができない魔法だったのだ。これを利用してケイトは、幾度となく賢者や聖女のしていた。


 ちなみに千里眼は様子を見るだけで、音は聞くことができない。そのため彼は自身が追放された本当の理由をまだ知らない。



「よし。今日もみんなは無事みたいだな」


 桃源郷を心ゆくまで堪能したケイトは、静かに千里眼を閉じた。


 ルークスやアドルフの様子はチェックしない。レイラたちがのんびり温泉に入っているということは、特に問題がないということなのだから。

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