第14話 助け



 俺たちが中学校を目指し歩いていると、近くの路地裏から甲高い声が聞こえてきた。


「た、助けて……! 誰か、助けてーッ!」


 よく聞いていると、少女の悲鳴だ。


 梨花さんがこちらを心配そうにみる。

 心配はいらない。すぐに助けに行く。


 俺はその視線に頷き荷物を置いて走り出す。

 モンスターは辺りにはいない。

 だが、声の発信源だと思われる路地裏には、どれくらいのモンスターの数がいるのかわからない。

 最悪、少女を抱き抱えて逃げる。


 路地裏に入るが、すぐには少女はいない。

 奥に逃げたか?


 急いで奥に向かう。

 路地を走り、すぐに行き止まりが見え、そこに子供とモンスターらしき影が見えスコップを構えた。


 モンスターは緑色。そして小さい。

 ゴブリンだ。

 それも、見た感じ二体だけ。

 これなら俺一人で問題なく倒せる。


 だが──


「ウオォォォォ!」


 そのゴブリンは棍棒を持っており、それを掲げ今にも少女に振り下ろしそうな状態だ。


 気を惹きつけるために、あまり上げたことのない大声をあげる。

 これで、気付いてくれるといいが。

 そして、俺は身体を捻るようにしてスコップを構える。

 俺の声に、二体のゴブリンが気付いたようでこちらを向いた。


 こちらを完全に認識したことを確信すると同時に、俺は捻っていた身体を今度は逆方向に捻りかえし、それと同時にスコップも円をかいてゴブリンへと向かう。


 だが、俺に気付いたゴブリンは棍棒を振り下ろすのをやめ、俺の攻撃を少女の方に飛んで回避した。

 その行動に少女は驚く。


「ギッヒヒヒ」


 ゴブリンが新しい獲物が現れたと言いたげな嫌らしい笑みを浮かべ、俺をみる。

 その笑みは、俺に嫌悪感しか感じさせない。


 正直、今すぐにも倒したいところだが……ゴブリンの間に少女がいる。

 これでは無闇に攻撃できないし、ゴブリンが少女を人質にしたら俺もやばい。


 くそ、最初の攻撃。あれが一体にでも当たってくれたらよかった。

 そうしたら残り一体を何も気にしないで殺る事ができたのに。


 そう考えていると、ゴブリンが二体とも俺に向かって飛びかかってきた。

 よかった! 人質にはしなかった。


「そこの君! 逃げろ!」


 飛んできた一体を路地の奥の家の壁に向かって蹴り飛ばし、もう一体の振り下ろしてきた棍棒を、スコップで受け止めながら少女に向かって言う。

 

 少女はそれに頷き、俺の横を通り過ぎて今きた道を引き返す。


「はぁ、お前らが馬鹿でよかったよッ!」


 そう言いながら棍棒をスコップでそのまま弾き、ゴブリンを蹴り飛ばす。

 ゴブリンは盛大に近くの家の窓を割って室内に入った。


 家の壁にぶつかったゴブリンが起き上がり棍棒を握る。

 正面から戦うのは初めて。

 だけど、さっきこいつらを蹴ったり、攻撃を受け止めてみたけど大丈夫だった。


「だけど……油断はしない」


 家の中へ蹴り飛ばしたゴブリンがいつこっちに来るかはわからない。

 だから、早めに一体目を片付ける!


 ゴブリンに向かって走り、再びスコップを横薙ぎに振るう。


 それは回避されたがそのまま上段にスコップを振り上げ、ゴブリンに振り下ろす。

 

 ゴブリンが棍棒でガードするが、そのまま地面にゴブリンは頭をぶつける。

 その顔に、先程までのニヤついた表情はなく、目を見開いている状態。


 ゴブリンはガードしていた棍棒でスコップを地面に受け流し、脱出。

 転がり脱出したゴブリンを追いかけ、そのまま後頭部に向かってスコップの裏側を叩きつけた。


 まず、一匹。


 ゴブリンの頭からスコップを退け、一息を着く。

 その時、嫌な予感がして慌ててもう一匹を蹴り飛ばした家へと振り返った


 その瞬間、ゴブリンが棍棒を振り下ろそうとした状態で目の前にいた。


「ーッ!」


 振り下ろされた棍棒が目の前に迫って来きている。

 頭ではわかっているのに、身体が動かない……。

 くそッ! もっと早く動け!


 その時、俺の体内から何かが抜けていく感覚とともに、身体が少し早く動けるようになった。

 棍棒が少しだけど遅く見える。


 身体を後ろに捻り、上体をギリギリまで行けるところまで後ろに倒す。

 ゴブリンの棍棒は空を切り、そのままゴブリンは通り過ぎる。

 

 未だ、俺の体内から何かが抜ける感覚が続いている。

 

 ゴブリンが地面に着地。

 俺はそれよりも早くに体制を整え、スコップを横なぎに振るった。


 スコップの側面がゴブリンの側頭部に吸い込まれるようにしてヒット。

 そのまま力任せに振り切ると、ゴブリンの身体は転がり家の壁に激突した。


《レベルがアップしました》


「はぁ、はぁ……ふぅー」


 危なかった。

 あの時、嫌な予感がしていなかったら確実に攻撃が当たっていた。

 まだ、攻撃を一回も喰らってはいない。攻撃が当たったらどれほどのダメージがあるのかはわからない。


「でも……あの感覚は、なんだ……?」


 あれは、確実に回避できない攻撃だった。

 でも、身体から何かが抜ける感覚と一緒に少し早く動けた……と言うより、時間が少し遅く感じられた。


 あの感覚は、一体……。


「先輩! 大丈夫ですか!」


 そこまで考えていると、梨花さんの声が聞こえた。

 振り返ると、先程の少女と一緒にこちらに向かってきている。


「あぁ! 今終わったところ」


 梨花さんを見ると、手には包丁を持っており、リュックは置いてきたようだった。

 その顔はとても安心したような顔だ。


「はぁ、よかったです……この子に聞いたら特徴的にゴブリン二体って聞いて焦ったんですけど……大丈夫みたいでよかったです」


「いや、かなりギリギリだったけどな……ゴブリンが頭悪くて助かったよ。人質を取られていたら流石にこの子か俺が無事じゃなかった」


 今思えば、良く二人とも無事だったと思う。

 ゴブリンに知能が人並みにあれば、最初に人質を取られていただろうし。

 もう少しゴブリンが早かったら確実に攻撃を受けていた。

 それに……あの現象が起きなければ危なかった。


「そうだったんですか……」


「早めに避難所に行こうか」


 ゴブリンの死体の方を見ると、身体が消えて魔石と棍棒が落ちている。

 棍棒は……少女に持たせようか。


「はい、これ。一応、持っていてね」


 少女に棍棒を渡すと、元気がないことに気がつく。

 そういえば、この子の両親って……。


「ところで、君のお母さんやお父さんって……どこにいるの?」


 しゃがみ込んで俺が聞くと、今度は涙を目尻に溜めて首を横に振った。

 そんな……じゃあ、この子は……。


「そんな……」


 梨花さんも驚いている。

 この子は一人で逃げていたのか。


「ママと、パパと隠れてたら見つかって……パパが抑えてママと一緒に逃げなさいっていって……ママと逃げてたら別なのに会って……一人になった」


「そうなの……とりあえず、避難しましょうか」


 詳しく話を聞けたら、せめて遺品でも回収しに行くんだが……モンスターに遭遇したら危ない。

 それに、服とかを見たら……余計に悲しんでしまう。


「うん……」


 少女は涙を拭いて頷く。

 梨花さんは少女の手を取ると、一緒に歩き出す。


 そうして、俺たちは三人で避難所へと向かうこととなった。

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