第36話 日常の崩壊
フードのモンスターを倒してしばらくすると、モンスターは完全に殲滅された。
こちらは負傷者はいるが、死者はなし。アレだけのモンスター相手に上々な成果だろう。
「三神くん、お疲れ様です」
赤く染まった草原でモンスターから出てきたアイテムを回収していると、桐崎さんがこちらに向かって歩いてきていた。
その身体には血は一切ついていなく、綺麗なスーツだ。
逆に、自分を見てみるとその身体は赤黒い。
服やズボンなどに血がたくさん付着している。
とても鉄くさく、乾いている。この服は、もう捨てないとな。
「桐崎さん、お疲れ様です」
「オーガ、倒してくださり助かりました」
「いえ、オーガと戦ったおかげで得るものもありましたし、大丈夫ですよ」
そう言いながら、俺は足元のゴブリンが使っていたボロい剣を手に取った。
これらの武器は、これからどうするんだろうか。
「私がこっちにいなければ、ダンジョンの外にモンスターがたくさん出てしまいますからね」
俺が桐崎さんともし逆だったら、俺は確実にモンスターを外に出してしまうだろう。
俺には『時空間魔法』と『結界魔法』、『無属性魔法』しかない。
それに、それらの魔法で俺は大多数のモンスターを相手になんてできない。
だけど、それは桐崎さんも同じじゃないか?
いや、俺が桐崎さんの魔法で知ってるのは『転移魔法』だけ。他にどんな魔法が使えるのかなんて知らない。
「そういえば、どうやってあのモンスターの大群を外に出さないように戦えたんですか?」
いくら堀があるとしても、一人であの場所に立って戦うのは無理だと思う。
魔法があったから? それとも、スキルが強いから?
俺は桐崎さんのステータスなんて何も知らない。
「あぁ……それはですね。私のスキルを使ったんです」
「スキル?」
魔法じゃなくてスキル? 一体どんなスキルであの大群を蹴散らしたんだ?
「はい。私が使ったスキルは『鬼化』……効果は、身体能力の上昇。魔力の回復速度上昇。そして、狂化です。このスキルを使えば、私の意識は戦闘だけにしか行かなくなり、狂ったように戦うようになります」
「『鬼化』……それってオーガみたいなスキルですね」
「えぇ……それはそうでしょう。だって、このスキルは最初のあのオーガを倒したときに手に入ったスキルスクロールを使って得たものですから」
スキルスクロール? あの魔法の適正を調べるスクロールではなく?
そんなものが手に入るのか?
「スキルスクロールって、なんですか?」
「そうですね……私も存在を確認したのはあの一回だけでしたが、見た目は魔法適正のスクロールは普通の白い紙。ですが、スキルスクロールは黄金色でした。『アイテム鑑定』スキルを持っている人に調べさせたところ、スキルが『鬼化』というのは分かりました。後は使用方法ですが、あのスクロールを開いただけでスキルを取得し、スクロール自体は塵になりました」
「そうなんですか……ちなみに、そのスキル。今使うことってできますか?」
「できますが……ダメです。このスキルは理性が働かなくなり、狂人と化してモンスターと戦います。手に入れてから、一度だけ使いましたが自分でも歯止めが効かなくなり=るときがあります……なので、私は一人であんな場所でモンスターと戦っていたのです」
「なるほど……そうなんですね」
「ええ……それでは、大体拾い終わったようですから戻りますか」
桐崎さんが周りに落ちている剣と魔石を拾い上げて言う。
戻るはダンジョンの入り口だ。
っと、その前にオーガとの戦いで得た戦利品を回収しないとな。
オーガが落としたアイテムを拾い、回復したMPでダンジョンの入り口に『転移』する。
入り口には、地面には剣が何本も転がっており、横を見ると魔石がゴロゴロと転がっている。
「では、今後避難所はここに設置すると言うことでいいですか?」
「あぁ、避難所はここにしよう……だけど、またモンスターが来ないとは限らない。モンスターが来た進路から離れた場所に避難させよう」
「そうですね。では、私は一回小学校に帰り皆さんをこちらに連れてきます。他の三人はここに残り、避難所で使う場所を整地していてください」
「んじゃ、俺らは全員行くか。少し遠いから守る人は多いほどいい。それじゃあ、明日全員移動ということで……解散!」
円になり、今後の予定を話し合って解散する。
俺たち中学校組は全員で戻り。
桐崎さんは一人で戻り。
残った人たちは避難所予定地の整地。
そして、避難所にいる人たちの移動は明日となった。
現在の時刻は午後五時を大幅に過ぎている。
桐崎さんは今野さんが「解散」と言った瞬間姿を消した。
『転移魔法』で一人だけ小学校に帰ったんだろう。
……あれ? 『転移魔法』を応用すれば複数人転移できるんじゃないか?
「さーて、外に出るか……つっても、ダンジョンの中じゃここが中だと信じにくいけどな」
入り口を潜ると、そこは先ほど通ったばかりの暗い通路。
その先は灰色の世界に見える。
通路を抜け、外に出ると外は曇っていて今すぐにでも雨が降ってきそうな天気だ。
「これは、早く帰るしかねぇな」
それを見た今野さんが呟く。
そうして、俺たちは中学校に向かって歩き出し──
──何かが崩れる音が響いてきた。
その音はとても大きく、こちらにまで響く。
聞こえた方向は……中学校の方!
俺はすぐさま中学校の屋上をイメージし……。
「『転移』」
早口でそう呟いた。
瞬間、俺の身体を浮遊感が包み込む。
目の前にいた今野さんたちは消え、俺は今空にいる。
空に転移した覚えはない。
下を見ると、瓦礫の山。
辺りを見ると、見たことがある景色。
「ここが……中学校?」
数時間ぶりに帰ってきた中学校は、瓦礫の山と化していた……。
「『結界』!」
足元に『結界』を形成し、落ちるのを防ぐ。
落ち着いてよく見ると、中学校には巨大な何かが通ったような跡が見える。
だが……ここにいた人たちが見当たらない。
「『転移』」
再び転移して地面に着地する。
辺りを見回すが、誰もいない。
「おーい! 誰かいないかー!」
声を出し、叫び、歩き回るが……誰も返事をしない。
もしかして……みんなこの下に?
嫌な想像が、頭の中を駆け巡る。
「グギャッ!」
そんな中、物陰から声が聞こえた。
急いでそこに行くが、そこにいたのはゴブリン。
そして……。
「なんで……お前がそれを持っている」
そのゴブリンが持っていたのは、梨花さんが着けていた記憶がある髪のゴム。
そのゴムは、特徴的だったから覚えていた。
「グギャギャ!」
後ろからも、ゴブリンの声が聞こえる。
『気配察知』を意識してみると、ここには大勢のゴブリンが物を漁っていたようだった。
「お前ら……ゆるさねぇ」
短剣を握りしめ、目の前にいるゴブリンを斬る。
それを合図に、周りにいるゴブリンが一斉に飛びかかってきた。
そして──雨が、降り始める
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます