第23話 露天(露天狛さん)風呂


 期間限定ではあるが、所謂シェアハウスハーレムが完成したわけで。


 部屋割りは当然ながら個々に分かれている。空き部屋は余るほどあり、それぞれがそこそこ離れた場所に寝泊まりすることに。心寝曰く、平等のためだとか。意味はわからん。


 食事はリビング、——あのやけに長いテーブルでとることにし、シャワー、風呂は女子が先、順番は適当に、と決まった。


 で、全員の風呂が終わった頃合いに、一人で入るには広すぎる、ちょっとした旅館の露天風呂を彷彿とさせる湯に浸からんと、バスタオル片手に向かったのはいいが。


何故なにゆえついてくる?」

「お前はわりゃわの保護者兼玩具なのだから、風呂も共に入るのが当然であろ?」


 共に過ごしはじめ三日目になるが、チュクヨミはずっとこんな調子である。初日に百合花と入ったのはいいが、どうやら隅々まで隈なく洗い尽くされてしまったらしく、それからは僕から離れなくなってしまったわけで。


「皆んなお前がかわいいんだよ。だから女子と入ってくれよ……」

わりゃわの妖美なる肉体美をその宇宙のデブリが如きクズめいた瞳に焼き付けられるのだから光栄に思うがよい」


 えげつねーなコイツ。

 いやドヤ顔で跳ねても揺れない胸を張られても困るんだが。まぁ、幼女の裸なんて、茶子で見飽きているし何とも思わないのだが。とはいえ、その当時は僕もガキだったが、しかししっかりと憶えているのだ。それがこの僕、田中だ。


 茶子はその頃のこと、憶えているのだろうか? なんか、色々思い出してしまいそうだから、そろそろ妄想を終わりにせねば。


 うん、風呂場に到着だ。


 自分の服を脱ぎチュクヨミの服も脱がせてやり、——ぷりんと脱がせてやり、いざ入浴タイムとチュクヨミに手を伸ばしたが、空振りした。と、同時に細くも柔らかなイチョウ型の何かが僕のナニを握る感触がしたのだが、おいこら!


「それは手じゃねーよっ!」

「おお、しゅまんしゅまん。ちょうどちゅかみやすい太さで間違えた。くふふ、どうしたのだ、顔が赤いぞ田中ちゃなか?」

「なんでもねーよ、あ、あまり大人を馬鹿にするなよ?」

「小童がよく言うのぉ」


 生意気なガキだよホント。どう見てもお前の方が小童だろうが。握るんじゃねぇやい、コンチキショーーン!! 初めてがお前かよ……


 気を取り直し、ここの露天風呂は空が拝めて頗る気分がいい。普段滅多に湯に浸かることがない僕も、率先して足を運んでしまうくらいには魅力的な風呂場である。


 引き戸を開けると、夏の夜の、冷たいとは言い難いがそれでも少しばかりヒヤッとした風が身体を吹き抜け、白い湯気が視界を奪う。

 徐々に視界は晴れ、僕の目の前に広がるのは日本庭園風の中庭と、空の濃い青、星々、その星々が照らし称える黒髪のミニっ子全裸。


「え」

「おおー、ちゃまきではないか〜、お前は大人おとにゃしいから苦ではないぞ。苦ちゅうない、近うよれ。共に身を清め合うのだ」


 チュクヨミが何か言っているが、僕にはどうでも良かった。目の前に広がる天使の湯浴みを動画で脳内に焼き付ける作業に没頭していたわけで。

 しかし、激痛が僕のデータフォルダごと天使の湯浴み動画をぶち消してしまう。


 裸に白い泡(その泡がしっかり仕事していて大事な部分は見えない、しかしそれが至高)の姿で、変質者を見るような目で、——いや確かに変質者と思われても仕方ないが、全裸の幼女にソレを握らせた男の図なのであり。いやチュクヨミ、だからはやく手をはなせーーーー!! いちゅまで握ってんだ!


 そんなはちゃめちゃな思考を現実に引き戻すように、僕の頭を強打した風呂桶がカコンカコンと音を立てて足元に落ちる。


「し、死んでください」

「はい……どうぞ殺してください……」



 ◆◆◆



 なんだ、ここは天国か。ありのままの姿の素敵狛さんと背中合わせとはいえ同じ湯に浸かるなんて。おまけにチュクヨミも泳いでいるが、もはや目に入らぬ。丸見えだが。


 背中ごしに伝わる心音のリズムにだけ意識を集中させる。否、させざるを得ない。


「タマキは騒がしいのは苦手です」


 いつも唐突だな、素敵狛さん。


「まぁ、僕も素敵狛さんと二人の方がいいが、でもまたいつチュクヨミみたいな強敵が現れるかわからない。ここは皆んなと協力して月からの侵略者と戦うほうがいいとは思う。心寝の言ってることもあながち間違いではないのかなと」

「そうかも知れません。確かに、タマキ一人では力不足かも知れないけれど、でも、さいごには皆んなで願いをかけて争うわけで。だから」

「情がうつらないように、一人で戦ってた」

「……何を犠牲にしても、タマキは願いを叶える。叶えなきゃいけない。もう、後戻りなんて出来ないのです。お父さんとお母さんに……会いたいんです」


 お父さんと、お母さん——


 何故だろうか。何かが引っかかる。


 僕はまだ、彼女たちのことを何も知らない。素敵狛さんの願いが、もう一度お父さんとお母さんに会いたい、対価は不明。

 百合花の願いが男になりたい(その場の思いつき)で、同じく対価は聞けなかった。

 心寝と茶子に至っては、願いすら知らない。僕はもう少し、この子たちのことを知るべきだろう。願いの正当性、対価として背負っているであろう何かも含めて。


「先に上がります……このことは誰にも内緒です。変な噂を立てられると面倒ですから」


 泳いでいたチュクヨミがその動きを止めこちらに振り返る。素敵狛さん、せめて隠してくださいね。いくらなんでも慣れすぎじゃぁない?


「田中くんにはいずれ全て話します。タマキの願いと対価。それを知った上でも……


 ……タマキを助けて、くれますか……?」




 当然だ、僕はそう決めたのだから。


「僕はもう、素敵狛さんのモノだ。好きに使ってくれればいい。あ、そうだ。欲を言えば、全てが終わった時には濃厚な治癒魔法をば——」


「その時は、魔法抜きで」


 え?


 素敵狛さんは一言だけ発し、その場を去るのであった。今、何て言ったの、かな?




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