第15話 避難所



 慎重に歩いていると、ようやく中学校の校舎が遠目でも見えてきた。

 そして、よく見ると校舎の屋上から幕が垂れ下がっており、そこには大きな文字で『避難所』と書かれている。


「先輩! ようやく見えてきましたね!」


 建物の影に隠れながら、梨花さんがいう。

 ここまで来れば、後はもう校門まで一直線だ。

 その間に、見る限りモンスターはいない。


「よし、後少しだ……油断しないで行こう」


 そう言って、俺は先頭を。梨花さんと少女はその少し後ろを歩く。

 先頭で周りを見ながら後ろにいる二人に合図を出して前進。


 たまに複数のモンスターがいる時はそこを迂回して遠回りをし、避難所へと行く。

 俺と梨花さんの二人だけだったら戦闘をするんだが、今は幼い少女がいる。

 と言っても、話を聞く限りじゃあ小学校六年生のようだが。


「ストップ」


 手をあげ、後ろにいる二人を止める。

 十字路の手前で止まって左右を見る。

 そのどちらにも、モンスターがいた。


 右側のモンスターはゴブリン。

 だが、数が三体いる。

 三体と言っても、持っている武器はそれぞれで、棍棒を持っているゴブリン。剣を持っているゴブリン。短剣を持っているゴブリンの三体だ。


 刃物を持っているゴブリンは初めて見た。

 棍棒よりもリーチが長い。

 この三体を相手にするのは難しそうだ。


「だけど、こっちはな……」


 そう呟いて反対側……左側のモンスターを見る。

 こっちは一体。だが、戦った事がないモンスター。

 そして、強さも未知数。


 オオカミがいる。


 オオカミの存在はスマホの動画で知っている。

 だが、実物を見てみると、その体長は俺と同じかそれ以上。

 そして鋭い牙を持っていて、肉を簡単にちぎってしまいそうだ。


「……ん?」


 オオカミの様子がおかしい……。

 鼻を先ほどからひくつかせ、顔をキョロキョロとしている。

 その仕草はまるで、何かを探しているような……。


 そんな中、一陣の風が俺の方からオオカミの方へと通り過ぎる。

 オオカミの鼻が俺の方に向き、こちらを凝視する。


 嫌な予感がする。

 なんでオオカミはずっとこちらを見ているのだろう。


 まさか、気づかれた?

 いや、そんなわけはない。

 ここから何十メートルも離れているんだ。


 だが、オオカミはずっとこちらを見ている。

 俺は後ろの梨花さんを手招きで自分の方に来させる。


「梨花さん……この子を連れて、逃げるか、隠れておいてください……あいつ、気づいてるかもしれないです」


 こちらをジッと見つめているオオカミ。

 もし、あいつが向かってきたらこの二人を守りながらなんてとても無理だ。

 最悪、スキル用に取って置いている『SP』を全て消費しでもしないと……。


 そう考えていると、オオカミは急に別な方向を向き、走り出した。


「なんだったんだ?」


 オオカミのおかしな行動に、戸惑う。

 一体どうしたっていうんだ?


「先輩、今のうちです。行きましょう」


「あ、あぁ。オオカミのいないうちに行こうか」


 そうして、ゴブリンを避けながら俺たちは避難所へと急いだ。







 避難所に着くと、校門に四人の若い……二十代くらいの男の人たちがゴブリンが持っていたようなボロい剣を持って立っていた。


「おぉ! まだ生き残りがいたぞ! 今野さんのところに誰か案内しろ!」


 剣を持っている中で、一番大柄な人が中にいる人に指示を出す。

 そして、声をかけられてやってきたのはスーツ姿の若い女性の人だ。


「よく子供三人だけでここまで来れたわね……大変だったでしょう?」


 俺たちを校舎の中に案内しながら、女の人は言う。

 しかし、校舎の中を見る限りここには大勢の人がいるようだ。


 だが、中にいるのは大半歳をとったおじいちゃん、おばあちゃんや女性、子供ばかり。

 男の若い人は中に一切いない。

 多分、みんな外でここの守護をしているんだろう。


 それにしても、ここにいる人たち、髪を染めすぎじゃあないか?

 子供までいろんな髪の色がいるし、黒髪なんて少数だ。

 そういえば、梨花さんも黒髪じゃないな……だけど、この子は黒髪。


「うーん……」


「どうしたんですか?」


 俺があたりを見ながら唸っていると、一歩後ろを歩いていた梨花さんが俺に聞いてくる。


「いや、なんでこんなに髪染めてる人が多いんだろうかってね……もしかして、流行り?」


「え? 先輩何を言ってるんですか? 先輩だって白髪じゃないですか」


 ……え? 俺が白髪? 染めてないんだけど……?


「先輩、アップデートの時、髪色も一緒に変わったんですよ。私もそれまで黒髪でしたから」


 そうなのか……アップデートで変わったのか……あれ? でもおじいさんは白髪だったな。

 もしかして、元々黒髪だった?


「それじゃあ、おじいさんの髪色は元々なんだったの? まさか、黒?」


「いえ、おじいちゃんの髪は白から変わってませんよ? 多分、歳をとれば誰でも白になっちゃうんじゃないでしょうか?」


 なるほど。そんなもんなのか。

 それにしても、黒髪結構好きだったんだけどな……。


「着きましたよ」


 女の人が、そう言ってドアをノックする。

 四階の一年D組のクラスだ。

 なんでこんなところに?


「入ってくれ」


 ドアの向こうから、低い声が聞こえてきた。

 どうやら、男の人がこの先にいるみたいだ。


「失礼します」


 ドアを開け、女の人がお辞儀をする。

 とても新鮮だな。教室の前でこうして挨拶とかしているのを見ると。

 まるで高校受験の面接練習を見ているみたいだ。


「避難者三名が到着したので連れてきました」


 女の人に続いて、俺たちは中に入る。


 中に入ると、目に入ったのは校長室にあるような執務机に、椅子。

 その他に真ん中に大きなテーブルと、それを取り囲むソファと学校の椅子。

 横にはホワイトボードや、黒板にはこの地域周辺の地図が貼られており、至る所にマークしてある。


 そして、なるほど。

 教室をこんなことにした理由がわかった。

 この教室は学校最上階の、それも校庭側の真ん中だ。


 ここからだと校庭がよく見える。

 この学校は、校舎の周りを二メートルくらいの石壁が囲っており、校庭は鉄のフェンスだけ。


 モンスターがこの学校に侵入するルートは校庭か、校門かくらいしかないのだ。

 ここだと、校庭を見張るのに絶好なスポットだ。


 それに、中学校の裏にはちょっとした山がある。天然の防壁だ。


「ご苦労様……それにしても、無事で良かった! よく外に化け物がうろついている中生きてここに来れたな!」


 視線を執務椅子に座っている大柄な男の人にうつす。

 その服装は、迷彩服。


 どうやら、この人は自衛隊員のようだ。

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