第20話 断罪


 『近衛 楽都』

 こいつを、許すわけにはいかない。


 こんなこと、俺は絶対に許さない。


「近衛 楽都……こいつがあの女の子をやったのか……!」


 俺は手紙を読み終わり、近くにいた人に渡す。

 その近くにいた人は、手紙を読み最後に書いてあった人物に怒っている。


 その人を見る。

 歳は大体高校三年生〜大学生くらい? とても見た目は若い。


「みんな……! この『近衛 楽都』ってやつを探すんだ!」


 その人は、周りに集まっていた人たちに言う。

 よく見ると、周りの人たちも同じくらいの歳の人が多い。


 若いグループはこの人がリーダーなのか?


「あの、見つけたらどうするんですか?」


 隣のリーダーらしき人物に話しかける。

 見つけたら、一体どうするつもりなんだろう?

 この人たちは、正しく人を裁けるのであろうか?


「そうだな……ここを追い出すか、校舎のどこかに謹慎じゃないか?」


 あいつが、そんな程度の処分で良い訳がない。

 ここから追い出したところで、次の避難所に行って同じことをするかもしれない。

 それに、謹慎したとしても解放された時にまた同じことをするかもしれない。


 いや、かもしれない……ではないな。一応、同じクラスの同級生だった。

 あいつを見る限り、また同じことを繰り返すと言う確信がある。


 あいつは……俺が処分したい。


「あの……あいつの処分は、自分にやらせてください」


 手を握り、その人の顔を見る。

 あいつの処分は、俺にしかできない。

 他の人にはできないだろう。


「いいけど……できるのかい?」


「できます」


 心配そうな顔で聞いてくる。

 だけど、大丈夫。

 俺はできる。


「わかった……いいよ」


 許可が出るのがアッサリしているな……。

 普通、なんか言われるようなことだと思うけど。


「正直、僕はこんなことをするような人間じゃないんだ……人を捕まえて何かをしようなんてとても思えなしね、めんどくさい。だから……君がやってくれ」


 お、おう……こいつ、イケメンの癖に爽やかな笑顔で職務放棄しやがった。

 だけど、ありがたい。

 あいつを裁くことができる。


「わかった……ありがとう」


「いえいえ……ところで君、三神 冬哉くんだろう?」


「え? ……まぁそうですけど」


 なんでこの人は俺の名前を知ってるんだろうか?

 この人にあった記憶は……俺にはない。

 なんでだ?


「なんで知っているのか? ふふ、顔に出てるよ。まあ、そうだな……こう言えばわかるかな? 人殺しさん、と」


 あぁ、そうか……この人は昨日、あの時あの場にいたのか。

 だから俺のことを知っているし、楽都のことも知っている。

 それで、昨日のあのやりとりを見て俺に楽都を始末させようと……。


「まあ始末は君に任せるよ……君ほど、適任はいないからね」


 そう言って、その人は校舎の方に歩き出し、中へと消えていってしまった。

 

「って、名前聞くの忘れてた……」


 名前を聞くのは後でいいか。

 それよりも……先に、あいつを始末しなければ。

 次の犠牲者が出る前に。





 ーーーーー


 俺は、まずとあるモノを取りに行ってから校舎裏に向かった。

 あいつは、中学の時よく校舎裏にいた。

 校舎裏には、倉庫がある。

 その倉庫は長く使われていなく、誰も入らない。


 そんな場所に、あいつはいる。

 もはやその倉庫は、あいつの第二の部屋だと言ってもいい。


 校舎裏に来るのはとても久しぶりだ。

 前に来たときはあいつに連れてこられたわけだが……。


 校舎裏に着くと、変わらない姿で倉庫はあった。

 だが、その周りは前よりも荒れている。


 倉庫に向かって歩くと、声が聞こえてきた。

 なんの声だろうか……?

 耳を澄ませて倉庫の中の声を聞く。


「なぁ、いいだろ? 少しくらい」


「や、やめて、やめてください!」


「いいだろ? なぁ」


「だ、だから……!」


 明らかに楽都の声だ。

 そして、女の人は嫌がっている。


「こいつは……生きていてはいけない人種だ」


 倉庫のドアを蹴り破り、中に入る。

 ステータスが上がったおかげで、扉なんて楽に蹴破れる。


「あぁ? んだよ、誰だよ俺が楽しんでるときに……」


「なあ……楽都。何してんだよ、こんなところで」


「あぁん?」


 倉庫にいた楽都は、上裸で大人しそうな女の人に覆い被さっていた。

 穢らわしい。猿かよ。


「なんだよ、人殺しじゃないか……何しにきたんだよ、俺が楽しんでるときによぉ」


 楽都はそう言って、立ち上がる。

 覆い被されていた人に目配せをして、出て行くように誘導する。

 そして、女性は頭を控えめに下げて倉庫から出ていった。


「お前……なんでこんなことしてんだよ」


「るせぇなあ? 俺が何しようと俺の勝手だろ」


 服を着て、俺に向かい合う。

 身長は俺の方が低い。

 微妙に見上げた感じになってしまう。


「昨日、お前が犯した女の子が……自殺をした」


 それを聞いて、楽都は目を見開いた。

 流石に予想はしていなかっただろう。自分が俺と同じ人殺しになるなんて、な。

 そう思っていると、楽都は下を向き肩を震わせ始めた。


「はっはっは! まじかよ! あの程度で死ぬんだ! まじか! やっただけなのになぁ! はは! そっか……死んだのか……」


 楽都はそう言いながら腹を抱えながら大声で笑う。

 今のどこに、笑う要素があった?

 なんでこいつは、笑っている?


「お前……人が死んで、何がおかしい」


「いや〜、まさか死ぬとはなぁ……流石に笑えるぜ……ヤっただけなのになぁ!」


 手に持っているモノがミシリと悲鳴をあげる。

 こいつは、頭がおかしい。

 やっぱり……殺そう。


「それで? 人殺しが一体ここに何しにきたってんだよ! それも……お前が苦手なナイフなんて持ってよぉ!」


 楽都が俺の右手に持っているものを見てそう言う。

 そうだ……俺はナイフが苦手、嫌い、怖い……。持ちたくない。

 だけど、俺のスキルを最大限発揮できるのは、皮肉なことにナイフだ。


「お前を……始末するためだ」


 そう言った俺に、楽都は眉を細める。


「へぇ? 始末? 一体始末って何をするんだァ? もしかして……お前が得意な殺しかァ?」


「あぁ……お前を、殺す」


「マジかよ! ほんとに殺すんだ! いいぜ、ヤって見ろよ! この俺を殺せるのならなぁ!」


 近くにあった鉄の棒を持ち、楽都が俺に向かってくる。

 早い……おそらく、ステータスを強化しているんだろう。


「だけど……俺はお前を殺す」


 鉄の棒を、持ってきたナイフで受け止める。

 その力は、鉄の棒の重さもあってか強い。


「おいおい、なんで人殺しが今さらナイフを持って怯えてんだ? 殺すのは慣れてんだろ? さっさと殺せよひ・と・ご・ろ・し?」


「黙れ!」


 ナイフで鉄の棒を受け流し、体制の崩れた楽都の身体に傷をつける。


「ハッ! この程度かよ!」


 傷をつけられたのにも関わらず、楽都は向かってくる。

 次の一斬りで……決める。


 鉄の棒をナイフで完璧に受け流し、そのまま地面に鉄の棒を落とす。

 そして、首に向かってナイフを走らせた。


「グフゥ⁉︎」


 深く切れた。

 これではもうじき死ぬだろう。


 手に力が抜けて、ナイフが落ちる音が響く。

 前回は……人を殺したのはたまたまだ。

 だけど……今回は、しっかり自分の意思を持って殺した。


「これで、お前の言う通り完全に人殺しだ……」


《レベルが上がりました》

《レベルが上がりました》


 二レベル上がった。

 案外、こいつレベル高かったんだな……。


 楽都の死体が、灰となって消えていく。


「人も……死んだら灰になって消えるんだな……」


 完全に灰となり、消えた遺体を横目に俺はそう言いながら倉庫を出た。


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