第41話 撃ち上げ花火(田中)


 僕と素敵狛さんは屋敷を後にした。

 向かう場所は僕が素敵狛さんに解体されかけた、あの見晴らしのいい高台にある寂れた公園だ。そこで百合花と神さまたちが戦闘を開始しているはずだ。神さまたちは恐らく僕たちを救おうとしていたのだ。しかし僕たちはそれに気付けなかった、それどころか反撃をしてしまったわけで。

 今回の襲来は、僕たちに対する粛正に近いだろう。このままでは百合花が危険だ。チュクヨミ一人でもあの力なのだから。


「素敵狛さんっ! 変身して一気に向かおう!」

「し、仕方ないですね、変身しましょう」

「スピード重視で軽量化を限界まで施したバージョンで行く!」

「なるほど、普通のでお願いします」


 僕は赤面する素敵狛さんを堪能する間もなく、自らの形態を変化させる。


「くぅ……今は一大事です。マジカルアーツ発動! 一気に公園まで飛びます!」


 僕自身が素敵狛さんに成っていく感覚。なんとなく、久しい感じがする。最低限隠すべき場所を隠し、余った容量を全て翼を形成するのに使う。これはあくまで最高速で飛ぶため、必要なことなのだ。

 茶子、僕がお前を助けてやる。ついでにチュクヨミに頼んで死期のことも何とかしてやらぁ!


 空中から公園を探す。

 見えた。あれは……二人の男女と百合花が対峙しているようだ。戦況は、


「完全に百合花さんが押してますね」


 確かに。百合花の奴が強いのは知っているが、神二人を相手に優位に立ち回っている。とにかく今は加勢するしかないみたいだ。

 素敵狛さんと共に、——というか一心同体だから共にも何もないが、とにかく、百合花の元へ降りる。


「来たか田中〜! こっちはもうすぐ片付くぜ! 田中と環は月に残ってやがる最後の一人を頼む」

『おい百合花っ、話がある! コイツらは悪じゃない! 黒幕は妖精たちだ!』


 百合花は拳に込めた闘気を放ち、二人を突き飛ばしこちらに向き直る。


「何言ってんだ、田中? コイツら全員倒して月をぶっ壊しちまえば願いが叶うんだぜ?」

「百合花さん、今は願いよりも茶子ちゃんです! そもそも妖精が言っていることが本当かどうかすらわからないじゃないですか!」

「環〜、可愛いなぁもう! でも、そんな可愛い環の願いでも聞けないぜ? アタシは願いを叶えてみせる」


 今更願いって、どういうことなんだ。

 百合花の願いは男になりたいだったはず。そしてそれは大した考えもなく決めたから願いはどうでもいいと言っていたはずだ。


「そのためにはさ〜、コイツらが邪魔なんだよ!」


「くっ、これほどまでの力が……」

「月読、逃げて……」


 百合花の両拳がそれぞれを貫いた。目にもとまらぬ速さで間合いを詰めて。百合花は消えていく神の真ん中で高笑いをあげ僕たちを睨んだ。

 その瞳は、あの時の瞳に似ていた。そうだ、はじめてチュクヨミと戦闘したあの時だ。あの時の瞳にそっくりだ。まさか暴走しているのか?

 いや、違う。あれは暴走なんてものではない。僕はそれを知っているはずだ。自分の意思に反して身体が動く感覚を。しかし、その類いが得意なのはブルーベリーなのでは。ラズベリーにも人を操るほどの力があるのか。


『おいラズベリー、いつからお前だ!』

『なのよ、田中のくせに中々聡いのよ』

『やはりな! 百合花を操ってまで神を殺したいのか? それに、何故そこまでの力が』

『なのよなのよ、魔法少女の力は願いのスケールによって変わるのよ』

『だとしたら、それこそおかしいだろ! 百合花の願いは案外小さかったはず。素敵狛さんが強いのはその話を聞いて納得出来るが……』


「あはははっ! 田中〜! アタシの願い、アタシの対価、実は嘘だ〜! アタシが百合花の意思を操ってそう言わせただけ、なのよーーっ!」


 百合花の意思を?


「コイツの願いは世界の終わり! 対価は意思の喪失なのよ! チュクヨミとかいう神とやり合う前から、コイツが気付かないままに、言動を操っていたのよーー、だから、どこからが百合花で、どこからがラズかはわからないのよー! ぎゃはは!」


 やられた。つまり、百合花が願いや対価を語ったのはコイツに意思を操られてのこと。しかも百合花からマークがはなれるように解決した感まで装いやがったのか。最後は百合花で月を破壊して、百合花自身の願いで世界線が消えるのを狙って。

 そんな百合花、——百合花の形をした邪神が次にしでかすことは決まっている。


「さーて、月ごと残りの神をぶっ飛ばしてゲームセットだぜ!」


 月の破壊だ!


 百合花が体勢を低くし力を溜めはじめる。僕は素敵狛さんに止めようと促した。当然素敵狛さんは際どい衣装の靡も気にせず、いや、少し気にしているが、止めにかかった。しかし、百合花の拳からの巨大なエネルギー弾が発射された。あれが月に激突したらチュクヨミでも危ないかも知れない。今の百合花の力なら、チュクヨミごと月を破壊することも可能なのかも知れないのだから。


 くそっ、あれを止めるにはどうすればいい?




『素敵狛さんっ、僕を月に撃ち込んでくれ! 幸いあのエネルギー弾は弾速が遅い。ありったけの力で僕を放ってくれ! 頼む!』

「え!? 月にですか??」

『素敵狛さんのためなら、月に撃ち込まれても本望だと言っただろ? ましてや、茶子の命も、この世界までも救えるなら、それこそ本望じゃないか! はやく!』

「でもでもですよ!? 田中くんを撃ち込んでしまった場合、タマキの服は?」

『最低限の僕の衣服分を残して飛ばしてくれ! ギリギリセーフな格好になるかも知れないが、その状態で百合花を抑えておいてくれ。チュクヨミを見つけたあとは考えがある! まずはアレを止めることを考えるんだ!』

「くっ……中田くん……サヨナラ!」


 両手を空に掲げて勢いよく僕を射出した素敵狛さん。って、サヨナラ言うな!


『ンゴゴゴーー!! 素敵狛さんっ! たなかだぁぁーーーーっ!!!!』


 ぐがが。とてつもない速さだ。しかしこのまま宇宙となると、まずいよ?

 ええい! 何とかなる! カピバラの創作なんだし、何とかなるさ! 説明なしの何でもありワールドなんだからよーーー!!!!




 僕は、人類史上初の、生身での宇宙進出を果たしたのであった。(質問は受け付けません!)













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