第19話 血溜まりの朝


 あの後、俺は友達の悲鳴によって駆けつけた近所の人と、その人達が通報した警察によって取り押さえられた。


 現場は、悲惨な状態だった。


 強盗の胴体は、ナイフの刺し傷が無数にあり原型がないほどグチャグチャに抉れていた。

 周りには、血が大量に飛び散っており部屋が赤く染まっている。


 警察が駆けつけた時にはもうお母さんは死んでいて、結愛も舌を噛み切り自殺していた。

 

 俺はその後、警察の質問に答えるだけの生活を続け、精神のことで病院に入院し家に戻ることはできた。


 そして、学校にも復帰したのだが……待っていたのは蔑み、恐怖……などと言った視線。


 あの日遊びに来た友達二人は完全に俺との距離を空けていた。





 居場所がなくなった俺は、仕方なく他の学校に転校。

 父親は……俺に生活費だけを渡し別々に住む事となった。


 そうして、平穏になったかと思った。

 転校した中学に初めて登校した時、あいつに……当時金髪だった、近衛 楽都目をつけられたのだ。


 目をつけられたのは、同じクラスになって自己紹介をした時。

 俺の目つきが気に食わないということでだ。


 そんなあいつは、金持ちの息子だったらしい。

 いくつもの情報網を使い、俺の秘密を調べ上げた。


 そんなことをしたら当然出てきてしまう。事件のことが。


 事件を知ったあいつは、そんな面白い秘密を暴露しないわけがなかった。

 

 次の日、俺がクラスに登校すると俺のクラスの黒板や、俺の机にいくつもの落書きがあった。

 その落書きの内容は当然事件のこと。


 『人殺し』『殺人鬼』『死ね』『学校来るな』などなど……俺の机と黒板に書いてあり、その噂は学校中に広がった。


 そして、俺はクラスに居場所を無くしたのだった。


「なぁなぁ、今どんな気持ちだ? クラスにお前の居場所なんかないぜ? さっさと辞めちまえよ人殺し野郎」


 その日の帰り、校門の前で待ち伏せしていた楽都は、俺にニヤニヤしながら聞いてきた。

 当然、その言葉で察してしまう。こいつがやったのだと。

 だが、俺にはもう何かをする気力なんて残っていなく、それを無視して帰ってしまった。


 だからだろう。そう言ったことは日に日にエスカレートしていき、俺は段々と学校をサボるようとなり、最終的には不登校となった。


 そうして、俺は中学三年の途中まで不登校となり、そこからは三年の時の担任の先生によって徐々に保健室登校だが学校に行くようになったのだ……。







「はぁ……嫌な夢を見た」


 思い出したくもない、中学三年間の記憶。

 唯一、中学校三年の時の担任は、とてもよかった。

 今すぐにでも、会いたいくらいに。


 どうやら、ここには避難していないらしいが先生の家がある地区付近の避難所に行けば会えるだろうか?

 どうせ、ここでも居場所を無くしたのだ。

 別な……俺のことをあまり知らない人のところに行くのもいいだろう。


 布団から出て身体を伸ばす。



 あの、楽都との最悪の再会をした後、俺は屋上……それも塔屋にテントを張り、中にダンボールと布団、それと梨花さんから返してもらった自前のリュックを置いた。

 夜飯は、今野さんが言った通り七時ごろに体育館へ言って貰ってきた。


 貰ったものはコンビニで売っているおにぎりとペットボトルに入った水と少量のサラダ。


 少ないと思ったが、体育館に来ている人数を見て思い直した。

 これでも、結構貰ったのではないか? と。

 

 見た限りでは体育館にいた人数は結構多く、鮨詰め状態だった。

 それでも体育館から出た後結構な人数がいたので、これだけ配給されるのはありがたい。


 だけど疑問だった。この配給は一体どっから来ているのか。

 今日は一度も自衛隊の車は出動しなかったし、配給車も来ていない。

 もちろん、ヘリコプターも来ていないのだ。


「まあいいか……さて、今野さんのところにでも行こうかな」


 時間はわからないけど、多分まだ朝だ。

 俺も何か手伝えることをしないと……そういえば、今日何人かであの塔に行くって言ってたな。それと、その間の警備を任されてたけど……何をすればいいんだろうか?


 とりあえず、テントの外に出る。

 靴を履いて、塔屋から降りるとなんだか下が騒がしいことに気がつき、屋上から下を見た。


「え? なんで?」


 下を見ると、赤い水溜りが見える。

 あれは……全部、血なのか?


 赤い水溜りの中心には服がグチャグチャの状態で置かれている。

 置かれていいる……というより、この場合は死んだ肉体が消え、その状態のまま服が残ったと言った方が正しいか。


 そう見ると、服は手や足の方向が様々に……普通腕や足が向かない向きになっており、服装から……多分、若い女の子……ということがわかった。


 それにしても、なんであそこに?


 屋上に視線を戻し、その血溜まりがある真上あたりに視線を向ける。


「あれ? もしかしてこれ」


 封筒が、石を重りにして置いてある。

 これは、もしかするとあの子の遺書だろうか?


 まあいい。これを下に持っていこう。







 下に降りて、現場に向かうと人が集まってきていた。

 これを……誰に渡そう。


 人混みをかき分けて中央に向かう。

 中央には、この学校の制服を着た女子と、知らない若い男。そして、梨花さんがいた。


「あれ、先輩? どうしたんですか……」


 あれから梨花さんと一回も会わないようにしていた。

 テントだって、梨花さんが手伝おうとしていたのに断って一人で張ったのだ。

 理由は、梨花さんと一緒にいると梨花さんまで俺のように噂をされるからだ。


「これ……屋上に、石の下に置いてあった」


 梨花さんに封筒を渡す。

 しかし、その封筒は制服を着た女の子によって取られ、封を切られた。


「これ……アヤの文字だ……」


 『アヤ』というのは、この服を着ていた女性の名前だろうか?

 この子と友達、ということは女子中学生? そんな子が、なぜ自殺なんか……。


「そんな……アヤ……」


 手紙を読んで、女の子は泣き崩れた。

 一体。手紙になんて書かれていたんだ……?


 手紙から、女の子が手を離し俺の目の前に落ちる。

 それを拾い。少し申し訳ないが読ませて貰った……。


「これは……」


 書かれていたことを読む。

 最初は、親とこの目の前で崩れ落ちている少女の名前だと思うが『咲』に向けた謝罪。

 そして、なぜ自殺したかに内容は入った。


 原因は──レイプ。


 それを見た途端、俺の頭の何かがキレた。

 その言葉は、俺は嫌いだ。

 そして、その言葉のせいで女の子が自殺をした。

 とても……許せるわけがない。


 内容を、読み進む。

 後半は謝罪、ばかりだ。この子は、謝らなくていいのに。


 読んでいて、見つけた。

 誰が、やったのか。


 手紙の後半……犯人の名前が書いてあった。


 犯人の名前は──『近衛 楽都』。


 あいつだった。

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