第18話 過去……そして夢
──夢を見た。
あの、幸せだった日々の夢を……。
そして、全てが変わったあの日の夢を……。
「なあ冬哉! お前ん家にあとで行くからな!」
「ちゃんと準備しとけよー!」
あの日……俺は、友達だった同級生二人と俺の家で遊ぶ約束をしていた。
確か、一緒にゲームをやろうって話だったはずだ。
その友達二人は中学でできた新しい友達。
たまたま同じゲームにハマっているということで、遊ぶこととなった。
「わかったよ! じゃあ五時くらいに僕の家ね!」
あの時の俺の一人称は『僕』。
あの頃はまだ初々しい少年だった。
純粋な心を持ち、悪を決して許さない。
そんな少年だったと思う。
確か、その当時の将来の夢は『カッコいいヒーローになりたい』とかだった気がする。
弱気を助け強きを挫く。そんな人になりたいと本気で思っていた。
だからだろうか? 俺があの時あんな行動に出たのは……。
俺は、友達と別れた後一人で電車に乗った。
いや、俺……というよりも過去の俺だ。
今、この夢を見ている俺は客観的に、昔の自分を見ている。
俺の昔住んでいたところは都会、ということもあり俺は家の近くの中学ではなく、小学校で受験してそれなりにいい中学校に入った。
なので、家までは二回の電車の乗り換えが必要となる。
俺の家の最寄り駅に着いて、駅の外に出る。
この駅周辺は少し栄えているとは思うんだが、少し離れただけで閑静な住宅街に早変わりした。
ここから、五分ほど歩けば俺の家だ。
俺の家に着くと、当時の俺は違和感を感じた。
家の門が開いているのだ。
家にはお母さんと、この時間だと妹の結愛が帰ってきている。
そのどちらも、家の門は必ず閉める。
お父さんはたまに閉め忘れる時があるが、こんな時間に帰ってきているわけがない。
それに、お父さんは地方に出張中だった。
家の門をくぐり、立ち止まる……。
声が、聞こえる。
知らない声だ。
知らない……男の怒鳴り声。
そっと玄関のドアを開け、中を覗く。
いつもの家の匂いと違う、なんか……鉄臭い。
どこかで、嗅いだことのある匂いだ。
玄関に入り、そっと中に入り静かにドアを閉める。
何を言ってるかわからないが、男の怒鳴り声はまだ聞こえる。
靴を見るが、男が履くような靴は俺たち家族のものだけ。
いつもは綺麗に揃えられている靴はグチャグチャだ。
「一体、誰だろう……まさか、強盗!?」
もし強盗ならばすぐに通報しなければ……!
でも、自分のスマホはリビングにある。
ここで、あの時の俺が正常な頭で考えていたら外に出て助けを呼ぶことができたはずだった。だけど、突然のこと。それもお母さんの声が一切聞こえてこないことに、俺の頭は正常に働かなかった。
もし、働いていたらもう少し別な結末があったのかもしれないが……。
判断を誤った俺は、そっとリビングを覗くことにした。
お母さんと、結愛の無事を確かめるために。
一歩、また一歩とリビングに近づくとリビングのドアが微かに開いていた。
あそこから、覗ける。
恐る恐る、ドアの隙間から中を見る。
そして最初に目に入ったものは汚い身なりをした、知らないおじさんだ。
そのおじさんは、下に怒鳴りながら何かをしている。
ここからでは、ソファが邪魔で何をしているかよくわからない。
少しづつ、ドアを開けて中を見る。
リビングは、廊下よりもすごく鉄臭く、その中に変な匂いも混じっていた。
よく、見えないな……。
しゃがみながら、リビングの中を見回す。
そして、それの視線がソファから視線が外れ、逆方向の……キッチンの近くを見た。
「…………え? おかあ、さん?」
視界に入った色はとても鮮やかな赤だ。
そして、その真ん中には人が倒れている。
一目で自分のお母さんだと分かってしまった。
あの、お母さんが着けているエプロンは、俺がこの前のお母さんの誕生日にプレゼントした自分で作ったもの。
見間違えるわけがない。
その、お母さんが血まみれで倒れている。
素人目でもわかる……あの血の量は、もう……助からないと。
これをやったであろうおじさんを見る。
おじさんは、まだ何かをしている……。
絶対に……お母さんを殺したことは許さない……!
でも、まずは結愛を助けないと……。
リビングを見回すが、いない。
もしかして……ソファの所か?
そこには、おじさんがいる。
でも……結愛を助けないと……!
リビングのドアを、自分が通れるくらい開けおじさんを見る。
何かに夢中で気づかれていない。
そのまま、おじさんの背後に周り何をしているか……結愛はどこかを知ろうとした……。
おじさんの背後に回ってまず目に入ったのは、足。
おじさんのではない。結愛のだ。
結愛が今朝履いて行った靴下をきちんと覚えている。
だけど、何で結愛の足がここに……? おじさんは、このソファの向こう側だというのに……。
気になって、そっと覗いてしまった。
おじさんが何をしているのか。
最初は……テレビ台の棚でも漁っているのかと思っていた。
だけど……違った。
結愛は、服が無残に切り裂かれ肌が露出し、履いていたはずのズボンも履いていなかった。そして、下着も着けていなく股から血と、白い液体が垂れ出ている。
身体中に、青い痣ができており痛々しい。
それを見てしまった途端、頭の中で何かが切れたような音がした。
「お前ェ! 結愛から離れろォォォ!」
そこからは、曖昧だ。
理性などもう感じられなく、あるのはただ目の前にいるクズを殺すという怒りのみ。
気がつけば、俺は叫びながらリビングに飾っていた花の入った花瓶を手に取り、クズの後頭部に思い切り叩きつけた。
水の入った花瓶だ。
水の重さで子供でも本気を出して叩きつけたら相当な威力だ。
当然、花瓶はおじさんの後頭部に鈍い音と共に当たった直後、砕け散る。
おじさんは、突然のことに倒れ込む。
そこで……俺は偶然お母さんを殺したと思われる、血の沢山ついたナイフを見つけた。
見つけてしまった……。
「そうだ……お母さんと同じ目に遭ってもらおう……」
俺が、笑いながらそんなことを口にした……。
手には、ナイフを握って。
俺が、結愛を避けるように倒れたおじさんの上に馬乗りになり、ナイフを腰に突き刺した。
おじさんが気がつき、床で暴れる。
俺が退け、おじさんは仰向けになると、今度は腹にナイフを思い切り突き刺した。
そこからは……時間がただただ過ぎていった。
俺は、絶え間なく。心臓を避け、胃があるだろう場所も外し、ただただ馬乗りになってナイフを突き刺す。
手と、足もナイフで傷つけて動かなくした。
そして、丸出しだった男のあれも、無残に刺し壊した。
淡々と、ナイフを振り下ろす。
最初は、おじさんが絶叫していたが、今ではそんな声は聞こえない。
当然だ……もう、死んでいるのだから。
それでも、俺は辞めなかった──
──今日、遊びに来る予定の同級生が来るまで。
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