第29話 道中魔法講座


 あれから、俺は時間を校舎を見て潰したりステータスを見て潰したり……自分なりに魔法を試そうとして時間を使った。


 時間は午後二時五十分。

 もうそろそろ出発の時間である。


「それじゃあ、出発しますか」


 桐崎さんが腰に携えている刀に手を置き、そう言う。

 周りを見ると、ここにいるメンバーは今日ここにきた中学校組六人。そして、小学校組は桐崎さんと若い男の人たち……といっても、俺よりも上の人たちが三人で計十人だ。

 桐崎さん以外の武器は、鞘がないのでほとんど抜き身の状態。

 鞘が欲しいものだ。


 桐崎さんが出発の合図をし、ゆっくりと俺たちは進んでいく。

 この集団の先頭を歩くのは、我らがリーダー今野さん。


 その最後尾には、俺と桐崎さんが着いている。

 今野さんは、戦闘でたくさんモンスターを狩ろうと気合十分だ。


「さて、私たちは魔法の練習をしましょうか」


 後ろをゆっくりと着いていきながら桐崎さんが言う。

 といっても、歩きながら魔法の練習なんてできるのだろうか?


「えー魔法を使うために必要なことは、率直に言うと『イメージ』です」


「イメージ?」


「はい。やりたいことをイメージし、それを実行しようと強く願う……簡単に言うと、それだけで魔法が使えます……ちなみに、ソースは私です」


 イメージ……イメージか。

 俺の適性は『時空間魔法』。

 文字通り、『時、空間を支配する魔法だ』。


 この魔法なら、多分その気になれば時を止めたりもできるんだろう。

 そんな魔法だ。


「とりあえず、イメージですね」


「はい、この方法を試しに避難していた方に一つ巻物を渡してみたところ『土属性魔法』だったんですよ……それで、結果はあの小学校の校庭です。あの魔法のおかげで野外に家を建てることができました……まぁ魔力を考えて約一時間に一軒のペースだったんですが、仕方ないでしょう」


 そうなのか……通りで校庭に家が複数立っているわけだ。

 でも、家自体は一軒建の小屋のような感じだった。それで一時間か……普通に立てるよりは早い。


 俺の魔法でできることは時を止めたり、桐崎さんのように転移すること。

 転移の部分は『空間』の部分に入るのだろう。


 最初の魔法のイメージとしては『転移』をやってみよう。


 イメージは桐崎さんの背後に回るイメージ……イメージ……イメージ。


 イメージした。次は強く願う? どうすればいいんだ?


「桐崎さんって魔法発動する時どんなふうに発動してますか?」


 魔法の発動の仕方がわからない!

 イメージはできる。だけど、肝心の発動が出来なければ意味がない。


「そうですね……強く願うって言うよりも、『その事象に対して最も近しい言葉を言う』ですかね? 私だったら魔法を使う時小声で『転移』と呟いています」


 なるほど、その魔法名を呟くことによって発動するのか。

 でも、人と戦う時があれば魔法名が耳に入るんじゃないか?

 口パクとか、練習しておこう。


 それよりも、まずは転移だ。

 桐崎さんの背後に回るようなイメージをして……呟く。


「『転移』」


 視界が一瞬にして切り替わる。

 そして、身体から前にも感じた『何かが抜けていく』ような感覚が俺を襲う。


 もしかして、前に感じた早く動けたような感覚があったあの時って、魔法を使っていたのか?

 多分、分類は『時』のほうに入るだろう。俺の感覚……いや、全部を加速させたのか?


「成功してしまいましたね」


「しましたね」


 桐崎さんが振り向く。

 その顔は、なんか呆れている。


「私は何回かやってやっと成功したんですが……あれですね。私教えるの上手いですね」


「はは、そうですね」


 自画自賛か! 俺の才能じゃないんか! まぁ、教え方がうまかったのは同意だけど。

 でも、これで転移という魔法を使えるようになったな。


「ところで、『MP』の減り具合はどうですか?」


 そういえば、魔法を使うには『MP』を消費するんだったな。

 ステータスを開いて消費を確認する。


「5だけ減ってますね」


 『MP』が100あったものが95になっている。

 この計算だと、転移を連続20回はできるということだ。


「三神くん。『MP』や『HP』といった消費してしまう項目はステータスを見なくてもわかりますよ」


「え、そうなんですか?」


「はい、『HP』などを見たいという風に意識してみてください。視界の邪魔にならなそうな右端にでてきますよ」


 意識して、視界の右端を見る。

 本当だ……中に浮かんでいるように右端部分に



HP:30

MP:95



 といった風に見えている。

 これはとても便利だ。


「見えましたか? これでわざわざステータスを見なくて大丈夫ですね」


「そうですね、ありがとうございます……ッ⁉︎」


 前方で、爆発音がした。

 すぐに前を向いて、何が起きたか確認する。


 『気配察知』には、強そうなモンスターの反応なんて全くなかった。

 だけど、なんで爆発音が?


 爆心地は、土埃で見えない。

 『気配察知』には、あの中にいるのは今野さんだけ。

 一体、何が起きたんだ?


「ゴホッ! ゴホゴホッ……あー、口ん中が土の味する……」


 土煙の中から今野さんが出てくる。

 身体を見る限り怪我はしていない。

 だが……とても土で汚れている。


「今野さん! 何したんですか」


「あぁ、冬哉……これはな……なんかできた」


 土埃が消える。

 そこで明らかになったのは、先ほど今野さんがいた部分が直径五メートルくらいコンクリートが剥がれ、穴が空いているということだ。


 これは……普通のステータスではないな。

 どうやったんだ?


「今野くん……『MP』は減っていますか?」


「そうだな……3減ってるな」


 『MP』が減っているということはこれは魔法か?

 俺とは違って、単純に破壊力に特化した魔法のようだ……。


「これは……魔法ですね」


「これが魔法だって? 確かに少し身体から力がぬけたような感覚がするが……そうか、これが魔法か」


「おかしいですね……今野くんには魔法の説明なんてしてないはずなんですが」


 桐崎さんが呟いたことに、俺は単純に驚いた。

 てっきり、今野さんも魔法のことについて教わっているものだと思っていたからだ。

 でも、今野さんは自力でたどり着いた。

 とても、すごい。


「今野さん、どうやってこれやったんですか?」


「ん? あぁこれな……どうやったって……こうやった!」


 そういって、今野さんは近くの塀に蹴りを放った。

 その蹴りは、特段早いわけでもなかった。


 しかし、その蹴りは見事に塀に直撃し、粉砕した。


「うん、蹴りでも使えるな……んで、どうやったかというと、ギュッて貯めてバッてやった! それだけだな」


 うーん。今野さんは感覚派の天才か。

 教えることが苦手なタイプか。


 そう考えながら進んでいると、もう塔のすぐ近くだった。

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