第38話 茶子(妹)の気持ち


 百合花に散々遊ばれてご立腹な茶子を連れて商店街へ。僕の家からは商店街の方が近いというのと、あと、歩けば色々安く手に入ることで、夢咲モールではなく商店街をよく使うわけで。


「お兄ちゃんは結局……誰が好きなの?」


 魔法少女は唐突な子が多い。妹は何を仰っているのだ。そんなことは決まっている。決まっているが、何故だか茶子には言えないのだ。


「素敵狛さん? 百合花さん? この前デートした心寝さん?」

「茶子、どうしてそんなこと気になるんだ? 僕はただのボッチ童貞だぜ?」

「そんなこと知ってる!」


 全肯定か!


「知ってる……私が聞きたいのは、お兄ちゃん、素敵狛さんのこと、どう思ってるのかってこと。す、好き、なんでしょ?」

「いや待て茶子! そ、それは!」

「ふふっ、焦ってる焦ってる! そっか、そうだよね。あーぁ、残念だなー?」

「残念って、なんだよ? あ、あまり兄を馬鹿にするものではないぞ?」

「残念だな。私もお兄ちゃん好きなのに」


 はい?


「はっ! な、何でもない! 今のはそう、あれ、あれなの!」

「お、おう! あれか! そうだよな、あれだな!」

「うん、あれ、だから……」


「「うん」」



 茶子はわざとらしく咳払いをし、そのたわわに実った果実をこれでもかと揺らしながら先へ。

 今のは、そう、人として、兄としてだよな。照れ隠しが中途半端だから変な気分になったではないか、妹よ。しかし、後ろからでもこれだけ揺れを観測出来るけしからん身体は、童貞兄には少しばかり刺激が強かったりもするのだぞ、自重したまえ。


「まずは野菜よ! ついてきなさい、このお兄ちゃんめが!」

「へいへい」


 程なくして八百屋に到着。

 八百屋の親父の目線が気になるが、——明らかに目を見てないが、それはさておき、茶子は慣れた口調でメモされた野菜を選んでいく。勿論、持つのは僕の仕事。お次は肉、魚とまわり、両手が塞がったところで茶子が口を開く。


「お兄ちゃん、駄菓子屋寄ってこう?」

「あー、昔よく来たなぁ。いいぜ、奢ってやる」

「やったー!」


 子供の頃のような、無邪気な笑顔を見せた茶子は嬉々として店内へ。僕もその後を追い店内へ入ったのだが、こんなに狭かったかな?

 僕たちが大きくなっただけなのかな。


「いらっしゃいませなのじゃ。本日は箱買いがお得なのじゃ。さ、買うのじゃ」


 この子は昔から変わらないよな。黒髪の幼女にしか見えないが、昔からここにいるということは僕より歳上なのか。見えぬ、見えぬぞ。

 それよりその口調だ。ストロベリーの奴を思い出してしまうな。ストロベリーは月から来た残虐極まりない奴らに殺された。心寝が戦線を離脱したのも奴らのせいだ。僕は何としてでも、奴らを倒さねば気がすまない。だが、その奴らってのが、どうにもあやふやで思い出せないのだ。


「買うのか? 買わないなら出て行くのじゃ」


 月からの侵略者、それは敵だ。妖精たちはそんな敵から地球を守るために、僕たちに力を与えた。


「のんじゃ!」


 僕たちは、正義のために戦っている。

 あれ?

 僕は、素敵狛さんの願いのために戦っていたはず。


「のじゃのじゃ」


 魔法少女、デバイス、願い、対価、妖精たちは何者なんだ? 何故かその疑問が消えそうになっていた。僕はどこか妖精たちを疑っていたはず。何か目的があるはずと睨んでいたはず。

 なのに、何故、忘れかけていたんだ?



「それは暗示なのじゃ」



 え?


 チーン。と、壊れたレジを鳴らす幼女は僕を真っ直ぐに見据え言った。

 記憶が、蘇る。


 ……そうだ。僕はチュクヨミを殺そうとした。チュクヨミはどうなった? チュクヨミの仲間がいた。僕はそいつら全員と戦って、その後、意識を失ったんだ。ブルーベリーが僕を操り、素敵狛さんを媒介にして。あたまがいたい、しかし、なぜか、思い出せたみたいだ。


「……お兄ちゃん……チュクヨミちゃんは?」


 茶子。そうか、どうやら茶子も思い出したようだ。もしかしたら他の皆んなも。


「茶子、帰ろう」

「うん」


「三百円なのじゃ」チーン


 外に出る。その時だった。


「おに、ぃ、ちゃ……」

「茶子!?」


 茶子が倒れた。

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