第27話 夏祭り(茶子)その一
ほら、お兄ちゃん行くよ! ——そう言って僕の前を歩くのは言うまでもなく妹の茶子なのだが。
薄いピンクと白の浴衣が張り裂けんばかりで、もう悲鳴とか聞こえてきそうなくらいに、とにかく、盛り盛りなのであるよ。
「茶子、良かったのか? リア充のお前が僕なんかとお祭りに来て」
「私が見てないとお兄ちゃんが犯罪者になっちゃうかも知れないんだから。そ、そう、監視なの! これは監視を兼ねての同行なんだからね? 勘違いしないでよね! 別にお兄ちゃんとお祭り行きたいわけじゃないんだから!」
お兄ちゃんとお祭り行きたかったのね。
甘えたな妹だな。仕方ない、ここは少し付き合ってやるか。茶子のことだ、何か甘いものでも買ってやれば大人しくなるだろう。
「素敵狛さんの治癒魔法、凄いよね」
「ん? チュウ?」
「治癒! まさかとは思うけど、お兄ちゃん、治癒魔法されたりしてないよね?」
「ばばば馬鹿を言えい妹よ! ないない!」
ぐっ、咄嗟に嘘をついてしまった。
「ふーん、そうなんだ。ま、回復は私に任せてくれればいいし、今後治癒魔法の出番はないわね」
治癒魔法。変身せずに発動可能な魔法。その方法はチュウ、つまりはキスだ。素敵狛さんは変身状態でなくても、それなりの魔法を使う。他の魔法少女たちもそれが出来るのだろうか。
「ありがとな、茶子。でもよ、茶子の能力って回復特化だが、これじゃやっぱり不利だよな?」
「え、何が?」
「だって、さいごに月を破壊しないと願いは叶わないんだろ? 攻撃手段のないお前じゃ月は壊せないだろ」
茶子が遠い目をしている。どうやら、気付いていなかったみたいだ。
「ど、どうしようっお兄ちゃん! これは大問題だよ!? 私だけめちゃくちゃ不利じゃない!」
「お、落ち着け茶子!? 浴衣がはだけるレベルで暴れるな!」
「これが落ち着いていられますかってんだい!」
「いや口調もおかしくなってるから! と、とにかく人目につかないところに移動するから来い!」
世話のやける妹だよ。ひとまず落ち着かせるために、僕は茶子の手をとり走る。少し強引だが、致し方あるまい。
後ろで何か言っているが、この際無視だ。少し走り歩道から逸れた辺りで振り返る。
「お、お兄ちゃん……っはぁ、はぁっ」
一度目を逸らし、二度見。
「はぁ、はぁ、おに、ぃちゃ……」
そこには成人指定クラスの茶子が。無理に引っ張ったことで浴衣がはだけ大変なことに。更には息を切らし頬を真っ赤に染め上げるという追い討ちまで発動していた。これはいかん、——視線が、男共のエロ視線が茶子をこれでもかと視姦してやがるのがわかる。やめろ、僕の妹を目で犯すな!
愛で犯していいのは、この僕だけだ。
エロ視線の弾幕をかい潜り、何とか人の少ないベンチまで逃げ果せた僕は、茶子の浴衣をなおしてやり、やっとのことで一息つけたわけだが。
「……」
「はぁ、というかさ、茶子は何を願ったんだ? そんなに大層なことなのか? 茶子のことだし、スイーツ食べ放題とかそんなところじゃないの?」
「……そ、そんなの、言えるわけないし」
「なんだよ。好きな人と結ばれたいとか、そんなところか? そんなことなら、願いに頼らなくても大丈夫だって。茶子は可愛いし、えと、スタイルもいいし。きっと上手くいくって」
だから元気出せよ、僕はそう言って茶子の肩をたたく。しかし、その手はすぐに弾かれたわけで。
「叶うわけないよ! このクソお兄ちゃん野郎のド変態童貞ボッチ!」
えー……
「ちょ、茶子!? 何処行くんだよ!」
「お兄ちゃんなんて知らないっ! 死ね!」
え〜……
行ってしまった。そして僕の心は逝ってしまいそうになった。が、そんなことを言っている場合ではないな。とにかく追わないと。
あの調子で走ってると、また男共に今夜のおかずとして脳内保存されてしまう。けしからん! それは兄として断じて許せんぞ!
とにかく茶子を追うしかない。
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