第51話 聖水の製法


「これって、聖水を濃縮したやつ?」


 シルフが風魔法で浮かせている液体を見ながら聞いてみた。


「うん! 純度を高めておくために本当なら『不触の容器』っていう魔具がいるんだけど、持ってないから私が魔法で代用してるの」


 俺に近づいてきたシルフがニコニコしてる。頭を撫でろと言うかのように俺の顔を見てくる。


「それは凄いな。さすが大精霊」

「えへへー」


 ご要望通り彼女の頭を撫でてあげると、今度はフリーダがやって来た。


「わ、私も頑張ったんだぞ」


 フリーダは白い粉の入った容器を持っていた。確か彼女は、水竜の牙を砕く作業をしてくれていたはず。結構な肉体労働になるとのことだったが、身体強化魔法が使えない俺はそれが使えるフリーダより非力なんだ。というわけで彼女に全部お願いしてしまった。


「ありがと、フリーダ。大変だったでしょ」

「ケイトの頼みだからな。これくらい楽勝だ」


 俺のために頑張ってくれたというのが嬉しい。フリーダも頭を撫でてあげようとすると、彼女は俺の耳に口を近づけて小声でつぶやいた。


「私にはあとでご褒美くれ」


 あとで、ってことは、ですね?

 

「い、いつものよりその……。長くて、濃密なのをお願い」


 あー、もう。

 フリーダさん可愛すぎます。

 今すぐ抱きしめたい。


 というかそれ、俺にもご褒美になっちゃうけど良いのかな? 良いんだよね。フリーダが求めてきたんだから。ふははは。夜が待ち遠しいぞ。



 ──***──


「さて、シルフが用意してくれた高純度聖水を使った作業をしよう」


「はーい」


「私はそこまでエリクサーの製法に詳しくないんだが、聖水が必要であることは知ってる。でもシルフが精製してくれた高純度聖水ってかなり量があるよな。これは全部使うのか?」


 シルフは聖水を蒸留で高純度化してくれたけど、元になったのはフリーダが所持していた商売用の聖水だ。彼女が保持していた分を全部使い切ってしまったようなので、無駄にならないか心配しているのだと思う。


「全部使う。エリクサーになるのは少しだけど」

「これの大半は容器とかの洗浄用なんだよ」


 死者の蘇生も可能にする万能薬。それは死者の肉体から離れた魂を再び呼び戻す秘薬だ。魂を呼び戻す時、エリクサーに不純物が混じっていると完全な蘇生ができなくなることがある。上手く身体が動かせなくなったり、記憶が一部欠如したりする可能性があるんだ。


 不純物を限りなく減らすために、エリクサーを作る工程の途中からは全ての容器を高純度聖水で洗浄しなければならない。


「そうか。あれだけの量を使って万能薬一本分にしかならないのか」


「ごめん、フリーダ。貴重な商品を……」


「いや、気にするな。それより問題は聖水の在庫がなくなってしまったことだ。二本以上作ろうとするなら聖女から追加で買う必要があるな」


 死者すら回復させるエリクサーを最低一本はルークスたちに渡しておきたい。でもエリクサーは手足の欠損などにも使える。今後魔王軍の強い魔物や魔人たちと戦う彼らには、可能な限り多くのエリクサーを所持させておきたかった。


「教会とかでは買えない?」


「教会で買うより、勇者パーティーにいる聖女から購入した者の方が質が良いんだ。シルフが高純度化する手間も少し減る。それにかっこうの理由じゃないか」


「た、確かに!」


 俺がフリーダの手伝いをするようになって、彼女の商売は大躍進した。ほぼ無限に商品を運べると言うことは、売り手と買い手さえ押さえておけばいくらでも儲かるということ。彼女には長年商売をしてきて方々から得た強い信頼があった。


 面白いくらい稼げてしまうから、フリーダはやりすぎたんだ。正直ひくくらいのお金を目の前に積み上げられた。それを全部、俺が好きに使って良いらしい。


 そのお金は、何とかして勇者パーティーに渡すことになった。俺に使い道を託されたんだけど、家族会議を開いてそうすることを決めた。勇者ルークスたちが魔王を倒して世界が平和になれば、俺たちが平和に暮らせるということに繋がる。だから俺たちは、勇者パーティーに出資することにしたんだ。


 ただ、どうやってお金を渡すかが問題だった。


 彼らが持つ収納袋の中に、俺が収納魔法で勝手に金貨を入れておくこともできるが……。身に覚えのない大金をルークスが見たら、貧しい村とかに配ってしまいそうだ。あいつはそーゆー性格のヤツだから。レイラたちもたぶん止めないだろう。


 後ろめたさを感じさせずに、彼らにお金を渡す方法が必要だった。それを勇者パーティーから聖水を購入するという手法で達成しようというのだ。


「フリーダのアイデア、採用です!」


「勇者パーティーから聖水を買って、お金をたくさん渡すんだね。うん、いい考えだ! 神託を受けた聖女なら、いくらでも聖水を作れちゃうからね」


「あっ。もしかしてシルフは聖水の作り方を知ってる?」


「もちろん!」


 一年以上聖女セリシアと旅してきた俺でも知らない聖水の作り方を知っているらしい。大精霊って、やっぱり凄い。何度でも思うけど、彼女と契約できて良かったな。


 セリシアは絶対に教えてくれなかったし、もし作ってるところを覗いたらパーティーを抜けると言われていた。だから諦めて聞けずにいた聖水の作り方を聞いちゃうことにした。


「聖水ってどうやって作るの?」


「聖女がいるなら簡単だよ。必要なのは大量の水かお湯、それから大きな入れ物」


「入れ物?」


「お湯とかを溜められるもの。例えば浴槽とか。聖女の身体がすっぽり入る大きさが良いかな」


 なんとなくだけど、嫌な予感がした。



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