第33話 オーガ、決着
魔法が切れ、全てが通常の速度に戻る。
オーガが俺に向かって腕を振るってくる。そのスピードは、先ほどの倍。
遅い攻撃に目が慣れてしまったせいで、普通の攻撃がとても早く見える。
オーガの攻撃を、ギリギリで後ろに回避し距離をとる。
その隙に、オーガは立ち上がり足の具合を確かめている。
足の傷も治ったようだった。
これで、オーガは無傷。俺も無傷だが、俺の残りMPは10しかない。
MPが10しかない……これは、たった転移2回分のMP。
オーガを倒すには、再生が不可能な程の損傷を与えなければならない。
そこで、不意に俺は昨日のシュウとの会話を思い出した。
『魔石はモンスターの魔力を凝縮したもので、モンスターの弱点でもあるみたいだよ。魔石を取られた、もしくは破壊されるとどんなモンスターでも死んでしまうらしい』
そうだ。魔石だ。
魔石を破壊すれば、このオーガは倒せる。
そのために、まずは魔石のありかを探らなければならない。
オーガがこちらに向かって片手に持っていた棍棒を振るってくる。
それを避けながら、オーガに接近しオーガの胴体切り裂く。
血が飛び散り、返り血が俺に付く。
しかし、それを気にせず俺はどんどんオーガの胴体……その至る所を斬る。
息つく暇もないほどの連撃。
オーガはその斬撃に対処しようともがくが、その巨体故に懐に入った俺の対処は非常に困難。
このまま切り続けていれば、いずれ硬いものに当たるはず! それが魔石!
時々、オーガの骨に当たるが、その場合はすぐに抜いて別な場所を切る。
魔石は骨とは違う場所にあるだろう。なので、明らかに骨だと思った場所は除外だ。
オーガの攻撃を躱しながら、胴体を斬り続ける。
しかし……魔石は、胴体にあるとは限らないんじゃ?
胴体以外の部位を見る。
足、手、頭……この部位に魔石があるかもしれない。
だけど、俺は足と手に魔石があるとは考えられない。残る選択肢は……頭。
頭、と言っても首だろうか。
桐崎さんも、オーガの首を一閃した。
あれが回復しなかったのは、もしかすると魔石を破壊したからかもしれない。
「もしそうなら……狙うは首!」
さっきは、首を切ろうとして骨が硬く無理だった。
しかしそれは斬ろうとしたからだ。
刺すことならできるのではないか?
今のMPは11。このMPは一分ごとに一パーセント回復するようで、MP全快になるには残り89分。しかしそうも待っていられない。
このMPで……一撃で、こいつを倒す!
そう思っていると、オーガがこちらに棍棒を振り回してくる。
オーガの角が不自然に淡い光を放っているのが見えた。
バックステップで棍棒を躱していくが、攻撃する隙がなくなってしまった。
オーガが力だけで棍棒を乱暴に振るうので、次の攻撃が読めない。
とりあえず、足を止めさせないと首は狙えない。
転移だって、この後に使う『アクセル』の他に習得した魔法を発動するのに一回しかつかうことができない。
足どめは、先ほどのように足を重点的に狙えばできるだろう。
そのためには、この攻撃をなんとかしないと……!
あの棍棒の攻撃を受け止めるのは無理。
前回は、それをやって天高く飛ばされた。
なので今取れる選択肢は回避するのみ。
回避していけば、この攻撃だ。オーガもいずれ疲れるだろう。
オーガの攻撃をひたすら躱し、隙を探る。
『気配察知』さえあれば、オーガの攻撃を躱すことはできる。
正直、俺は時間稼ぎでもいいと思っていた。
時間稼ぎをすれば、桐崎さんが来て一撃でオーガを始末してくれるだろうから。
だけど……俺は負けっぱなしは嫌だ。
オーガに勝って、挽回したい。
それに、俺は強くなると決めている。おじいさんと、そう約束したから。
強くなって、梨花さんを守れるように……あの俺を励ましてくれた笑顔を守るために、俺は強くならないといけない。
1回目の戦闘の時、俺は何もしていないのに桐崎さんが倒したオーガの経験値が入ってレベルが上がった。
レベルが上がったことには喜んだ。
だけど、このレベルの上げ方はなんか違う。
自分で、自分が倒してレベルが上がるからこそ意味がある。
泥臭くたっていい……惨めでもいい……最後に立っていた者が勝者だ。
こんな勝ち方、正直俺は好きではない。
俺は、もっと圧倒的な力で相手を捩じ伏せたい。
だけど、俺は弱い。
こんな勝ち方しか、俺はできない。
桐崎さんに憧れる。
俺の『時空間魔法』の劣化版だと思われる『転移魔法』と、桐崎さんの実力でオーガを一撃で倒したあの姿に。
俺は、ユニークスキルを持っている。
俺は、『時空間魔法』を持っている。
なのに、桐崎さんの方が強い。
いや……もしかすると、今野さんも俺よりも強い。
俺はまだまだ弱い。
このままでは、俺は梨花さんを守ることすら叶わないかもしれない。
そんなことは嫌だ。
だから──
「俺は……お前を超えて強くなる!」
オーガが棍棒を大振りに振った瞬間、隙ができた。
転移は使わない。
ただ、足に向かって移動し斬りつける。
「ウォォォォォォォォォ!」
オーガが雄叫びを上げる。
耳が大音量の声によって痛むが、今はそれを気にしている暇はない!
オーガの両足を切り、膝をつかせる。
棍棒は相変わらず出鱈目な速さで振われてくる。
しかし、これで準備は整った。
『転移』
俺の視界から棍棒が消えて、代わりにオーガの厚い胸板が見える。
少し見上げれば、オーガの首。
俺の今出せる全魔力を……腕に集中!
これは……単純に魔力を腕に込めた。ただそれだけの魔法。
これを放出することは、俺はできない。
ただ、俺は自分の身体を強化する魔法。そして、人に作用する魔法は得意らしい。
『強化!』
魔法名は単純。かつ効果は明白。
ただ魔力で強化するだけ。
「はぁぁぁッ!」
気合を入れた声とともに、両手で持った俺の片手剣がオーガの首に向かってまっすぐに突き進む。
邪魔するものはない。
その切先は、真っ直ぐオーガの首……その喉仏を正確に突き刺した。
「うおォォォッ!」
硬いものに当たる。
これが骨か魔石かは分からない。
魔石ではなかったら、この傷は再生し俺は殺される。
喉に突き刺さった剣を、叫びながら力を入れていく。
その切先は段々と奥深くへと突き刺さっていき──
──紫の塊と一緒にうなじから飛び出した。
《レベルが上がりました》
《レベルが上がりました》
《レベルが上がりました》
《レベルが上がりました》
《レベルが……
レベルアップを知らせるアナウンスが鳴り止まない。
「ハハッ……一体どれだけレベルが離れてたんだよ……」
オーガの身体が段々と散っていく。
剣の切先はオーガに刺さったまま、俺は尻餅を着いた。
魔力全損による症状……らしい。
これは桐崎さんから聞いた話だ
魔力を全損すれば、身体の機能が五割ほど低下しひどい目眩と頭痛に襲われる……と。
だから、俺はもしこれでオーガを倒せなかったら確実に死んでいた。
だが、俺はこの後やることがある。
桐崎さん達に合流し、モンスターの大群を片付けないと。
頭上から、オーガの首に刺さっていた剣が落ちてきた。
それは目の前に音を立てて転がる。
よく見ると、剣身にヒビが入っている。
この剣は……もう使えないな。
オーガが完全に消えた後を見ると、あの俺が無理矢理取り出したオーガの魔石と、額に生えていた角。
そして、瓶に入った青い? なんか淡く光っている液体。
とても怪しい色をしている。
これは明らかに飲み物ではない。
とりあえず、これらは持っていこう。
忘れないように入り口付近に置いておくか。
「残りは……」
オーガのいた場所から少し視線を移すと、オーガの持っていた棍棒。
これは……流石に持ち帰れないかな?
とりあえず持ってみようと近づき、持ち手を持つ。
その瞬間、棍棒は綺麗に砕け散った。
「えぇ?」
棍棒は塵のようになって消えていき、残ったのは小さな短剣。
短剣というのはありがたい。
ちょうど武器がなくなったところだからな。
短剣を持ち、荷物を一通りポケットに詰めて、俺は重い足を持ち上げながら入り口へと急いだ。
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