第27話 小学校のリーダー、桐崎 隼人


 目が覚めると、俺はベットの上にいた。

 あれほど痛かった全身は、痛みはなくしっかりと感覚もある。


 天井を見れば、真っ白いどこにでもあるような……そんな天井が目に入る。


 周りを見回す。

 ここはカーテンで仕切られており、外は見えなく俺の枕元には俺のボロボロになった服が目に入る。

 この服も、着替えなくては……。


 それに、何日も風呂にもシャワーも浴びていない。

 後で体を拭くか。


「それにしても、ここはどこだ?」


 俺は確か外で鬼にやられてたはずだけど……。

 そういえば、意識失う前に誰かが来たような……。


 記憶が曖昧だ。

 あの鬼は倒されたのか?

 俺たちが苦戦したアレを?

 苦戦……というか、惨敗か。


「とりあえず、外に出て見るか」


 服を着て、靴を履く。

 カーテンを開けると、そこは学校の保健室のような内装だった。

 ここは、小学校の保健室かもしれないな。


 部屋を見る限り誰もいなく、とても静かだ。

 それにしても、あんなにボロボロになってた身体が全く痛くないし、あちこちできてた傷もない。

 こんな短時間に綺麗に治るものか?


 保健室の扉を開けて外に出る。

 廊下にはみた感じ誰もいない。

 ここに避難している人たちは、どこに行ったんだろう。


「体育館……か?」


 あそこならば誰かしらいるかもしれない。

 向かってみるか。


 だが、場所が分からない。

 俺はこの小学校出身じゃないからな。


 周りを見て、何か手がかりは……あった。

 壁に校内案内図が貼ってある。

 体育館はこことは対象の位置にあるらしい。

 

 体育館への道中も人がいない。

 こんなにも人がいないと不安になってくる。

 ここに、一人だけ取り残されたみたいで。



 そう考えながら進んでいると、ようやく体育館への入り口に着いた。

 ここから、人の声が聞こえてくる。

 良かった、人はいた。


 体育館に向かう廊下を進み、階段を降りる。

 どうやら、体育館は階段の下らしい……あれ? 保健室は一階にあったはず。


 廊下の窓から外を見てみると、どうやらこの小学校は校舎と体育館との間に高低差があり、その間が階段でつながっているようだった。


 そして──


「なんだあれ……」


 窓から、校庭らしきものが見える。

 だが、明らかに俺の知っている校庭ではない。


 なんで、校庭に建物ができているんだろう?


 そこにはたくさんの人がいる。

 どうやら、校舎の中に人がいなかったのは、みんな外にいたからのようだ。



 体育館の入り口に着くと、すぐに見知った顔を見つけた。


「よう、生きてたか。冬哉」


「今野さんこそ、生きてたんですね」


 体育館に入ってすぐ、目の前を通りかかった今野さんに出会った。

 今野さんをみる限り、特に外傷はないようで、ピンピンしている。


「おう、俺の場合最初の一撃で気絶しちまったからな……! 全く、情けない」


 そうか、今野さんはあの一撃で建物に吹っ飛んで気絶したのか。

 あの一撃はまともに食らってたからな。


「そういえば、なんで俺たち生きてるんですかね?」


 誰かに助けられたのはうっすらとだが記憶にある。

 だが、誰なのかは分からない。


「あぁ、それは助けられたからだ……あの人にな」


 そういって今野さんが目線を移す。

 今野さんが見ている先を見ればうっすらと記憶にある、俺と同じ白い髪にメガネをつけた少し歳をとっている真面目そうな男の人が目に入る。

 記憶が正しければ、確かにこの人だ。


 俺が見ていると、その人はどうやら俺に気が付いたらしい。

 こちらに歩いてきた。


「目が覚めましたか……あぁ、まずは自己紹介を。 私は桐崎 隼人と言います。一応、この小学校のリーダーのような立ち位置にいます……後、この度は私不在の中小学校を守ってくださり、ありがとうございます」


 身長は俺よりも少し大きい。だが、体型は普通。そして、腰には黒い鞘に収められた日本刀らしきものが携えられている。

 

 桐崎さんは自己紹介をし、綺麗なお辞儀をする。

 この人は、とても礼儀正しい人ということがとてもよく分かった。


 そんな人が、あの鬼を倒したのか。


「あ、俺は三神 冬哉と言います……えっと、たまたまここに来たら遭遇しただけなので……あの、気にしないでください」


 桐崎さんのお辞儀に気を取られ、急いで俺も自己紹介をした。


 だが……吃った。


 めっちゃ恥ずかしい!

 多分、俺の顔は真っ赤になっているんだろう……あ! 今野さんこっち見て笑いやがった!

 クッソ……!


「それでも、よく戦う気になりましたね……あの『オーガ』を前に普通だったら怖くて戦えないと思うのですが」


「ここの人たちが戦ってたんで俺も加勢をしようと……それに、俺がここについた時に人があの鬼に捕まえられていて……今野さんが飛び出したんで自分もと」


 あの鬼の名前は『オーガ』というらしい。

 なんで知っているかはさておき、まぁ勢いでオーガに挑んでしまった。


 『危険察知』の反応を冷静に考えれば、向かうべきではなかった。

 だが、人は助けたかった。


 あの行動は、後悔はしていない。


 いや、最終的に死んでいないから後悔していないのかもしれない。

 多分、死んでしまったら後悔はしそうだ。

 

 ……死んでしまったら後悔も何もないか。


「なるほど……でも、そのおかげでここにいるみんな、助かりました……残念ながら、他の方達は死んでしまったようで、服だけとなってしまいましたがあなた方がいなければここは全滅していたでしょう」


 悔しそうな顔をしながら、桐崎さんはそう言う。

 多分、何か外せない用事があったんだろう。だからここにいなかった。


 だけど……俺が空中にあげられた時、こっちに向かってくる人影はあの遅い四人しかいなかったはず……。


「いえ、最終的に助かったのは桐崎さんのおかげですから……ところで、どうやってあのあの時来たんですか? 俺が空中に飛ばされた時、見かけなかったんですけど……」


 俺がそう聞くと、桐崎さんはメガネをクイッと直しこう言った。


「どうって……こうやって……」


 一瞬にして桐崎さんは姿を消す。

 瞬きはしていなかった。

 本当に、一瞬……。


「ですよ?」


「……え?」


 秒にも満たない時間。

 言葉が少し途切れたと思ったら、すぐ後ろにいて肩を掴まれてる。


 俺の新しくとった『気配察知』でも、分からなかった。


 これは、一体……。


「これが、私に一番適性のあった魔法……『転移魔法』です」


 後ろを振り向くと桐崎さんは手を離し、再び少しずれたメガネを直しながらそういった。

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