第32話 未来(ミライ)前編【心寝視点シナリオ】


 田中くんが行っちゃった。ミライよりも妹の方が大事なんだね。シラけたなぁ。でも、多分、そんなところが田中くんのいいところなのかな。

 可愛さなら絶対に誰にも負けてないのに。クラスの皆んなはチヤホヤするのに。田中くんだけはミライを特別扱いしない。ミライは特別扱いされたいわけじゃないの。寧ろ、それが嫌で芸能活動を休止したんだから。だけれど、田中くんには、


「普通の女の子。普通の高校生活。普通の彼氏。ミライは普通になりたいだけなのに」


 孤独だな。クラスでも目立たないボッチくんにフラれて一人、濡れた浴衣で立ち尽くすなんて。なんとも滑稽。


 これが、ミライの対価。


 ミライの願いは、ただ、普通になること。

 産まれた時からレールに抗うことも、疑問に思うこともなく生きて、多少見た目がいいということで子役としてデビュー、そのままアイドル活動を開始すると、たちまちトップに。

 側から見れば順風満帆の日々、でも、ある日を境にミライは気付いた。


 誰も、ミライを見ていないんだって。


 ミライは本当の自分を見てほしい。ただそれだけなのに。他の魔法少女たちは皆んな、もっと凄い願い事をしているんだろうなと、そう思うけれど、ミライにとっては、とても大事なことで。


 妖精にお願いするほどの願いじゃないかも知れないけれど、ミライにはそれしか方法がないの。ミライを縛るものを自分の手で振り払う力も勇気もないのだから。そう、思ってた。


 そんな時、ストロベリーに出会った。彼女はミライの願いを叶えてあげると約束してくれた。


 ミライは少しの勇気を振り絞って、ママに活動休止を打ち出した。すると、高校生活を楽しみなさいと言ってくれた。ミライが思っていたより、ママは簡単に頷いてくれた。

 本当、妖精に頼むほどじゃなかったのかも知れない。結局、ミライには対価だけが残った。


「……誰の恋愛対象にも属さない」


 それがミライの対価。誰にも愛してもらえないという対価みたい。勿論、人として愛されることは可能だけれど、恋愛対象にはならない。

 この時点で、普通の恋をするという願いは潰えたわけで。


「ねぇストロベリー? ミライ、もう魔法少女、辞めてもいいかな」


 ストロベリーは答えない。


「ミライは皆んなみたいに強くないし、攻撃全然当たらないし。百合花と協力関係を結んでいたから今までやって来れただけだし。でも、その百合花もミライを見てくれなくなっちゃった。全部、田中くんの所為だよ」


「百合花なら、ミライを気持ち良くしてくれると思ってた。でも、一向にミライを見てくれない。それどころか、素敵狛環に入れ込んだ挙句、田中に堕ちた。ミライがいるのに……ずっと側にいたのはミライだったのに」

『それがお前の対価なのじゃ。受け入れるが良いのじゃ』

「久しぶりね、ストロベリー。アンタが出て来たってことは、敵が来るのかな」

『敵は常に側にいたのじゃ。最強の敵が。だが今が好機なのじゃ。アレを殺す最大の! ミライ、お前の力を貸してくれなのじゃ』

「ミライの、ちから?」

『月からの侵略者とは、神の姿をした悪魔なのじゃ。奴らを倒さねば、この世界は』



 滅びるのじゃ——


 ストロベリーは真剣な面持ちで言った。


『真実を見極めるのじゃ。今、我々の仲間であるブルーベリーが目覚めたのじゃ。そちらへ加勢し、偽りの神、チュクヨミを倒すのじゃ!』

「チュクヨミちゃんを……?」

『チュクヨミは百合花を殺そうとした張本人じゃということを忘れてはならないのじゃ』

「そうだよね。チュクヨミちゃんは、敵」

『月を破壊するのじゃ。そして願いを叶えるのじゃミライ』

「叶えたところで……」

『願いを叶えた者の対価が消えると言っても?』



 対価が消える?



 それはつまり、普通の女の子みたいに、普通に恋愛が出来るってことだ。

 田中くんも、手に入るって、ことだ。


「……ストロベリー? チュクヨミの居場所、わかるかな」

『なのじゃ! 勿論なのじゃ。さぁ、世界の主人公はミライなのじゃ。最強の敵を倒し、月を破壊するのじゃぁ!』

「……マジカルアーツ、発動……」


 超、超、超、絶、可愛く、可憐に、月を破壊する。



 わたしには、それしかのこっていないんだ




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