第12話 回復(怪物)【神視点シナリオ】


「こんのぉぉ〜! ちょこ、まかっ、とぉっ!」

「可愛いデスね〜、必死にハンマーを振るその姿。そんな貴女は何を願ったのデ、ス、か?」

「アンタにはカンケーない話でしょ! 話し方キモいのよ! さっさと潰れなさいよね!」


 身の丈を超える巨大なハンマーを振り回しては月からの侵略者である男を攻めたてるのは、超超超〜が口癖の人気アイドル魔法少女、心寝未来こころねみらいである。

 薄紫のツインテールを激しく靡かせながら空中戦に持ち込む彼女を地上から援護するのは同じく魔法少女の百合花螢ゆりばなほたるだ。

 連携(というより猪突猛進する未来に風のバフ効果を付与しているだけ)でスピードが格段に上がった未来の素早さでも敵を追うのが精一杯のようで、苦戦を強いられている。とはいえ、元々未来はスピードを殺した戦闘スタイルなので、バフ効果を足してもそこそこの素早さしか持ち合わせていない。

 武器が大き過ぎるのである。


 苛立ちを隠せない未来とは打って変わり、地上からそれを見上げる螢はひっそりと口角を上げていた。


『なのよ、加勢しなくていいのよ?』


 衣服となったラズベリーが螢に言うと、頬を赤らめた彼女が言った。


「いやぁ、眼福だなぁと思って。それにちゃんと援護はしているだろ?」


 風の付与により激しく靡くのは何もツインテールだけとは限らない。


 依然攻撃はヒットせず、未来の体力だけが削られていく。次第に口数も減り本気の焦りが見え始めた時、その心の隙を突くように敵が攻撃を始めた。

 自在に伸びる指を駆使した攻撃を何とか躱し相手の頭上に出た未来は大きく腕を振り上げた。


『のじゃぁ! 今度こそペシャンコにするのじゃ!』

「あったりまえよ! 超超超〜っ絶tクラーーッ」


 巨大ハンマーが激しく発光した。しかし、そのハンマーが振り下ろされることはなく、それどころか未来の腹部にめり込むは、敵の頭そのものであり。


「かはぁっ!? ……っ??」

「残念、伸びるのは指だけではないのデスよ〜」

「くっそ、がぁ……」


 ハンマーは地面に落下、空中で変身が解除された未来を指が絡めとるように拘束する。お決まりの構図の出来上がりである。


『なのよ、ちょっとこれはヤバいのよ?』


 ハンマーと共に落下してきたストロベリーを螢が何とかキャッチし、ひとまず胸の谷間に挟み込む。


『のじゃぁ〜?』ピヨピヨ

『そ、そこはラズの特等席なのよーー!』

「まぁ許してやれってラズ。気絶しちまってるし。さっきの頭付きでコイツがやられちまったのが変身解除の原因か。それにしても、あれはファンが見たら発狂するレベルの恥辱だな」

『ホタルもニヤけてないで助けるのよー!』

「わかってるっての! 確かにアイドルちゃんは可愛いし今の構図は脳内に保存するべき神絵だけど、アタシの一推しは環って決まってんだよな〜! だからここで負けてゲームオーバーになるわけには、いかないんだよ! ラズ、アレをやるぞ」


 螢は体勢を引くし、ドンと地を蹴った。自身に付与したバフ効果で瞬時に敵の懐に入った螢はそのまま相手のみぞおちを拳で抉った。

 これには流石の幹部クラスも唸り、力が抜けたことで未来が解放された。力なく落下する未来を風で優しく降ろす。そしてここから怒涛の連打。


「おらおらおらおらぁ! これだけ近距離になると伸びる身体も意味がないってかぁ!」

『チャージ完了なのじゃ!』

「了解っ、終いだぁっ! 連打でチャージすることで最大まで威力を上げた拳を喰らいな! 剛風弩級拳死ぬほど痛いパンチ!!」


 拳に小さな竜巻を纏った螢は怯む男に強烈な、——生温い、強烈過ぎる一撃を腹に決めた。

 くの字で吹き飛んだ男は観覧車に激突しそのまま落下。顔面から地面にダイブした。


 しかしこの男、伊達に幹部クラスとは言われていないわけであり、ムクっと起き上がる。とはいえ、今の攻撃でかなり体力を失っているかにも見える。


「ちっ、どんだけタフなんだよっ……」

『ホタル、大丈夫なのよ?』

「余裕余裕って……言いたいところなんだけどさぁ、ちょっと、無理かも……」

『全エネルギーを放出した必殺の攻撃で仕留められなかったのは痛いのよ……のよのよ』


 すると気絶していた未来が頭を抱えながら起き上がり状況に顔をしかめた。瞬間、螢の変身も解除されラズベリーとストロベリーが地面に尻もちをつく。


 月からの侵略者が迫る。蹌踉めきながらも、一歩、また一歩と迫る。


「今までの奴らとは違うってことかよ……アタシの願いのためにも、こんなところで……」

「ミライは負けられない……もう、こんな生活は嫌だ! そのために対価を払って……それでも叶わないまま死んで……」

「未来、お前、まだやれそうか?」

「……や、やや、やるしか、ないでしょ!?」


 その時、——二人の間を縫うように横切る影が確認された。瞬間、————鮮血


「……なっ……た、環、なのか……?」


 一瞬のことだった。蹌踉めき歩く男の首を包丁で掻っ切ったのは、素敵狛環だった。

 螢たちの後方には田中がうつ伏せで倒れている。男の喉を掻っ切ったのはクマさんパジャマとク○ックス姿の環のようだ。


「あぎゅぁぃぁぁーー!? きっ、ずぁまぁ! こ、このっ、わだっ——」

「時間がありません。とっとと死んでください」


 斬。頭部は乖離、暴発したホースから噴き出した水のように赤が噴き上がる中、環は振り返る。

 黒い髪も、勿論、衣服も。赤黒く染まった彼女は一歩足を踏み出す。


「デスーーーーーーーー! 頭部さえ残っていれば動けるのデスーーーーーー死ねーー!!」

「そうですか、なら、次からは頭を潰します」


 振り向きもせず包丁を後方へ投げると、見事に直撃。男は名乗ることも許されず、更には断末魔すらあげることも出来ずに絶命し、やがて跡形もなく消えてしまった。


 目を丸くする二人の魔法少女に見向きもせず、彼女が向かった先。それは、


「田中くん……今、ち、ゅ……」


 糸が切れた人形のように無防備に倒れた環は、同じく倒れて息を荒げる田中に覆い被さる。


 当然、二人は顔を見合わせて瞳を瞬かせた。それこそ未来は顔を真っ赤に染め、螢は生唾をのむ。


「気を失っているみたい、だな……」

「と、とにかくミライの家に運ぶ? 変身すれば何とか運べると思うけど。このままじゃヤバいし、何とか治療しないとだよ」



『その必要はないのですわ〜!』



 真夜中の屋上遊園地に響く甲高い声。

 月を背に立つシルエットが、限りなくプルンプルンである。その声を聞いたラズベリーが悪態をつく。


『お前、遅いのよ!』

『契約に時間を取られてしまいましたのですわ』


 シルエットの女の子が口を開く。


「えっと……クランベリー? 私、何をすればいいのかな?」

『変身に決まっていますのですわ〜!』

「えーっ、また? あの格好恥ずかしいよ」

『ですわ! 早くしないと、大好きなお兄ちゃんが死んでしまうのですわ?』

「お兄ちゃん……わ、わかった……変身する」



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