第11話 惨劇
昨日と同じ道を慎重に周りを見ながら引き返す。
道路には、昨日以上に服が散らばっている。
一体、この道路に散乱した服はなんなんだろう?
そう思いながら、俺たちはおじいさんの家に向かう。
「梨花さん……ストップ」
後ろを歩いている梨花さんを手で止める。
止めた理由は簡単だ……目の前に、モンスターがいる。
目の前にいるのは緑色の身長が小学生くらいの醜い顔の小人。
そいつが一体地面の真ん中にのんびり座っていた。
「梨花さん。あれ、一匹だけど戦ってみる?」
あいつが強いかどうかはわからないが、多分弱い。
これで強かったら衝撃的だが、それは多分ないだろう。
「あれは……ゴブリン……ですかね?」
梨花さんが呟いた名前に、俺は心当たりがある。
よく、ファンタジーで登場する名前だ。
「ゴブリンですか……」
「多分、先輩なら勝てますけど……どうしますか?」
それを聞いて、俺は昨日最後におじいさんから言われた言葉を思い返していた。
『冬哉よ……お主はまだ若い。この先いろんなことがあるじゃろう…………だが、忘れるでないぞ。こんな世界になったからには、人は死ぬ。簡単に死ぬんじゃ……だから、お主は強くなれ。強くなり、守りたいと思える存在をしっかりと守るのじゃ』
「強くなれ……か」
右手に持ったスコップを、俺は握りしめる。
強くなるためには、まずはモンスターを倒さないとな。
幸いかどうかはわからないが、俺には『人殺し』などという不名誉な称号がある。
だが、それのおかげで俺は人型の生物と戦う時、ステータスに補正がかかる。
今やらずにいつやるって言うんだ?
「梨花さん、少し荷物を持っててくれませんか? あと、もしもの時のためにこれを……」
そう言って、背負っているバックを梨花さんに預け、サイドポケットに入れている包丁を梨花さんに預ける。
少し心許ないが、無いよりかはマシだろう。
「分かりました。怪我はしないでくださいよ?」
そう言って心配そうな顔を向けてくる。
大丈夫。これくらいで怪我をしていては、モンスターに敵わない。
スコップを右手でしっかりと握りしめ、俺はゴブリンを見る。
あいつは今、こちらに気づいていない。
今がチャンスだろう。
「行ってきます」
俺は梨花さんに一言そう言って駆け出す。
周りには他にモンスターの影はなし。
このまま一対一でケリをつける!
ステータスを強化したことによって片手で持てるようになった鉄製のスコップを、右手で持ち手の先端を持ちながらゴブリンに接近する。
十メートル近くあったゴブリンとの距離を直ぐに縮め、あと少しのところでゴブリンは俺に気づく。
急いで立ち上がったゴブリンの手には錆びたナイフ。
リーチでは圧倒的に俺が有利……!
スコップの持ち手先端ギリギリを持って走っていた俺は、ゴブリンを目の前にして急停止。
右手に持っていたスコップは、腕を鞭のようにしならせ、そのまま慣性の法則でゴブリンの元に円を描きながら接近し、ゴブリンの頭をスコップの側面で殴打した。
「ふぅ……!」
短い距離を走っただけなのに息切れがすごい。
ゴブリンを見てみると、頭から血が流れているが、かすかに息がある。
スコップを両手で握り直し、スコップの先端。尖っているところでゴブリンの首目掛けて振り下ろした。
手に柔らかいものを無理やりすりつぶしたような感触が残っている。
だが、不思議と精神は大丈夫だ。
これがスキルで取った『精神強化』の効果なのか?
《レベルがアップしました》
頭の中に声が響く。
今の戦闘だけでレベルが上がったようだ。
今は道路の真ん中にいるから、後で影に隠れながらゆっくり見よう。
そう考えていると、目の前のゴブリンの死体に変化が起きた。
「灰になってる?」
段々とゴブリンの身体はボロボロと崩れ、粉になって空中へと舞っていく。
そして、その死体があった場所には紫色の半透明な歪な形をした石と、ゴブリンが持っていた錆びたナイフが落ちていた。
「先輩。怪我はありませんか?」
紫色の石を拾って手に持っていると、梨花さんが後ろから近づいてきた。
「あ、あぁ怪我とかしてないよ」
「そうですか、よかったです……ところで、その手に持っている石はなんですか?」
ほっとしたように梨花さんが胸を撫で下ろす。
そして、俺の手に持っている石に気付いた。
「これな……ゴブリンを倒したら本体が消えてこれが出てきた」
「なるほど……俗に言う『魔石』ってやつですね」
いや、知らんけど。
『魔石』がなんなのかは知らないが、まぁ一応持っておくか。
何か使えるかもしれないし。
「じゃあ、これ梨花さんが持っておいて」
「え? あぁ分かりました」
魔石を梨花さんに預けて俺たちはおじいさんの家に向かって進む。
後少しで、おじいさんの家だ。
「着きましたけど、これは……」
おじいさんの家に着くと、そこは来た時よりも変わっていた。
建物が丸々変わったとかではない。
家の周りに、たくさんの服が落ちていたのだ。
そのたくさんの服は、全て血が付いている。
ここで、一体何があったんだ?
「モンスターはいないし、地下室に行ってみようか」
昨日、地下室に入った時に使った入口のある場所にやってきた。
昨日入った入り口の扉は開いており、中から何かが腐ったような匂いと血の匂いが混ざりあってひどい匂いがしている。
「行きましょう」
梨花さんが真剣な顔でそう言った。
それに頷くと、俺はスマホを取り出しライトをつけ、下に降りていく。
階段もたくさんの服で埋め尽くされていたので、滑らないように、慎重に降りていく。
「開いてる……」
地下室の扉が完全に開放されている。
中を除くが、誰もいない。
あるのは、無数に散乱している服のみ。
「先輩……これって……」
その部屋の中に、梨花さんが入っていく。
そして、一箇所に座り込み、一枚の『とある服』を俺に見せてきた。
「その服って……」
その服には、見覚えがある。
昨日、それを見たばかりだ。
「おじいさんの、昨日着てた服じゃないか……」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます