第37話 茶子(妹)vs百合花
おーい田中ぁ、とフランクに肩を抱いてくる男前な美女、百合花は、僕が蹌踉めくのも気にせず無邪気な笑みを浮かべる。
「田中ぁ、アタシと遊ぼうぜ〜?」
「なんだ百合花? 遊びたいなら茶子なり素敵狛さんなりと遊べばよかろーに」
「茶子ちゃんはアタシにツンツンだし、環は自分の世界に浸っているし、暇そうなのは田中しかいないんだよ〜、なぁなぁ〜?」
揺らすな揺らすな。
と、言いながらも、百合花の柔らかさに身を委ねていると、当然現れるのが茶子であって。
「こんの、お兄ちゃんめが! 今日は私と買い出しに行くって言ったじゃない! はっ! べべ、別に……お、お兄ちゃん野郎と行きたいわけじゃないけれど、き、決まりなんだから仕方なく、な、なんだからね!? そこんとこ勘違いしないでよね?」
模範的なツンデレ台詞だな、相変わらず。それを見て更に僕に絡みつく百合花なのだが、頼むから茶子を刺激しないでくれまいか。ついでに僕にも刺激が強いわけであり。
その時、背筋の凍るような感覚をおぼえたのだが、振り返るもそこには誰もいないわけで。気のせい、だろうか。
「田中、アタシも一緒に行くぞ? 茶子ちゃんを守らねばならんからな!」
「ゆ、百合花さんっ! 余計なお世話って言葉、知ってますか?」
「お、なんだ何だぁ? 妹ちゃんはお兄ちゃんを他の女に取られるのが嫌なんだな〜? くぅ、ベタではあるけど、お兄ちゃん大好き妹キャラはいいなぁ。赤らむ頬、釣り上がる眉、実にいいね」
「そ、そそ、そんなんじゃないもん! お兄ちゃんは童貞で女の人に耐性がないんだから、ゆ、百合花さんみたいな人と二人っきりになったら、狼になっちゃうかも知れないんだから!」
おーい、お二方?
「狼、いいじゃねーかぁ! ウェルカムだぜ?」
「ウェルカムって……そ、そんなの私が許さないんだからね!? お、おにおに、お兄ちゃんはっ! お、お兄ちゃんはっ! 一生童貞なの!」
茶子よ。それは嫌なんですけど。
「そりゃ過保護というか、束縛が激し過ぎやしないか茶子ちゃん? 男ってのは女の知らねーところでハァハァ処理してるもんだぜ? いつも一緒に寝ていて、そんなことも知らねーのかい?」
「ハァハァだなんて……ちょ、ゲスお兄ちゃん! それは本当なの!? 私が隣にいるのに、そ、そんな、ハァハァしてたってこと!? キモ!」
あのぉ……
「ハァハァしてるに決まってんだろ? ゴミ箱を見たことないのかぁ?」
「ゴ、ゴミ箱?」
「そうそう、ゴミ箱」
「ゴミ箱は……それぞれ別にあるけど」
「開けたらビックリカッピカピ〜、かもよ?」
「カピカピ? ど、どういう意味?」
「そこからか〜。よーし、茶子ちゃん、お姉さんが色々教えてやるよ。そのカピカピの正体はな」
「百合花ぁっ! ……そのくらいで……」
堪らずストップをかけた僕を見てニヤける百合花と、訝しげな表情を向ける茶子。
茶子はそんなこと知らなくていいのであるよ。
じゃあなぁアタシは環を愛でてくる、としてやったりな顔で部屋を去る百合花を見送ると、茶子が腕を組み僕を見下してくる。行き場をなくした胸が形を変える。
「よし、行くか」
「じぃ……」
「百合花の言葉を信じてはならぬ。アイツは特別なんだよ」
「そ、そうだよね、うん、そうだよ! お兄ちゃんは童貞なんだから、そんな知識あるわけないよね!」
「あ、そうだな、うん」
結局、僕は茶子と買い出しに行くことになった。
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