第10話 コブシ(百合花)とハート(心寝)の魔法少女
くそっ、僕は馬鹿か! 敵の動きを待つとか都合の良いことを言って何をしているんだ。僕の所為で素敵狛さんが……いや、今は考えるな! 後悔も懺悔も、素敵狛さんを助けてからだ。
幸い、他の魔法少女も駆け付けてくれている。それに、ラズベリーのマスターは素敵狛さんと関係がありそうでもある。あの小さい方もそうだが、そのマスターも何処かで見たことがあるような。
素敵狛さんの呼吸が少し落ち着いた。
傷口に薄皮が。よし、回復してきている。そう胸を撫で下ろす、——とはいえ、撫で下ろす胸はないのだが、少し安心した矢先だった。
「あぁっ……かはっ……」
何故だ? 素敵狛さんの容態が急変した?
「何をしている! しっかり彼女を守れ! お前、それでも環のデバイスか!」
くっ、ラズベリーマスターに怒鳴られるが、僕にもどういうことかわからないのだ。傷は塞がっているのに。
『えっと、ラズベリーのマスターさん!』
「
何だよ、デバイス田中って。それはさておき、百合花さんだな。
『傷は塞がってるんだ! それなのに突然苦しみ出した! 理由がわからない!』
僕に振り返り敵と対峙する百合花さんに向かって、デス野郎の再生した指が伸びる。百合花さんは意識を敵に集中させ華麗に回避し、ラズベリーを両手で優しく囲いそのお団子に唇をつけた。
「アタシと一つになりな、ラズ。マジカルアーツ発動、インストール!」
百合花さんが光のシルエットになりラズベリーがそれを取り巻くように飛び一体化していく。シルエット越しに妖精がキスを、百合花さんもキスをお返し。なんだ、この変身演出は、新しい扉を無理矢理開かんとするこの演出は!
百合花さんの髪は超ロングのエメラルドグリーンに変貌し、緑をベースにした風を纏う魔法少女となる。武器は、なし?
何処かボーイッシュな魔法少女ホタルは僕に振り返り言った。
『……もしかしたら毒の類いかも知れない! あいにくアタシは回復魔法を持ち合わせていない』
伸びる指をあしらいながら敵との距離を詰める百合花さんの動きは素敵狛さんのそれを遥かに上回っている。元々運動神経がいいのだろうか?
「おらぁっ!!」
「おっと危ない、物騒な拳デスね〜! もう少し芸のある攻撃は出来ないのデスかね?」
「めんどくせーのは苦手だ! 今まで全部殴り伏せてきたんだ、お前も同じだよ!」
「ふふふ、威勢がいいことデス。そんな貴女は、その悪魔に何を願ったのデスかね〜? 実に興味深い」
デス野郎が一気に距離を取るべく跳躍したその時だった。跳躍したその先に待ち受けていたのは、
「ギッタンギッタンにしてやるんだから! ストロベリー! 変身よ! マジカルアーツ発動っ、超超超〜、絶! かわいく〜、インストーーーール!」
『なのじゃ〜!』
変身エフェクトで発光した妖精のおかげで小さい方のお顔が遂にはっきりと見えたのだが、——あの金髪ツインテール、キラキラでクリクリのおめめと瞬きひとつで風を起こしそうなくらい長いまつ毛、ああ、なんてことだ。間違いない、
彼女は
うわぁ……ハートが惜しみなく使われたキュンキュン演出で華麗に変身を遂げた心寝たんは、やはり妖精と同じく薄紫の髪へと変わる。フリフリのアイドル衣装を思わせる魔法少女ミライは回避してきたデス野郎の頭上で両手を振り上げる。
その小さな両手に具現した超超超〜巨大なハンマー(ハート付き)が激しく発光する。
「つーぶーれーろー!!!!」
ドン! と強烈な打撃音が町全体に広がっていく。当然、デス野郎は地面に、と思ったが、
「痛いデスね〜、死にます?」
「きゃっ!」
片手で止めた? しかも下からの追撃も躱し、その上二人を同時に地面に叩きつけやがったぞ?
心寝たんが地面にめり込んだ横で風の力を使い着地した百合花さん。
「うぶぶ……ぷはっ、もう、ミライのことも助けなさいよね!? ボコボコにしちゃうぞ?」
「そこまで余裕ないっての……! ち、しかし幹部クラスは強いな。ここはしっかり連携をしないと勝てないかもな」
「ふん、ミライに合わせなさい? 脳筋は超超超〜かわいいミライの援護をしなさいよね!」
「……はいはい、んじゃ頼むよ」
あの二人、大丈夫かな。
僕は僕の出来ることをする。外傷がないのなら内側の問題。そうだ、素敵狛さんともっと、一つに。
内側から治癒を試みる!
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