エピローグ
雨が降っている。
雨は赤く染まった地面を洗い流すかのように強く、地面を叩いている。
そんな中、俺は瓦礫が高く積まれた場所に一人。佇んでいた。
周りには赤く染まったコンクリートと、ゴブリンたちの死体がゴロゴロと転がっている。
あれから、俺はゴブリンの群れと戦いながら生存者を探した。
けれども、誰一人と見つからない。
左手にずっと握っていた髪のゴムを掌を開いて眺める。
これを持っていたゴブリンはすぐに倒した。
だが肝心の梨花さんはどこにもいない。
このゴムを見ていると、『先輩!』と梨花さんが俺を呼ぶ声が記憶の中から掘り出されていく。
梨花さんに、「行ってきます」言い忘れたな……。
ここを離れて1日も経っていないのに、もう随分と昔のことのように思えてしまう。
『だって、先輩は私の……私だけのヒーローじゃないですか』
不意に、梨花さんの言葉を思い出した。
あの時、梨花さんは落ち込んでいる俺を助けてくれた。
ビンタもくれた。
そして……
『大丈夫ですよ、先輩。私は……私だけは先輩の味方であり続けますから……例えこの世界の全ての人から非難されても、私は先輩からずっと離れませんから』
その言葉ほど、俺を元気にしてくれた言葉はない。
俺はその言葉で、完全に立ち直ったし『刃物恐怖症』にも頑張って打ち勝てた。
そのおかげで、今の俺がいる。
だが、俺を『ヒーロー』と言ってくれた梨花さんは、もういない。
折角、強くなった。
梨花さんを守れるだけの力をつけた。
それなのに……俺は、梨花さんを守れなかった。
左手に持った髪ゴムを握りしめ、それと同時に右手に持ったナイフもミシリと小さく音を立てる。
そんな中、俺は雨が降りしきる空を見上げ呟いた。
「なぁ梨花……俺はこれから……どうしたらいいんだ?」
守りたいと思った人を、守れなかった。
強くなる理由も、なくなった。
俺は、この先何を目指して生きていけばいいというんだ?
だがその呟きは、血塗られたアスファルトを叩く強い雨音によって消し去られた。
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