第17話 俺は──
下におり、外に出る。
まだ時間は昼ぐらいでとても明るい。
「先輩、こっちです」
梨花さんが前に立って案内する。
外には、中とは違い男の人たちが多い。
そして、校庭に入ると端の方に自衛隊の人たちが乗ってきたと思われる、緑色の車を発見した。
だが、一台だけだ。
ここにきた人は少ないのかな?
梨花さんの後を歩き、車の置いてある方とは逆側にある倉庫にやってきた。
確か、この倉庫って……。
「梨花さん、陸上部だったの?」
「そうですよ、これでもハードルで全国に行ってるんですからね?」
そうなのか……意外だ。いや、意外というより……てっきり梨花さんはバスケ部とか球技系だと勝手に思ってしまっていた。
まぁ特にそう思った理由はないんだけど。
倉庫の扉に梨花さんが手をかける。
鍵がかかっているかどうか確かめるため、扉を横にスライドさせようとする。
「あれ、空いてた」
扉がスムーズに横にスライドする。
中はとても綺麗に整頓してあり、奥の壁際には棚の数々。側面にはロッカーが付いている。
……いや、整頓してある? あの地震の後だぞ? よく考えればいろんなものが落ちているはずだ。てことは、誰かがここを整頓したんだな。
「えーと……あ、これです!」
梨花さんが奥の棚を漁り、テントの袋を出す。
テントの袋は、ボストンバック並みの大きさだ。
「それじゃあ、これ持っていきましょうか!」
「そうだね……これは俺が持つよ」
梨花さんがテントの袋を持って出てくる。
その袋を受け取り、その重さに驚いた。
「テントってこんなに軽いのか?」
数人用のテントなんて重いと思っていたが、案外軽くてびっくりした。
これなら余裕で持てる。
「多分、それは先輩のステータスが上がったからじゃないですかね?」
あぁ、なるほど。ステータスに『SP』振るだけで全然違うんだな。
今の状態でダンベルとかどれくらい持ち上がるんだろう? 今度実験でやってみるか。
テントを肩に担ぎ、再び校舎に向かって歩き出す。
校門の目を通ると、見知った顔がいた。
正直、関わりたくない人だ。
視界に入った時、俺は静かに引き返そうとした。
だが、なんと運のないことだろう……いや、ステータス的には運の値は悪くなかった。
俺が引き返そうと身体の向きを帰る直前、そいつはこちらを見た。
「あれ? そこにいるのはもしかして……『人殺し』じゃあないかぁ?」
赤い髪、耳に複数空いたピアス、高そうなブランド物で固めた服装、常にヘラヘラとした表情、そして……常に人を見下しているかのようなそんな喋り方。
こいつ──近衛 楽都は俺のことを『人殺し』と呼ぶ。
実際、間違ってはいない。俺は実際人を殺しているから。
なんで、こいつが知っているか……。
それは、こいつの親父が金持ちで、俺の情報を金で掴みやがったからだ。
マスコミは、その事件当時俺のことを男子中学生とテレビなどで公開した。
だから、転校した先で事件の犯人が俺であると分からないはずだった。
なのにコイツと聞いたら、『なんかムカつく』という理由で俺のことを調べやがったのだ。
当然こいつは金で掴んだ情報を学校内に振り撒き、俺は完全に犯罪者扱い。
それから、俺は一年ほど不登校となり、しっかり学校に通い始めたのは二年生の冬ごろだった……まぁ保健室登校だったけど。
「久しぶり、楽都」
平然を装い、楽都に振り返る。
コイツの癪に触ったら、何をされるかわかったもんじゃない。
「あぁ? 人殺しの分際で勝手に俺様に口聞いてんじゃねぇよ?」
俺の目の前に近づいてくると、そのまま胸ぐらを掴まれる。
くそ、じゃあコイツになんて返せばよかったんだよ。
あぁ、やばい。人がどんどん集まってきてしまっている……。
これでは、俺が格好の的ではないか。
梨花さんは、無事だろうか?
胸ぐらを掴まれながら、俺は近くにいた梨花さんを探す。
すぐ近くの人混みの中に、心配そうにこちらを見つめる梨花さんがいた。
よかった。巻き込まれていなくて。
「なぁにお前よそ見してんだよ!」
胸ぐらを掴む力が強くなったように感じる。
そして、だんだんと俺の身体が浮いていく。
苦しい……こいつ、こんなに力があったのか?
胸ぐらを掴まれながら上げられるという経験を初めてしたが、こんなにも苦しいものなのか。
楽都の腕が伸び切李、俺の足が宙に浮く。
そして、そのまま地面に投げられた。
「くっ……ッ!」
「みんな! 聞いてくれ! コイツはなぁ、中学一年の時に人を殺してる殺人鬼だ! 近づくと危ねぇぞ!」
こいつ……言いやがった……!
周りを見るが、みんな俺を軽蔑している。
くそ……何も、出来ねぇ……。
コイツが言っていることが事実なだけに。何も言い返せない。
横を見ると、人はどんどん集まっていき噂は一気に流れ出す。
もしかすると、俺の居場所無くなるかもな……。
そんなことを考えていると、校舎からつい先ほど見た顔が出てきた。
「お前らぁ! そこで何やってんだ?」
今野さんだ。
人々が間を開け、今野さんが歩く通路が自然と出来上がる。
今野さんの目は、倒れている俺をじっと見ていた。
「これは……なんの騒ぎだ?」
楽都を今野さんが見る。
その眼光は鋭い。
「き、聞いてくれよ今野さん! コイツは中学の時人を殺してんだよ! コイツと一緒の場所なんて住みたくねぇ!」
楽都がその眼光にたじろぐ。
しかし、楽都は大きな声でそれを誤魔化し、言った。
これで、今野さんにも伝わってしまった……。
「冬哉……それは、本当なのか?」
今野さんの目が俺を見る。
その目はやけに優しい……。
「……はい、本当です」
目を伏せ、言った。
認めてしまった。
これで、居場所はなくなる……。
「そうか……なぁ、お前。コイツのこと、よく知ってんのか? コイツが、なんで人を殺したとかも全部知ってんのか?」
今野さんが楽都に向かってそんなことを言っている。
どうして、楽都なんだ? 明らかに、俺がなんか言われる雰囲気だったのに……。
「い、いや……それは……」
今野さんのあまりの剣幕に、楽都は一歩下がる。
「コイツにだって事情があるかもしれねだろ? それに……良くコイツのことを知りもしないで、何勝手に騒いでんだよ! 人殺し? 俺はコイツが人殺しだなんて全く思えないけどな!」
一体、今野さんは何を言ってるんだ? 俺を……庇ってる?
一体何で?
「ったく……お前らも、解散しろ! みせもんじゃねぇ!」
そうして、ここにいた野次馬たちは散っていく。
楽都はそれを見て、舌打ちをしいながら去っていった。
「はぁ……お前には聞きたことができたが……あまり、聞いてほしくないようなことだろ?」
そう言いながら、俺に手を差し出す。
手に捕まると、勢いよく立たされた。
「はぁ……まぁ、俺はお前がそんな奴じゃねって思ってる……なんか事情があるんだろうってな……ま、だいぶ勘だけどな」
俺の頭を無造作にワシワシと撫でてくる。
この人は、優しい。
勘だとしても、それを理由に俺を助けるか?
「今日は帰って休め……ま、今こんなことがあったんだ。一人で寝た方がいいぞ」
「はい……そうですね、わかりました」
今野さんのこの気遣いが、とても胸を痛くする。
今野さんが庇うような事情なんて、俺にはないのに。
そんなに信じてもらえると、とても申し訳ない。
そう思いながら、俺は落ちたテントを拾い一人でその場を後にした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます