第39話 対価(???)


 茶子?


「おい、茶子!? どうした?」


 反応が薄い。熱は、——熱があるわけではない。それよりも、顔色が明らかに悪い。とにかく素敵狛さんの家まで連れて帰るか、いや、ここは救急車が先決か、しかし素敵狛さんのチュウ魔法の方が確実に治せる気がしないでもない。

 あー、僕は何を迷っているんだ!


「おい! ですわ妖精! いるなら出てこい!」

『ですわー!』


 やはりいたか。ということは、駄菓子屋で僕たち二人が記憶を少し取り戻したことも知っているのだろうが、今はそんなことはどうでもいいのである。


「茶子の倒れた原因に心当たりは!」

『ら、乱暴な物言いですわ〜、レディに話しかける時はもっと』

「あー、うるさい! いいから答えろ!」

『……多分、対価の発動ですわ〜』


 対価の発動? 茶子の対価ってのは何なんだ?


「おい、ちゃ——」

『答えられないのですわ』


 即答かよ。しかし、対価が関係しているなら病院に行ったところでどうにもならないかも知れない。ならば取る行動は一つだけだ。茶子を背中におぶり素敵狛さんの家まで行くしかないわけで。

 僕は自分より少しばかり背の高い茶子を背中に預け立ち上がる。しかし、巨大なクッション材が邪魔をして上手く歩けそうにない。感触を楽しんでいる時間もない。ならばと僕は茶子を正面から抱き上げる。立派なものが盛大に揺れたが、今は触れずに、いや触れたが、それはさておき、僕は妹をお姫様抱っこで運ぶ羽目になったわけだ。

 なりふり構ってられないか。


 ◆◆◆


 家に到着し、茶子を素敵狛さんに預けた僕は、二人のキスシーンを見たい気持ちを堪えリビングで経過を待つことにした。正面には百合花も座っている。


「……茶子ちゃんの対価って」

「それは僕も知らない。多分、知っているのは妖精と素敵狛さんだけだ」

『なのよ! でも、あの子も運がなかったのよ。まさかこんなにはやくなんて、なのよ』


 ラズベリーのやつは対価を知っている口ぶりか。ダメ元で問いただすも、なのよなのよとあしらわれ、やはり答えない。


「茶子……」

「妹が、心配か?」


 ?


「あ、あぁ、そりゃ心配だ。僕のたった一人の家族なんだから」

「そっか……悪い田中、ちょっと出てくるわ」

「百合花、こんな時に何処に?」

「感じないのか? デバイスのくせに。敵を感知した。こんな時にもしものことがあったら大変だろ、アタシが見回りしてくる」


 確かに、反応がある。この反応、僕はこの反応を知っている。


「一人で戦うなよ、百合花」

「わーってるって、田中〜。アタシだってまだ死にたくないしな〜」


 違和感。


「任せときな、何かあったら妖精を通して報告するぜ。じゃ、妹のことは頼んだぜ?」


 何だろうか。この感じは。

 僕が思考を巡らせていると、百合花は行ってしまった。それと入れ替わりで素敵狛さんがリビングへやって来たのだが、


「……中田くん」

「…………田中ね」

「田中くん……」


 素敵狛さんの瞳が大きく波打つ。素敵狛さんの唇が小さく震える。僕は思わず立ち上がり素敵狛さんの華奢な肩を掴んだ。


「茶子は!?」

「痛っ……たな、か、くん……」


 つい力を入れ過ぎた。シャツがはだけ、僕の手形が赤く浮き出た白い肩が露わになる。


「田中くん、話があります」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る