第31話 魔法少女素敵狛環(青)【神視点シナリオ】
環の肩を掴み押し倒し、まるで人を喰らうかのように変身を強要する田中。その力に抗えず、——豹変した田中の圧に押された環に青い衣服が取り付いていく。当然、周囲の人たちはその異様な光景に目を丸くするわけで。
「田中くっ、んっ……いやっ、そんなの……」
『はははっ、久しぶりだねタマキ? ボクだよ、ブルーだよ? ボクと一つになろうよ?』
「……っ、貴方は、デバイス、さん?」
『そうだよタマキ。君のデバイスだよ。君の願いを叶えるために、ボクがチュクヨミを殺す力をあげるよ! 君なら大丈夫、あの百合花なんかより強い君なら、あの神を殺せる! アイツが一人の今が最大の好機なんだよ』
抵抗も虚しく変身した環の手に武器である包丁が召喚される。
「い、いやだ」
『駄目だよタマキ? 殺さないと、ほら、殺されちゃうよ?』
瞬間、あたり一面が色を無くす。木々の緑も、空の黒も、色とりどりの花火も、空を見上げる人々も、全てが色を失い動きを止めた。
しかしその中で、頭を抱える環に歩み寄る小さな影が確認出来る。
「こんな人目にちゅくところで変身とは、
『わざわざ来てくれたんだね? 殺されに!』
「黙るがよい、貴様と話しているのではない」
「チュクヨミ、ちゃん……に、げ……」
「なるほどの。心の隙をちゅきよったか。
『さすがは神さま御名答。ボクたちデバイスは力を封印されているからね。ヒトを媒介にしないと力は使えないんだ。その上、ヒトの意思を操ることは出来ないから大変だよ。でもね、ボクは心を操る力があるんだ。それには相手に好意をもってもらわないといけないのが難点だけどね』
「変身を、解除しなさ、い!」
『タマキ、君が悪いんだよ? 君が田中を好きになったからこうなったんだ。ボクとしては作戦通りだけどね。さぁ、神を殺すんだ。一対一なら勝ち目もある! 君の願いのために! 両親を消してまで会いたい両親に会うために、消えたもののために、君はやらなければいけない。もう後戻りは出来ないんだ!』
「でも、チュクヨミちゃんは……悪い、子には……見えないから」
「
『タマキ、犠牲にした命を無駄にするのかい? 君の願いを叶えるためには、やらないと』
「……パパ……ママ……」
「
「チュクヨミちゃん……今のうち、に……」
殺して。環の瞳からは大粒の涙。数日共に過ごしたチュクヨミに情がうつったのだろう。身勝手な願いのために、彼女を手にかける。そんなことになるくらいならばと。歯を食いしばって俯いた。
『タマキ!? 君は両親の犠牲を無駄にするのかい? ここで死んだら、全部おしまいなんだよ?』
「……田中くんなら……こうする、から!」
「了承した。
「ありがとう……」
チュクヨミの背に光の帯が具現化される。小さな手のひらを前に出し、力を込める。
「……」
ドン!
色の無い世界に、赤が飛び散る。
『躊躇ったな月読命! ギャハハ、間に合ったぞ、コイツの身体はボクのモノになった!』
ズルリ、と木を背にしていたチュクヨミが地面に膝をつく。蹌踉めきながらも立ち上がったチュクヨミは狂気に満ち溢れた表情を浮かべ笑う環を見た。
「……
『無駄だ。さーて、簡単には殺さないよ、チュクヨミちゃん? くっ、はははっ! 愉快ゆかい! せっかくだからこのモノクロの世界を真っ赤に染めてみようかぁ!』
「ちゃ……な、か……
チュクヨミの言葉など気にもとめない青が地を蹴り、瞬時に間合いを縮めると、容赦なく刃が振り下ろされる。躱し切れず左肩を裂かれたチュクヨミは苦痛の表情を浮かべ後退、——後退したが、投擲された包丁が太腿に突き刺さる。
「くっ」
『更に!』
その包丁に蹴りを入れチュクヨミの小さな身体ごと吹き飛ばし、再び大木に打ちつける。舞った血飛沫を浴びながら、地面に這う幼女に一歩、また一歩と迫る環の姿をした悪魔。
「はぅ……ちゃ、まきぃ……わりゃ、わは……殺したくなど……ない」
『そうかい。ならばお前が死ねばいい。簡単だろう?』
「おま、えた、ちは……何者、なの……だ」
『それはね、こっちの台詞なんだけど?』
環は両手を伸ばしチュクヨミの首を締め付ける。チュクヨミの脚は空を蹴る。
『バイバイ、神さま? ボクたちの遊びの邪魔をするから、こうなっちゃうんだよ?』
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