第34話 田中(デバイス)と映画
僕は心寝未来、——売れっ子アイドル未来と共に映画館に来ている。当然心寝は変装(と言っても大した変装ではない)をしている。
歩く度に愉快に跳ねるツインテール、程よく小さくて、しっかり出るところは出ていて(そこそこだが)、女の子らしさで言えば文句なしの満点。そんな女の子が僕の隣でポップコーンに舌鼓をうつ。
こんなところをファンに見られでもすれば、僕はそれこそ袋叩きだ。休養をとると言って活動休止中の心寝未来が一般ピーポーな上にボッチで童貞な僕と映画館デートだなんて。
「何をそんなにガクブルしてるの?」
「あ、いや何でもない。それより、何の映画が見たいんだ?」
「ん〜、サキュバスちゃんは処女を捧げないthe movie〜鈴木の生殺しデスゲーム〜とかどう?」
「それ、普通に十八禁のやつね」
「照れてるの?」
「そうじゃぁない。そもそも僕たちは十八歳以下だ」
「冗談だよっ。何、顔赤いよ? もしかして、想像、ううん、妄想したの? 田中くんって、ほんっと変態なんだね〜」
皆んなのアイドル未来ちゃんが僕のナニソレをアーダコーダのアナコンダ、とか、そんな思考を巡らせていたなんて口が裂けても言えない。
「キモい〜。男の子ってすぐエッチなこと考えるんだから。素敵狛環、——素敵狛さんもそんな目で見てるんだ?」
「す、素敵狛さんをそんな目で見たことなんて、生まれてこの方一度もないぞ」
「へぇ〜? で、わたしのことは、エロい目で見てたわけだ」
「ちょ、待て! 誤解だ! ん、このフロアも五階か? いやそんなことはどうでもいい!」
「いいんだよ? だって、アイドルやってると慣れるし。わたしのファンだって皆んな、わたしでヌいてるんだろうし」
「いや待て心寝ちゃん、それは違うぜ?」
「違う?」
「あぁ、違うぜ。ファンからすれば心寝は最高に可愛い女の子だ。しかし、いざ自慰となった時、自らが一番崇拝する女の子で妄想することは出来ないのだ! 後ろめたさからか、それとも、他に理由があるのか、それは僕にもわからん! しかし、殆どのファンは、心寝をそんな目で見ていない。心寝に夢を抱いているだけだ。ステージで輝く心寝を見て、元気や勇気をもらうんだよ。そう考えるとさ、アイドルって、いい仕事だよな」
「なんかいいこと言ってそうで、ただの変態だね」
「と、ともかく、心寝未来という存在が救っている心もあるってことだ」
心寝は首を傾げ大きな瞳を瞬かせる。
「そ、そう、かな?」
頬を赤らめ上目遣い。悔しいが可愛いのは認めよう。僕がその可愛いを脳内で連写撮影していると、心寝はくるりんと回転しながらポップコーンを一口放り込み、クスリと笑った。天使だ。
「ファンクラブ、入ってくれる?」
「ん、あー、まぁまた今度な!」
「何よそれっ、む〜」
夏祭りで置いてけぼりにした、その埋め合わせのつもりで来た映画館デートだが、どうも可愛くていかんな。僕は素敵狛さん一筋のはずなのに。
男の性、これが、サーガ……
「きゅうびのキュウちゃんにしよっか?」
「あー、あのエモフレの作家さんが書いたやつの映画版だろ?」
「知ってるんだ! わたしね、エモフレ大好きなんだ。可愛いだけじゃなくて、シリアスなところもあったりして」
「じゃ、それにするか。チケット買って来てやるから、心寝はそこらへんにいろよ?」
「わたしも一緒に行く! だって言ったでしょ? 今日はわたしの好きにしていいって」
そう言って腕を組むアイドル。柔らかなものが僕の理性をゴリゴリ削りゆくのを何とか制し、二人でチケットを購入。
館内は既に薄暗く、暫くすると、辺りは暗転。
暗転。
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