第16話 話し合い
黄色の髪をした自衛隊員なんて、とても違和感がある。
だが、この人単体で見れば黄色い髪はとてもよく似合っていると思う。
「俺はこの避難所の一応リーダー的な立ち位置にいる今野 智樹だ。よろしくな」
そう言って、今野さんは椅子から立ち上がり手を差し出してくる。
その手はとてもゴツく、俺の手よりも結構大きかった。
「三神 冬哉です。よろしくお願いします」
その手を握り、自己紹介をする。
それにしても、この人は大きいな。俺はこれでも身長が175くらいはあるんだが、見るからに180はありそうだ。
その身長で大きな身体。自衛隊ってすごいな。
でも、迷彩服を着ている人が今野さん以外に見当たらない。
一体どこに行ったんだろうか?
「澤田 梨花です。よろしくお願いします」
「えっと、冬木 春です」
俺に続いて残り二人が自己紹介をした。
そういえば、少女の方は名前とか全く聞いてなったな……冬木 春っていうのか。
冬と春って二つの季節が名前に入ってるのか。
「おう、よろしくな!」
今野さんはそう言って、二人にも握手をする。
そして、椅子に戻ると腰をかけた。
「さて、三人とも。とりあえずそこの椅子に好きに座ってくれ」
あれ? 自己紹介だけじゃ無かったのか? って、そんなわけないか。
何か用事でもあるんだろうか?
とりあえず、言う通りに大きなテーブルを囲んでいる椅子に座る。
「まず聞きたいんだが、君たち三人はどの辺りからこっちに来たんだ?」
黒板の地図を指し、聞いてくる。
この地図だと……そうだな……。
「そうですね……俺はこの川のあたりですね。それで、梨花さんに会ったのがこの大通り付近。この子を見つけたのは中学校の近くの……この辺ですね」
地図のところに行き、指を刺しながら説明する。
それにしても、なんでこんなことを聞くんだろうか?
「そうか……それで、化け物どもとは何回くらい遭遇した? いや、見かけたとかでもいいんだ。教えてくれ」
あぁ、なるほど。どの辺になんのモンスターがいたか知りたいのか。
それと、モンスターの数とかか?
「そうですね……計20はいってる気がします……結構いました」
戦ってはいないが、遭遇率はこれくらいだ。
ほとんど複数で行動していたから避けてきたが。
それにしても、あの『鬼』には遭遇しなかったな。
「そんなに遭遇したのか……よく無事でいられたな……そうだ、その内、その化け物と戦ったことってあるのか?」
「はい、ありますよ……? 三体くらい倒しました」
「おぉ、それはみんなで? それとも、一人で?」
「俺一人ですけど……」
「おぉ!」
今野さんが立ち上がり、机から身を乗り出してこちらをみる。
え、なんだろう。なに? その真剣な表情。
「冬哉くん……君に、お願いがあるんだが、できれば聞いてほしい」
えっと、なんだろうか? お願いって。
話を聞く限り、モンスターを倒すのに力を貸してくれとかそんな感じだろうか?
それなら問題なく受ける。
ここを守らないといけないしな。
「モンスターを片付けるのを手伝って欲しいんだ」
「いいですよ。俺でよければ」
今野さんがそう言って頭を下げる。
予想通りの頼みだ。この頼みなら、受けられる。
それに、別に頼まれなくても手伝うけどな。
「ありがとう……ところで、早速で悪いんだけど……あの塔、何に見える?」
頭を下げた今野さんは、頭をあげ立ち上がり廊下に行く。
それに俺たちは続き、目の前に写ったものに驚いた。
「なに……あれ」
梨花さんが唖然とそれを見てつぶやく。
俺も、正直同じ気持ちだ。
「あれ、なんですか? この前まで、あそこは公園だったはず……アップデートで出現したんですか?」
「あぁ、そうみたいだ……」
あんなもの、ここにくる途中気づかなかった。
上を向くことなんてなかったからな……。
それに、俺たちはあっちではなく、逆方向の中学校に向かっていた。
「それにしても……でかいな」
頂上がここからじゃあ見えない。
完全に雲に隠れてしまっている。
塔をみる限り、世界中で似ているものがるとしたら……ピサの斜塔だろうか?
それが、真っ直ぐに大きく伸びた感じだ。
「あれの調査もしたい。一体なんなのかな……明日、一応数人であそこまで行って調査する予定だ。その間の警護を残る冬哉を含めてお願いしたい」
なるほど。この様子じゃあ今野さんも行くのか。
まぁあれほどの塔だ。なんかあるに違いない。
「分かりました。任せてください」
「おう、頼むぞ……それじゃあ、話は終わりなんだが……寝床は好きにしてくれ。あぁ、好きにしてくれって言っても、一応男女区別されてるからそこは気をつけてな……飯は朝と夜。二食だけだが当面は大丈夫だ」
寝床は好きにしてくれ、か。
じゃあ、俺は屋上でいいかな……静かで、誰もいないし。
それに、中学校時代愛用していた場所だ。
「分かりました。ご飯ってどこで貰うんですか?」
「あぁ、体育館で配ってるよ。時間は朝が七時。夜も七時だ。二時間くらい配ってるからな」
「分かりました……ありがとうございます」
「ところで……そこのお嬢さんはどうしようか?」
今野さんに言われて、俺は近くのソファに目を向けた。
そこには、先ほど助けた少女……冬木 春が眠ってしまっていた。
「あー。どうしようか」
「どうしましょうね……」
俺と梨花さんは顔を合わせ、悩む。
んー両親がいないこの子をどうしよう。
とりあえず、経緯を説明して聞いてみるか。
「まじか……じゃあこの子……春ちゃんは今は一人ってことか」
今野さんが腕を組んで悩む。
この子は本当にどうすればいいんだろうか。
俺といるのはちょっとあれだし、梨花さんだって大変だろう。
かと言って、一人というのは可哀想すぎる。
「あー、んじゃ俺んとこで預かるわ……嫁に説明すればわかってもらえるだろ」
「そうですね……ありがとうございます」
今野さん、奥さんいたのか。
それなら安心かな。精神面でも、今は不安定だろうから。
「それじゃあ、俺たちは失礼します」
「おう、じゃあな」
今野さんにお辞儀をして、俺たちは教室を出る。
さてと、屋上に行きますか。
「えっと、先輩……先輩はどこで寝ます?」
んー梨花さんになら教えていいか。
「俺は屋上で寝るよ」
「そうなんですね……って、外じゃないですか! 布団とか……テントはどうするんですか!」
あー屋上で寝るって言っても、テントとかないじゃん。
せめて寝袋を持ってくればな。
「考えてなかった……どうしようか」
かといって、学校の中……見知らぬ誰かと寝たくはない。
それに、寝る時くらい一人で寝たい。
「全く……あ、そうだ。先輩、うちの部活で大会の時に使ってるテントあげましょうか? 誰も使わないでしょうし……広さは保証しますよ!」
おぉ、いいな……。これなら、屋上で快適に過ごせそうだ。
だけど毛布は……ここは避難所だからあると思うが、多分全て使われているだろうな……。
まぁ、今はあったかいしいらないか。
「じゃあ、そのテント取りに行こうか」
「はい!」
俺たちはそう言って階段を降り、外へと向かった。
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