第28話 冬哉の適性魔法


「魔法……?」


 魔法って、あの魔法か?

 梨花さんが練習しようとしていまだに出来ていないあの魔法。


 そして、その魔法が『転移魔法』という聞いたことがない魔法。

 火属性魔法や、水属性魔法などが存在するのは梨花さんやおじいさんから教えてもらって覚えている。

 だけど、『転移魔法』というのは知らない。


 多分、その名の通り転移することに特化しているんだろう。

 だからあんなにも早かった。


「えぇ、魔法です……と言っても、私がこの魔法の存在を知ったのはこの『巻物』のおかげなんですけど」


 そう言って、桐崎さんは肩から下げていた黒いバックから白い糸で止められた『巻物』を取り出した。

 特に何も感じない普通の巻物だ。


「このアイテムの名前は『魔法適性スクロール(下級)』というらしいです。このアイテムは、この巻物を開いた人の適正魔法を高い方から三つ順番に教えてくれるというもので、自分が一番適性がある魔法を知るのにピッタリなアイテムです」


 そう言って、その巻物を俺に軽く放り投げる。

 その巻物をキャッチしてよく見てみるが、普通の紙だ。


「偶然巻物を二個手に入れてしまっていたので、一個ここを私が来るまで守ってくれた一番の功労者としてあげます。開いてみてください」


 言われるがまま、俺は巻物の白い紐を解く。

 紐を解いた後巻物をひろげると、真っ白な中身が登場した。


 中身は真っ白だ……どこに適正なんて書いてあるんだろう?

 そう思っていると、突然巻物は光出す。


 光出した巻物は、徐々に光を弱めていき文字に収束する。

 

 光が止んだ時、巻物にはこう書いてあった。



┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

魔法の適正


 時空間魔法・S

 結界魔法・A

 無属性魔法・C


┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈


 

 巻物に書いてあるのは、俺の知らない魔法ばかり。

 俺の知ってる魔法は火とか水とか……あ、無属性は知ってる。


 だけど、なんだろう? 残り適性の高い魔法は知らない。

 文字通りなら、『時空間魔法』は時と空間に干渉する魔法だろうか?



 何それ、チートやん。



 それに、『結界魔法』は結界でも張れるのだろうか?

 結界があれば、モンスターの攻撃を防げそうだ。


 それにしても……『時空間魔法』と『結界魔法』の二つが適性高いのか。

 癖がありそうだ。


「どうでしたか?」


「えっと……一番適性がある魔法が『時空間魔法』適性Sランク。二番目が『結界魔法』Aランク。そして、『無属性魔法』がCランクでした」


 最初『時空間魔法』といった時、桐崎さんが眼鏡の奥で驚いたような表情をした。

 冷静そうな桐崎さんの驚き顔というのは、とてもレアなのではないだろうか?


「一番の適性が『時空間魔法』ですか……」


 桐崎さんが右手を顎に当て考え事を始める。

 独り言をいっているが、小さくてよく聞こえない。


「三神くん、その魔法は多分私の『転移魔法』の上位互換です。当然、転移もできるでしょう」


 考え事が終わった桐崎さんは、俺の目を見てそう言った。

 それなら、俺にもあの転移ができるのか。それなら、あのオーガとも戦えそうだ……いや、桐崎さん移動手段が『転移魔法』なだけで戦いには使ってないな。

 どうやって倒したんだろう。


「この後のことは今野さんから聞いています。あの大きい塔に行くんでしょう? あそこには大きい草原があって安全で避難所にできそうだから見に行くと……その道中、魔法の使い方を教えてあげます。出発は二時間後を予定しています。それまでのんびりしていてください」


 桐崎さんから直々に魔法を教えてもらえるのか。ありがたい。

 それにしても、出発は二時間後か……それまで暇だな。


 現在の時刻は、あの校庭にある時計が確かなら午後一時。

 午後三時に出発すると言うことだろう。


「……あ、そうだ。俺の傷どうやって治したか聞かないと」


 後ろを振り返る。

 だが、桐崎さんはもういない。 

 一体どこに行ってしまったんだ……。







 桐崎さんを探すのを諦め、先ほど窓から見えた校庭に出る。


 校庭には、いくつもの土でできた家のようなものが並んでいる。

 どうやって作ったんだろう。


 家に近づき壁を触ってみる。

 とても硬く、コンクリートのようだ。

 それに、手が汚れていない。


「これは、魔法か?」


 これをできそうなのは知っている魔法の中だと『土属性魔法』。

 多分桐崎さんの他にも魔法を使える人はいるんだろう。


 ポケットにしまった適性の巻物を取り出す。

 文字は消えていなく、俺の使える魔法が書いてあるのみ。


 ゴミ箱はどこだろう? この巻物はもう用済みだ。

 処分してもいいだろう。


 校庭を歩き回っていると、ゴミ箱を見つけた。


 中には特に何も入っていない。

 入っているとしたらお菓子の包装くらいだ。


 何も買わなくなった今じゃゴミはあまり出ないんだな。

 ペットボトルの方のゴミに至っては空である。


「それにしても、デカイよなぁ」


 巻物をゴミに捨て、空を見る。

 ここからだと、塔はとてもすぐ近くに見える。


 これからあそこに行って安全を確認したら、塔の中に避難所を作ってそこを拠点にする。

 そういえば、塔の中は雪とか降るんだろうか?

 ここだと毎年たくさんの雪が降るから、塔の中は降らないで欲しい。降ってしまったら凍死者が出そうだ。


 校庭を見る限り、塔の中に行っても移住空間には苦労しなさそうだ。

 土魔法で家っぽいものを作ればいいしな。

 それに、土魔法で一応塀も作らないといけない。


 そう考えると、こんな時土魔法って便利だな。


「そういえば、あのオーガって倒してないけど俺にも経験値入ったのかな?」


 ステータスを見る。

 どうやら、俺にも経験値は入っていたみたいでレベルが3上がっている。

 俺で3ということは、桐崎さんは一体どれくらいもらったんだろうか?


 レベルアップで得た『SP』をステータスに振る。

 主にあげる項目は攻撃力、防御力、素早さ……そしてHPだ。


 完全に近接戦闘系になってしまった。

 それにしても、そう考えると俺の適性魔法とは相性が良かったのかな。


 魔法系の職でもないし、ステータスだって魔法向けじゃない。

 ただMPが高いだけだ。


 『JP』がレベルアップに必要な分集まっている。レベルアップさせておこう。

 これで、全ステータスにプラス15の補正だ。これはかなり大きい。



 ステータスを振り終わり、塔を見る。


「この後、何も起こらなければいいな」


 その俺の呟きは、突然吹いた突風によって掻き消された。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る