第32話 オーガ、再戦


 モンスターが来たのは、それから二十分弱経ってからのことだった。

 予想よりも遅かったおかげで、こちらの準備は万端だ。


 後ろを見ると、入り口の前には幅五メートル、縦二メートル以上はある大きな堀が。

 その前にはいくつもの土で出来た壁と、堀が複数ある。


「三神くん」


 後ろから声をかけられ、俺は前を向く。

 桐崎さんの顔は、悔しそうに歪められている。


「君に、あのオーガの相手をしてもらうことになって本当に申し訳ないと思っています……こちらが終わったら、すぐにそっちに向かうので……どうか、死なないでください」


 頭を下げる桐崎さんを見て、この人は本当に優しいと感じてしまう。

 こんな人に頼まれて、やってやろうと思わないわけがない。

 それに……


「大丈夫ですよ、桐崎さん……オーガを、倒してきます」


 あのオーガという種族のモンスターに負けたままじゃ、俺は納得しない。

 せっかくの再戦のチャンスだ。

 勝って、終わりたい。


「そうですか……では、どうかご無事で」


 桐崎さんが、入り口の方に歩いていく。

 あらためて前を向くと、目の前には大きな土煙。


 あれが、モンスターの大群だろう。


「それじゃあ……いきますか」


 走っているときに見た丘の上をイメージする。

 俺の役目は、あの集団からオーガを離し討伐または時間稼ぎをすること。


「『転移』」


 視界が切り替わり、俺がさっきいた場所がよく見える丘の上に着いた。

 丘から視線を移すと、モンスターの集団。

 ここから見ると、100どころではなく、200以上いる気がする。


 いくらあのメンバーでも、これだけの数を相手にすることは難しそうだ。


 モンスターの集団を見渡し、一際でかいモンスターを探す。

 そいつがオーガだ。


 モンスターの集団はまだまだ続いている。

 その奥に、一番のんびりしながら行軍している一匹のモンスターがいた。


「『見つけた』」


 その声に反応し、魔法が発動した。『転移』だ。

 俺は一瞬にしてオーガの真後ろに立った。


 魔法は、どうやら呪文名を唱えるだけではなくイメージをして言葉を口にするだけで魔法が発動できるようだ。

 これなら、対人戦でも言語が理解できるモンスターとでもやっていける。


 それを考えながら、俺は目の前に隙を晒してくれているオーガを見る。

 右手に握る片手剣が震えた。


 数時間ぶりのリベンジ。

 ここで、一撃で仕留めて桐崎さん達のサポートに行く。


 静かに、けれど素早くオーガの背後に接近し、跳躍。


 オーガの首目掛けて、片手剣を一閃した。


「グッ……!」


 けれど、片手剣は肉半ばで止まった。

 骨が断ち切れない!


「ウオオォォォォォ!」


 オーガが俺に気がつき、体を激しく揺らす。

 片手剣をオーガの首筋から抜くと、後ろに大きく跳躍し距離をとった。


 一撃で仕留めは損なったけど、傷はつけられた!

 これを繰り返せば、狩れる!


 だけど、最初の目的は一撃で倒せたら吉。倒せなかった場合は──


「逃げる!」


 オーガに背を向け走り出す。

 向かう方向は、入口とは逆方向。


 後ろを見てみると、オーガはこちらに向かって走ってきている。

 とりあえず、この場所からオーガを離さないと。


 オーガの走る速度は早くない。

 これは知っている。

 そして、あのオーガの攻撃にはまともに当たらなければ対処出来る!



 しばらく走り、止まる。

 この辺までくれば、他のモンスターに邪魔されることはないし、他の人に迷惑かけることもない。

 ただ、助けを呼んでも誰も来ないけど。


「さて、ここからが本番だ」


 振り向き、走って追いついてくるオーガを見て片手剣を構える。

 俺には、魔法がある。そして、ユニークスキルもある。

 勝ってみせる!


「『転移』!」


 剣を構え、呪文名を叫びながら剣を振る。

 視界が切り替わり、目の前にはオーガの足首。


 その足首に、転移する前から振っていた剣が直撃し、肉を斬る。


 血飛沫が上がり、オーガの巨体がバランスを崩す。

 巨体は、足元が弱い。これは桐崎さんが言っていた通り!


「ハァッ!」


 身体を捻り、手首を返す。

 そして、もう片方の足に向かって振り抜いた。


 血飛沫が地面に散って、オーガの巨体が倒れる。

 アキレス腱を狙ったんだ。

 これで、しばらくは立てないだろう!


「ウガァァァァ!」


 オーガが暴れる。

 四肢を振るい、周りにいる俺を排除しようと暴れ出す。


 だが、その範囲からはもうすでに脱出済みだ。

 ここで、俺が属性魔法を使えたらどんなによかったことか。


 魔法が使えれば、この隙を使って大きな魔法を放つことができたのに。


 しかし、どうやら俺は自分を強化する魔法や、人に直接作用する魔法は得意らしい。

 それで、これがさっきまで俺が練習していた魔法の成果だ。


「『アクセル』」



 ──世界が、モノクロになった。



 俺以外全ての速度が通常の半分、遅くなる。

 この魔法は、実際に全てのものが遅くなっている訳ではない。

 俺の知覚機能を『時空間魔法』で早めると同時に、俺の身体も『時空間魔法』で時間を加速させるというもの。

 この魔法は、二つのことを同時に魔法で処理するためMPの減りが半端ない。


 一秒につき4MP消費する。

 現在の俺のMPは86。少し回復しているから、今現在これを使えるのは実際の感覚で二十一秒弱。

 しかし、実際に使える時間は少ない。もしもがあった時のために、10は残しておかないといけないからだ。なので、十八秒くらいだ。

 その間で、決着をつけなければならない。


 急いでオーガの首もとへと移動する。

 先程つけた傷に何回か追撃をすると倒せるだろうと思ってだ。


「あれ?」


 だが、オーガの首には先程つけた傷はない。

 おかしい。確かに首もとにつけたはずだ。


 しかし、もう迷っている暇はない。

 

 剣を握り、オーガの首に向けて振るう。

 動脈さえ切れば、なんとかなるはず!


 だが、オーガの首は先ほどよりも硬い。

 刃が浅くしか通らない。


「クッソ!」


 もう一度、振るう。

 刃が通らないが、確実に通っている。


 残りは十秒くらい。

 その間で決着をつけなければ……!


 だが、オーガの腕が飛んでくる。

 今の俺にはゆっくり見えている。だが、それはただ俺が早くなっているだけで、威力は変わらない。

 なので、避けるしか選択肢はない。


 当たると、前のように凄いパワーで飛ばされ、魔法が途切れてしまう。


 オーガが俺に向かって何度も腕を振るってくる。

 何度も何度も、うっと惜しい!


 そう思っていると、『危険感知』が発動した。

 危険を感じたのは真横!


 バックステップでその場から跳び、その場所を見る。

 その場所には、先ほどから攻撃を仕掛けていたオーガの首が噛みつこうとしていた。


 そして、おかしなことに気がついた。


 先ほど攻撃していた部位から、白い煙が出ているのだ。

 素早くオーガの首元に再接近し、見てみる。


「なんだ……これ」


 見ると先ほどつけた傷跡が白い煙を出しながら、治って行っていた。


 そして……魔法が、MP10を残して切れてしまった。

 

 

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