第31話 モンスターの大群


「桐崎さん!」


 多すぎるモンスターの反応が、こちらに向かってきている。

 それを『気配察知』で確認すると、桐崎さんを呼ぶ。


「三神くん……一旦『転移』で草原の入り口に戻りますよ」


「わかりました」


 桐崎さんが男の人と共に消える。

 それを見送ってから、俺は遠くへの転移を試していないことに気がついた。

 成功するかどうか、わからない。


 こんなことなら、一回長距離の転移にチャレンジしておくべきだった。


 『気配察知』には、未だモンスターの反応がこちらに近づいてきている。

 そして、近づいてくるたび『危険感知』の反応もだんだん強くなっていく。


 もう少しで、モンスターの先頭が見える。

 『転移』で移動するのは、モンスターの先頭を確認してからでいいだろう。


 茂みに身をひそめ、迫ってくる方向を見る。

 この反応の移動の速さを見る限り、モンスターは走っている。

 反応が、なかなか多い。

 十体くらいの反応ならば、数は数えられた。

 しかし、この反応はそれ以上……百はいそうだ。


 モンスターの先頭が、目視できた。

 モンスターの先頭はゴブリン……これは、ゴブリンの集団か?


 ……いや、違う。

 さっき見たウサギもいる。それにオオカミも。

 あの紫の小人もいる……。

 もしかして……複数種類のモンスターの集団か?


 そう考えてから、俺は転移の準備をする。

 イメージするのは草原の入り口。あの大きな入り口だ。

 イメージをして、魔法名を口に出して発動する。


『転移』


 視界が切り替わる……直前、俺はモンスターの集団の後方に大きな影を見た。

 あれは……明らかに鬼だった。


「来ましたか、三神くん」


 後ろから声をかけられ、振り返るとそこは草原の入り口だ。

 そこには桐崎さんと先程の男の人。そして今野さん達がいた。


「はい、モンスターの様子を見てました」


「なるほど……それで、どんな感じでしたか? モンスターは」


「モンスターはゴブリン、ウサギ、オオカミと紫色をした小人みたいなモンスター。それと……あのオーガです」


 空気が変わった。

 みんな、オーガと聞いてピリピリしている。

 だけど……今は桐崎さんがいる。桐崎さんならなんとかしてくれるだろう。


「なるほど……それで、数は?」


「多分……100は余裕で」


 場に、沈黙が流れる。

 最低この数が、こちらに向かっているのだ。

 こちらは先程の男の人を人数に入れると、十一人。


 入れないと十人だ。

 その十人で、最低一人十体……いけるか?


 俺は……いけると思う。

 だが桐崎さん、今野さんを除いた七人は……厳しいかもしれない。

 それに、オーガのこともある。

 桐崎さんに受け持ってもらうにしても、負担がでかいし、戦力もその分欠ける。


 桐崎さんが抜けるだけで、結構な戦力が下がってしまう。


「そうですか…………わかりました。まず、『土属性魔法』を使える君たち三人で堀を作りましょう。できる限りモンスターを分断できるように罠を作るのです」


 桐崎さんが、小学校から同行させた三人に命令を出す。

 あの三人が『土属性魔法』の担い手か……あの三人が小学校にあった建物を建てたんだろうか?


「残りの人たちは、作戦を考えましょう……あのモンスターの集団は、絶対にダンジョンの外には出しません」


「おう」


 三人に堀を任せ、俺たち七人は円になる。

 そして、座ると桐崎さんが自分が着ているスーツの胸ポケットからメモ帳とペンを出し、地図のようなものを書いて中央に置く。


「森とこの場所の間には、川や丘がありました。なので、多少進行は遅くなるでしょう……私たちは森まで行くのに十分を要しました。三神くん、モンスターの進行速度は私たちよりも早かったですか?」


 進行速度……ゴブリン達のスピードは遅いように感じた。オオカミも、そのスピードで走っていたから俺たちよりも速いことはまず無いだろう。


「いえ、かなり遅かったです」


「では、到着時間は最も早くて十五分くらいでしょう……この時間の中で、できる限りのことをします。ですが、私たちはスコップなどを持ってきていないため、罠を作れません。なので、できることといえば……ステータスを共有することでしょう。そして、集団と戦うときはそのステータスを元にした二人一組のペアを二つ。三人一組のペアを一つ作りましょう」


「おい、その計算だと七人しか入ってないが、俺たちは十一人いるぞ?」


「いや、あの……自分戦えないですよ?」


「まじかよ……」


「はい……」


 今野さんが桐崎さんに言う。が、それに反応して先程助けた男の人が喋った。

 全く戦えないとは……。


「自分、なぜか気がついたらここにいて……その前までは公園で日課のジョギングをしてたんですが……」


 そうなると、四日間ここにいることになる。

 その間の食料はどうしていたんだろうか。


「なるほど、でも大丈夫です。あなたはあのゴブリンを前にして助けを呼んでいたことから戦えないと言うことは分かっていたので、戦力には数えていません。ですので、私たちが戦闘中、黙って入り口付近にいてもらえると助かります」


「わ、わかりました……」


 なるほど、そうなると数えられていないのは三人……もしかして……。


「それで、数えていない三人ですが、それは私と今野さん、それと三神くんですよ。この三人は、一人で行動しても遅れを取らないと思っています。なので、一人で活動してもらった方が効率がいい」


「なるほど……でも、桐崎さんは抜けるだろ? あのオーガが相手だ。あんたしか勝てそうにない」


 そうだ。桐崎さんはあのオーガを相手にしないといけないからここにはいられない。

 だから、ここは俺と今野さん。それと他のメンバーで切り抜けないと。


「いえ……私はなんかあった時のためにここに残ります」


「「え?」」


 それでは、誰がオーガの相手をすると言うのだろうか?

 今野さんと俺が二人がかりで叶わなかった相手だ。


 桐崎さん以外考えられないぞ?


「それで、代わりにオーガの相手を務めるのは……三神くん。君です」


「え? 俺ですか?」


 桐崎さんが指名したのは俺。

 俺はついさっき叶わなかったばかりなのに……。


 オーガに攻撃を当てはしたが、力で負けてしまった。

 だから俺は無理なんだが……。


「三神くんはオーガと戦った時よりも強いです。魔法を覚えましたから……君は『時空間魔法』、『結界魔法』、『無属性魔法』の適性が高い。これらをうまく使って、オーガを討伐……最低足止めをしてください。こちらが終わったらすぐに向かいます」


 魔法……そうだ。俺は数時間前よりも成長した。『時空間魔法』をうまく使ってオーガをできたら討伐しよう。そして、モンスターが来るまでの間、他の魔法の使い方を知れば……イケる。



「分かりました。俺がオーガを……討伐します」


 

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