第28話 夏祭り(茶子)その二
「お兄ちゃんなんて知らないっ! 死ね!」
茶子のやつ、実の妹にそんなこと言われたら本気で死んじゃうぞお兄ちゃんは! お兄ちゃんという生き物は、そういう生き物なんだぞ!?
僕の気持ちも知らずに、好きな人がいるならそれでいいじゃないか。何を今更、隠すことがある。
そんな思考を巡らせ走っていたのだが、いつの間にか茶子の姿を見失ってしまった。あの質量の果実を引っ提げて、この人ごみを抜けるとは。
周囲を見回してみる。
浴衣姿の女の子たちがよりどりみどりなのは眼福だがしかし、茶子惑星がどうにも見つからない。と、胸のサイズで捜しているのは否めない僕だが、至って真剣である。
落ち着け、茶子の香りを辿れば……兄には妹の香りを感知する能力が標準装備されているのだ。兄ならわかるはずだ。
「
「うわぁっ、チュクヨミ!?」
「うむ、チュクヨミであるぞ」
「あれ、お前一人か?」
「うむ、皆は迷子になっておるようだの」
十中八九、迷子はお前だろ。
「チュクヨミ、茶子を見なかったか?」
「おっ○いならこの先へ走って行ったぞ? あれはよく揺れておった、にしし」
「そうか! よし、行くぞチュクヨミ!」
「うむ、迷子を
『ヒヒン!』
うわ! こ、こんなところでバチャシを巨大化させるな!?
「ほれ、お前も乗るがいい」
「四の五の言ってられねーみたいね。くそ、どうにでもなれ!」
僕はバチャシの背中に乗る。僕の前にチュクヨミがすっぽり収まる構図の出来上がりだ。
チュクヨミはバチャシのたてがみ、——残りわずかのたてがみを強く握る。いや、あまり引っ張らないであげてミチミチ抜けてますから。
いっけぇぇ! ブチブチブチ! 的な効果音が鳴り響き、バチャシが人ごみを縫うように走り抜ける。不思議と周囲の人は気付かない。あの時、商店街を馬で歩いていた時もそうだった。もしかすると、チュクヨミの力で周囲が感知出来ない仕組みなのかも知れない。
この幼女、得体が知れぬだけに警戒せねば。
結果から言うと、茶子はまんまとバチャシに咥えられ捕獲された。親猫が仔猫を咥えて移動するみたいな感じでプランプランと揺れる茶子と茶子の胸。結局時間も経過し、茶子の番は終わりを告げた。
「もう帰るもん!」
茶子は当然ブチ切れて帰ってしまった。何をそこまで怒っているのかわからないが、帰りにコンビニスイーツでも買って謝るか。
「あれ〜? 妹ちゃん、怒らせちゃったの? 田中くん」
「心寝……そ、そうみたいだ」
「ま、そりゃぁ怒るよね」
「ん? 何か言った?」
「何でもないよ、ほら田中くん、ラストを飾るに相応しい超超超〜可愛いミライの番だよ! エスコートしてね? そ、れ、と、も、ミライがリードしたげよっかなぁ〜?」
茶子……
「ねぇねぇ田中くん? 田中くんってば〜」
「あ、悪い悪い。じゃ、何処から廻る? と言っても、既に殆ど見てしまったのだが。しかしそのお面は何だ?」
「ミライがスーパーアイドルなの忘れてない? お面で顔隠してないと大変なことになるでしょ?」
確かにそうか。そういやアイドルだったな。
爽やかな水色の薄手の浴衣が涼やかで綺麗だ。いつものツインテールもお団子みたいに盛っていて、これぞ、ザ、お祭りみたいな格好になっている。
しかし何だろうか。やはり僕は素敵狛さんが、
「田中くん、金魚すくい行こう?」
「え? あ、わ、わかったわかった!?」
僕の腕に豪快に掴まる心寝。胸が、む、胸が当たっているというか、僕の腕がめり込んでいるというか、心寝って結構胸あるんだな……
着痩せするタイプなのか?
茶子が気になるが、これで最後だ。アイドルとの束の間のデートを済ませて早めに帰ろう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます